「リリーのすべて」
ぴちっと決まった構図と美しい北欧の色彩演出が抜群の映画で、その品の良さゆえに、物語がともすると、俗っぽくなるのを食い止める一級品の映画に仕上げています。監督はトム・フーパーです。
美しいデンマークの風景をバックにしたタイトルシーンが終わると、お互いに画家で、しかも仲睦まじいアイナ・ベルナーと妻のゲルダ・ベルナーのいかにも相思相愛の風のいちゃつく場面から物語が始まります。
アイナ・ベルナーは同じ風景の絵を繰り返し描き、ゲルダは肖像画を好んで描く。ある日、ゲルダのモデルが急に来れなくなり、代わりに女性の足の部分を描くためにアイナに依頼。ところが、女性のストッキングを身につけてポーズをとったアイナに、忘れていたリリーという女性の心がよみがえります。
さらに、パーティに呼ばれたベルナー夫婦がゲルダのアイデアでアイナに女装させて連れて行ったことでさらに拍車がかかっていく。さらに、アイナが名乗ったリリー・エルダの絵が認められ、パリの画商が代理人となるのだ。その過程で、リリーが幼い頃キスをされたというハンスと出会う。
実は、アイナは心と体が食い違っている病気で、今なら性同一性障害と呼ばれるものだったのです。
次第に女性として変わっていくアイナ=リリーに戸惑うゲルダだが、いつしか、夫婦愛より、アイナを助けるために奔走し始める。好んでゲルダを演じたアリシア・ピカンダーという女優さんが本当に可愛らしくて、クリッとした目がチャーミング。しかも健気なほどにアイナに尽くし始めるのだが、一方で、アイナがリリー・エルベという女性に変わっていくことで愛する夫アイナを失う寂しさを見事に演じていく。
アイナの幼馴染のハンスに出会うことで、少しづつ活路を見出すゲルダ。あちこちの病院を訪ねるも異常者としてしか見ない医師たちに戸惑い焦るアイナ。ところが、ドレスデンに、かつて性転換の手術をしようと試みたヴァルネクロス教授の存在を知り、アイナを彼に合わせ、手術をすることになる。
こうして、世界最初の性転換手術が行われるのだが、まずは切除する1回目と、膣形成の2回の手術がかなり危険が伴う。それを覚悟で、一回目の手術をするがなんとか成功。体力の回復を待ち、急いでリリーは2回目の手術に望む。しかし、負担が大きく、駆けつけたゲルダが徹夜で看病、翌朝、庭に出たいと言ったリリーを連れてゲルダは外に出るが、彼女の腕の中でリリーは息を引き取る。
ゲルダはハンスとデンマークに戻ってくる。そして、リリーが生前繰り返し描いていた湖のほとり、そして崖に立って遠く海を眺める。風が吹いて、ゲイルが首に巻いていた、リリーが気に入っていたスカーフが風に飛び去ってエンディング。
本当に美しい映像にうっとりするし、ズンと大胆に一点通しで描く構図なども斬新でスタイリッシュ。リリー=アイナを演じたエディ・レッドメインも見事な演技だし、アカデミー賞をとったアリシア・ピカンダーも素晴らしい。さらにハンスとを演じたマディアス・スーナールツという俳優さんも見事な存在感。ヴァルネクロス教授も良い。とにかく、バランスが非常に良い映画なのです。
これだけクオリティが高いと、一本見ただけで、数本見た充実感を味わえます。そんな秀作でした。