くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「女は抵抗する」「滝の白糸」(島耕二監督版)「あの日のよう

kurawan2015-08-31

「女は抵抗する」
父の後を継いで芸能プロダクションを立ち上げた若尾文子扮する主人公が奔走する姿を描くたわいのないお話ですが、この時代の映画の楽しさというのは、独特のムードがあって面白いですね。

モデルになる女性渡辺美佐も想像できる一本ですが、あまりにも若き日の坂本九ザ・ピーナッツなどなど、自分の生まれる前のひと時代前の芸能人の姿を見られるというレア映像の面白さも満喫できる作品でした。


「滝の白糸」(島耕二監督版)
ご存知、川口松太郎原作の文芸ものである。以前別監督の作品を見たことがあるので物語は知っていたので、今回は若尾文子の姿を見ただけ程度だった。

映画は特に秀でたものでもない、普通の作品で、セオリー通りの物語と、ハッピーエンドを迎えるラストシーンで、ストレートに感動してエンディング。

古き日本映画の一本を見たというノスタルジーに浸っての感想です。しかし、若尾文子は美しいですね。


「あの日のように抱きしめて」
一歩間違うと傑作になる一本でした。それほどのクオリティなのですが、いかんせん、中盤がちょっとしんどい。監督は「東ベルリンから来た女」のクリスティアン・ベッツォルトです。

映画は一台の車が国境に差し掛かったところから始まる。運転しているのは一人の女性レネ、警備兵に止められ、事情を話すと、隣に顔中包帯で巻かれた女性が乗っている。ドイツの収容所から生還したネリーである。

カットが変わり、病院で複顔手術を受けるが、完全に元に戻らない。やがて傷が癒えたネリーは夫ジョニーを探しに行く。

暗い街並みと路地を、喑影を多用した画面作りで浮かび上がるような存在で人物を描き、落ち窪んだようなネリーの表情を不気味に映し出す。

酒場でジョニーを見つけたネリーは、彼に近づくが、気がつかない。さらに、ジョニーは妻の遺産を相続するために妻になってくれと依頼するのだ。果たして、ジョニーに裏切られて捕まったのか、そんな疑念さえ浮かんでくる。 複雑な思いでその仕事を引き受け、言われるままに化粧をし、髪を染め、真っ赤な服を着る。当然筆跡もサインも瓜二つになるのだが、どこまでいってもジョニーは彼女が本物だと気がつかない。そのもどかしいほどの寂しさをことあるごとに見せるネリーの表情がいたたまれない。

やがてネリーの親族に会うことになり、その前に、腕に収容所の番号を消した後をつけようとジョニーはするが、洗面所に隠れ自分でしたように見せるネリー。

そして、みんなの前で、ジョニーのピアノで、「スピークロウ」を歌うネリー。最初はハスキーだったがやがて本来の声楽家の声が戻り始める。訝しげに見つめるジョニーの前に、袖がめくれたネリーの上に掘られた番号を見つけ、ようやく彼女だと気がつくのだ。

しかし彼女は、ジョニーを後に、部屋を出て、ピンボケのまま暗転エンディング。

いかにも、意味が深いというか、感性を最大限にしないと感じられない何かかがいたるところにある映画である。

親族がじっと見つめるラストのショットの意味ありげなカット。ネリーを連れ出したレネという女性の自殺のエピソードなどなど、散りばめられるシュールな場面が、映画としての省略の面白さを観客に投げつけてくるのだ。

ただ、その曖昧さが、ラストシーンよろしく、ぼんやりとしすぎた感があり、それが後一歩傑作に成り得なかった気がします。本当にクオリティは高いのですが、ドイツ映画らしい独特の陰惨さが前に出すぎた感じの一本でした。