くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「崖上のスパイ」「対峙」

「崖上のスパイ」

一級品のサスペンスという謳い文句通り、丁々発止に展開する騙し合いとスパイ戦の面白さを堪能させてくれますが、潜入する四人のスパイチームの人物関係や背景をあそこまで設定する必要があるかはちょっと疑問で、結局、そのドラマ部分がなおざりになってぼんやりしたままになった仕上がりなのは残念です。とは言っても同じような登場人物を見事に描き分けていく手腕はさすがと言えます。監督は張芸謀(チャン・イーモウ)

 

1934年冬の満州国の森を俯瞰で映す。パラシュートで四人のスパイが森に舞い降りるところから映画は幕を開ける。彼らの任務は日本軍の秘密施設から脱出したシエ・ズーロンを無事国外に逃亡させ、日本軍の非道を世界に知らしめる「ウートラ計画」を遂行することだった。

 

リーダーのチャン・シエンチェン以下ワン・ユー、シャオラン、チュー・リャンの四人はチャンとシャオランの第一班、ワンとチューの第二班に分かれてハルピンを目指す。しかし、特務警察では、拷問の末寝返った共産党員が「ウートラ計画」で潜入してくるスパイチームについての情報を特務警察のガオ課長に流していた。ガオ課長は、特務警察に侵入しているらしいスパイを探りながら、「ウートラ計画」阻止に動き始める。しかし、特務警察にはあらかじめジョウ・イーという潜入者がいた。

 

ハルピンに潜入した第一班だが、チャンは特務警察に捕まってしまい拷問を受ける。ジョウの手助けもありなんとか脱出しようとしたものの、結局、再度捕まってしまい、幻覚剤を打たれてシャウランの連絡手段を言わされてしまう。しかし、ジョウはガオ課長にスパイ容疑をかけられ疑われているジン・ジーダーを巧みに使って、シャオランに危険を知らせる。

 

一方第二班は、仲介者で出迎えたシャオモン、ルー・ミンと共にハルピンのホテルに到着したが、移動途中で、特務警察の一員だとチャンが暗号で伝えるが、シエに書き換えられて伝わってしまう。しかしワンの機転で見破り、ジョウの助けもあって、ルーとシャオモンを欺くことに成功する。

 

こうして、特務警察のシャオロン捜索が大詰めとなり、ジョウの巧みな戦術の中、特務機関とワンらスパイチームとのハルピン内でのカーチェイスが展開される。その銃撃の中で、スパイチームは次々と命を失い、それでもシャオランはジョウの手助けもあり、無事「ウートラ計画」の遂行に成功する。というか、シエ・ズーロンは行方不明というセリフが前半に出てくるが、いつシャオロンと彼が合流したのかがあまり描かれていない。ジョウを疑っていたガオ課長も、ジョウがジンに疑いがかかるように仕掛けた本のトリックでジンがスパイだと信じ込みジンを射殺し、ジョウへの疑いを晴らす。

 

シャオロンはシエを無事国境の外に逃すことに成功し、ガオ課長もしばらく潜入スパイの捜索も中止し、「ウートラ計画」阻止は終結したと判断して一段落する。チャンとワンの子供二人がホテルの前で物乞いしているのをジョウらが連れだし、ワンの元に届けて映画は終わる。

 

所々詰めが甘い展開が散見されるが、雪の場面を美しく描く映像作りは見事だし、スパイ合戦のエンタメ性も十分、アクションシーンも上手いのですが、どこか仕上がっている核の部分がくっきりと見えないので全体が平坦な作品に仕上がった感じです。もっとばっさりストーリーを整理した方が良かったのではないかと思います。

 

 

「対峙」

銃乱射事件の加害者と被害者の両親が一部屋に集まって交わす会話劇。やりたいことはわかるのですが、いかんせんキリスト教徒ではない私には言わんとすることが直接迫って来ない。といって、映画としての映像の面白さや会話劇の展開の面白さがあるわけでもない。冒頭のこれ見よがしのインサートカットの連続が、結局意味をつかめなかった。変わった映画というだけの作品に思えました。監督はフラン・クランツ。

 

教会の事務をしている女性が何やらたくさん買い込んで帰ってくる場面から映画は幕を開ける。六年前の高校での銃乱射事件の加害者と被害者の両親がこの教会の中の一室で話をするというのをそういう仕事をしている女性が段取りしたらしい。やたらそわそわして張り切る事務の女性に、企画した黒人の女性が的確にまとめる。やがて、被害者の両親、ジェイとゲイルがやってくるが、妻のゲイルは一旦教会を通り過ぎて欲しいと言う。そして意を決して教会にやってくる。

 

間も無くして加害者の両親リチャードとリンダもやってくる。四人は一室に案内され、企画した黒人の女性も出て行って四人だけになる。リンダは花を持ってきていてゲイルに渡す。気まずい雰囲気から、まずはゲイルが息子の写真を見せる。こうしてお互いにさりげなくそれぞれの息子の思い出の何かを話題にし始める。しかし、時に辛辣な言葉が出るようになり、感情的なやり取りも増えてくる。ジェイはついリチャードらを非難するようになるが、一方リンダも苦悩してきた経緯を話す。そして四人の会話は時に感情的になって思いの丈を話し終え、それぞれが静寂を求めて会話は終わる。

 

先にリチャードたちが帰り、ゲイルたちは教会の事務の女性に挨拶をしていると、翌日のための讃美歌の練習の声が聞こえてくる。そこへ先に帰ったと思っていたリンダが戻ってきて、息子がおかしくなり直前の姿を赤裸々に告白して、自分の行動を後悔し、ゲイルと抱き合う。そして讃美歌の声をじっと聞くゲイルたちの場面で映画は終わる。

 

なんとも感想を書けない作品で、宗教的な結末はなんともしがたく、こういう会話劇もありという感じの映画でした。