くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「風のある道」「マンハント」「最後の切り札」「緋色の街

kurawan2016-04-27

「風のある道」
川端康成原作であるがあ、いかにも日活青春映画という感じの仕上げが施されているのは、どこか懐かしささえ覚えてしまう一本。でも、この空気がたまらなく心地いいし、映画としての出来栄えはなかなかのものだった気もします。監督は西河克己です。

長女恵子の結婚式の場面から映画が始まる。来る途中で犬をひいてしまった次女の直子は、遅れて式場に到着。直子には芸術家の家元の息子光介との結婚が控えている。しかし、どこか煮え切らない直子。

そんな時、孤児の面倒を見ている施設の青年甚吉と知り合う。実は、甚吉は直子の母が若きに日付き合っていた男性の息子であるということがわかり、物語は、大きく動き始める。

好青年の甚吉に少しずつ惹かれていく直子。様々なエピソードの後、甚吉はブラジルに行くことになる。一方光介は直子を伴ってアメリカに行こうと誘う。そして出発の日、直子は、空港へ行かず甚吉の乗る船が待つ横浜へと向かう。そして、それを応援している直子の父。過去の後悔を娘に味わわせたくない直子の母の思いが、全てを丸く収めていく。

たわいのない作品だが、歌謡曲を挿入するいかにもな演出手法で描く西河克己の手腕は、この物語を独特の色合いで染め、ラストシーンを締めくくるのはちょっといい感じである。名作とかいう類ではないが、一時代の日本映画の姿を見たような気がしました。


マンハント
フリッツ・ラング監督のフィルムノワールの傑作。確かに面白い。霧にかかるロンドンの景色に浮かぶ街灯のショットや、影を多用した映像表現が秀逸な一本でした。

一人のイギリス将校アランが、森で銃を構えている。彼方に見えるのは、なんとヒトラーである。しかし、彼はスナイパーでもなんでもない。ただ照準を合わせ、引き金を引いてみる。しかし弾は入っていない。しかし、何を思ったか、弾を装填し、もう一度狙ってみる。撃つ気は無かったのだが、ドイツ将校に見つかり、狙撃手と勘違いされて取っ組み合いになったために銃弾が発射されてしまう。そしてヒトラー暗殺未遂の犯人として、親衛隊から追われる身になるアラン。

途中、一人の女性に助けられ、恋に落ち、追ってくるドイツ親衛隊たちを巻きながら、森の奥に逃げ込むが、恋人のジェーンは捕まる。

やがて、彼女のメモからアランの居所がばれ、追っ手がやてくる。そして、ジェーンが殺されたことを告げられる。その証拠がアランが彼女に送った矢の形をした帽子飾り。アランは、それを弓に加工し、外で待つ追っ手を射殺し、脱出。

やがて、第二次大戦が激しさを増し、志願したアランはドイツ上空で、一人の適地へと飛び降りる。手にしているのは、精巧な銃。恋人を奪われた復讐なのか、平和のためか、敵地に降りていくアランの姿でエンディング。

霧と夜、そして影、ランプ、見事なほどの構図の見事さに唸ってしまう一本で、ちゅうばんは恋愛映画色が強いし、終盤の戦争場面に時代を感じさせる映画ですが、さすがにフリッツ・ラングの手腕が光ります。見事な映画でした。


最後の切り札
フランス映画のフィルムノワールの一本。監督はジャック・ベッケルである。

次々と展開する小気味よいストーリー展開と、張り巡らされる伏線の数々、次々と入れ替わる人物に最初は翻弄される。もう少し、ストーリーが整理されていれば、最後までどんどん引き込まれるのだろうが、ちょっと、込み入りすぎた構成が、途中で間延びに見えてしまった。でも相当面白い映画だった気がします。

警察学校の同期で、射撃の腕で競っている主人公クラランスとセントスの場面から映画が始まる。

成績優秀な二人は、どちらが首席か甲乙つけがたくなる。そんな二人に事件捜査の依頼を任せる。

ホテルの一室で、一人の男が撃たれて死んでしまう。コリンズという男だが、実は本名アマニトといって、犯罪者ルディの相棒。この犯人探しと、巧みに盗んだ大金の行方をめぐっての丁々発止のストーリー展開が展開していく。

クラランスもセントスも頭が切れるために次々とルディを煙に巻きながら、伏線を仕掛けていく様は実にスピーディだが、いかんせん、ハイスピードについていくのが疲れる。

クライマックス、ルディを逮捕するくだりあたりになると、さすがに眠気が襲ってきたのが残念。

エピソードというか、伏線を組み入れすぎたためか、非常に時間が長く感じるあたりもあり、もう少し、思い切ってそぎ落し、シンプルに仕上げれば相当な傑作になりそうな映画だった気がします。確かに、面白かったですが、これがフランスノワールの色なのかもしれませんね。


「緋色の街 スカーレット・ストリート
フリッツ・ラング監督アメリカ時代の傑作、という解説通りのみごとな一本でした。

光と影の使い方、夜の街の構図、人物のステロタイプな描き方、全く圧倒されます。

実直な出納係のクリスが25年の勤続を祝ってもらい、社長から記念の時計をもらうところから映画が始まる。ただ小心者の生真面目だけのこの男、宴が終わると、社長は愛人らしい女性と切るまで去るのを、じっと見るクリス。

その帰り、男に襲われている一人の女性キティを助ける。実は襲っていた男は恋人のジョニーなのだが、知る由もなく、クリスはほのかな恋心をキティに抱く。そして、食事をしたりしながら、うたかたの恋に溺れ始めるが、このキティは性悪女で、ジョニーと組んで、金づるにクリスを利用し始める。

クリスはというと、五年前に結婚した妻とは全くうまくいかず、家庭でも蔑まれているだけなので、キティに言われるままにカネを出し、アパートを借りてやるのだ。

いかにも好かない男ジョニーと、そんな男を愛するバカ女のキティに対して、ただただひたすらにキティへの夢を求めるクリス。絵を描くのが趣味で、妻はバカにして捨ててしまえというばかりで、キティに借りたアパートをアトリエにしていた。しかし、置いてある絵を、ジョニーが売るために、街灯に飾ったところ著名な評論家に目に止まり、一気に売れたことから、どんどん物語は転がり始める。

キティが描いたと嘘を言うジョニー、それを許すクリス。そんなある日、クリスの妻の元夫で、死んだと思われていた男がクリスの前に現れる。揺すってきた男を巧みに利用して、妻に再会させ、自分は家を出る。しかし、キティのアパートに行ってみると、キティとジョニーがキスをしていた。ジョニーが出た後クリスはキティに詰め寄り、キティに悪態をつかれて、クリスはアイスピックで、キティを殺しアパートを飛び出す。

しかし、入れ替わり戻ってきたジョニーが殺人犯として捕まる。一方クリスも、会社の横領がばれて、クビになる。

やがて、ジョニーは死刑になるが、クリスは罪悪感で、キティやジョニーの幻聴を聞くようになり、ホテルで自殺未遂までする。ホームレスのようになったクリスが夜の街をトボトボ歩く姿でエンディング。

ジョニーが酔っ払ってキティのもとに帰ってくるときのドアガラスに映る影、それと入れ替わるクリスの陰影など、見事な映像演出を見せるし、夜の街で歩くクリスを低いアングルから捉える構図も見事、これこそフリッツ・ラングの映像世界である。