「おとうと」
ほぼ30年ぶりくらいで見直した。銀残しという現像法で有名な市川崑監督の傑作。今回はデジタル復元版である。
本当に久しぶりでしたが、あちこちの名シーンは覚えていました。いやそれより、こんなに素晴らしい映画だったのかと改めて驚いてしまった。
もちろん、渋みのある独特のカラー映像の素晴らしさはもちろんですが、ピシッと決まった構図の美しさ、光と影を効果的に作った映像など、どこを取り上げても素晴らしいし、なんといっても、男勝りで、啖呵を切る岸恵子が惚れ惚れするほどかっこいいのだ。
雨の中、おとうとに傘を届けようと走る岸恵子、こうもり傘の中、向こうにずぶ濡れの川口浩というオープニングから、差し込む光で陰影を作る自宅内のシーン、田中絹代の顔を照らす明かりなど、ため息が出てしまいます。
若さゆえに無茶を繰り返すおとうとに、献身的に面倒を見る姉、子供達に無頓着な父、リュウマチという負い目からややひがんだ姿の母、それぞれの人物の色分けも見事で、たわいのない話なのに、画面に釘付けになります。
クライマックス、結核で死んでいくおとうとを看病する姉の姿、弟の死でその場で気を失った姉は、病院の宿直室に運ばれるが、気がつくと、条件反射のようにエプロンをして飛び出していくエンディング。全く、名作とはこのことである。本当に素晴らしい作品を見直すことが出来ました。