くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ニューヨーク眺めのいい部屋売ります」「サウルの息子」

kurawan2016-02-15

「ニューヨーク眺めのいい部屋売ります」
無難に作られた映画ですが、ところどころに配置された時事ネタが、ちょっと鼻についてくるのが気になる映画でした。監督はリチャード・ロンクレインです。

老齢を迎えている画家アレックスが、これまた老齢の犬ドロシーと我が家に帰ってくるところから映画が始まる。彼とその妻ルースが住むアパートはエレベーターがなく、高齢な身には堪えている。近くでテロ騒ぎがありニュースが次々とその様子を伝えている。

犬のドロシーが腰の病気で入院することになったこともあり、友人のリリーに頼んでアパートを売り、楽なところへ転居を考えた。物語は40年の彼らの幸せな結婚生活を交互に描きながら、今のアパートでの生活の歴史を描いていく。

新しい物件を物色する中で出会う、ちょっとおませな少女の存在など、スパイスになる脇役もうまく配置し、軽いタッチで描いていくが、ことあるごとに、テレビニュースでテロの顛末が描かれていく。そして、新しい住処を見つけ、契約しようとした場所で、テロの犯人のイスラムの青年が捕まった映像をテレビで見て、普通の青年であるところを映して、契約を取りやめる。

アレックスとルースの夫婦も白人と黒人ということで、結婚しようとした頃にはまだまだ差別が厳しかったことやら、ルースが妊娠できない体とわかった頃のエピソードなども取り込まれ、ほのぼの描かれる一方で、テロの模様が語られる。確かに、メッセージ性を持っているように思われるが、ここはニューヨークという町の描写の一つであり、これもまたニューヨークの景色なのではないだろうか。

結局、転居をやめ、夫婦は元のアパートへ。ドロシーも回復して元気に過ごすようになりハッピーエンドである。

オープンハウスにした途端に、様々な人物が内覧に訪れる。そこに描かれる人々の風景がある意味面白いのですが、ここがやや弱いために、テロのニュースが目立ちすぎてしまった感じです。
ニューヨークブルックリンの人々の個性と、様々に起こる出来事という景色の中で生きてきた夫婦の40年の物語をたわいない展開で素直に描いた作品だと私は感じます。ただ、もう少し脇役の存在感を際立たせれば面白い出来栄えになったのではないかと思います。


サウルの息子
新人監督にして、カンヌ映画祭グランプリを取った作品を見る。
なるほど、確かに優れた作品である。時折カットの切り返しがあるとはいえ、ほとんどが長回しの延々としたワンシーンワンカットで撮影されていて、全く緊張感が途切れない。監督はネメシュ・ラースローという人である。

スタンダード、ピンボケの映像から映画が幕をあける。1人の男が、ピントの合うところまで歩いてくる。彼はサウルという名前で、ゾンダー・コマンドである。ゾンダー・コマンドというのは、ナチスの収容所で、送られてきたユダヤ人の死体処理をする囚人で、数ヶ月後に殺戮されることになっている。

やってきた捕虜をシャワー室という名の処刑部屋に送り込み、所持品を整理し、死体を処理する。ところがこの日、1人の少年がまだ息があるのを発見、なんとサウルの息子なのだ。間もなく殺され、解剖するように指示する声を聞くが、サウルは、正式に埋葬するべく、死体を持ち出し、ラビを探し始める。

延々とサウルを追いかけていくカメラは、恐ろしいほどの緊張感を生み、あちこちから聞こえるささやき声に字幕は入らない。この演出がとにかく恐ろしい。

サウルは、ゾンダー・コマンドがいずれ殺されることから、脱走計画が進んでいることを知りその計画に参加していく羽目になる。

ラビを探す物語と脱走計画が進む展開を長回しで描く演出に、一時も目を離せない画面は見事である。果たして、サウルが見つけた少年が本当に彼の息子なのかは明確に描写されるわけではない。異常な心理の中で、正気を保つための心の拠り所としてサウルが選んだ選択なのかもしれない。

この日、サウルらがいるゾンダー・コマンドも処刑の順番が回ってくる。ラビだと思われる男を助けるものの、実は、死にたくないために嘘をついただけであるのを知る。

そしてとうとう脱走計画がスタート、サウルは息子の死体を担いで、脱走に加わる。しかし、追い詰められ、川に飛び込むが、途中で死体は流される。 なんとか岸に上がり、数人の仲間と森の小屋に隠れる。しかし、そこを1人の少年は見つける。サウルはその少年と目を合わせ、微笑む。少年は走り去る。追いかけてきたナチスが小屋に発砲する音、彼方に走り去る少年、暗転エンディング。

またナチスものが賞を取ったかという感じではあるが、カメラワークのリズム感は見事なものがあると思います。評価されるにしかるべき感性を感じさせる作品ですが、さすがに、重い映画です。