くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「薮の中の黒猫」「喜劇 男の泣きどころ」「喜劇 女の泣きどころ」

「薮の中の黒猫」

終盤がちょっと間延びして行く上に、ストーリーが、前半の展開、中盤の展開、終盤の展開と一貫性が崩れていく流れが気になる映画でした。特にクライマックスはただの怪談映画で終わった感がある。監督は新藤兼人ですが、ちょっと出来は良くない感じです。

 

藪の中の一軒の農家に野武士たちがやってくるところから映画は始まる。家の中には母ヨネと息子の嫁シゲがいた。野武士たちは飲み食いした後母と嫁を襲い蹂躙してしまう。野武士たちが去った後、家は燃えて、母と嫁は焼け死ぬが、そこに黒猫が現れ、母たちの生き血を啜る。

 

都の羅城門、夜、一人の武士が馬に乗って現れる。その武士は冒頭で農家を襲った野武士の一人だった。武士の前に美しい女が現れ、藪の中の家まで送って欲しいと頼む。女の家に上がり込んだ武士をもう一人、母という女が出迎える。武士は若い妖艶な女の色香に酔い、そのまま横になるが、突然女は武士の喉元にかぶりつく。夜な夜な羅城門で、武士が物の怪の女にかどわかされ殺される事件が相次ぎ、帝は武士の頭領頼光に退治を命ずる。

 

ここに北の戦で敵の大将の首をとった男は、薮ノ銀時と語って頼光の前に現れる。その武勇を見込んだ頼光は銀時に羅城門の物の怪退治を命ずる。銀時は羅城門に行き、女に連れられて物の怪の廬にやってくるが、物の怪の女たちは、母ヨネと妻シゲにそっくりだった。最初は退治するつもりだったが、次第に心が動かされ、夜な夜な廬を訪ねるようになる。そして物の怪のシゲと体を合わせるが、七日目の夜を最後にシゲの姿は消えてしまう。シゲの行方をヨネの物の怪に問い詰めると、掟を破って地獄に落ちたのだという。ヨネとシゲは世の中の武士の生き血を全て吸い尽くす代わりにこの世に蘇ったのだという。

 

頼光に再度命じられて、銀時はシゲの物の怪と廬に向かうが、途中で、物の怪に襲い掛かりその左腕を切り落とす。そして、祠にこもって七日間の憑き落としをするが、腕をも取り戻そうとする物の怪は、銀時に巧みに嘘をついて祠の中に入り、見事腕を取り戻し何処かへ逃げてしまう。銀時は無我夢中で刀を振り回し、やがて、かつての家の焼け跡で力尽きる。雪が深々と銀時に降り映画は終わる。

 

いつのまにかストーリーの方向性が変わって行く作品で、一見「雨月物語」の如く伝奇ドラマのような展開で進むが、いつの間にか、俗っぽい怪談映画に変わって行くチグハグさにあっけにとられる映画だった。

 

「喜劇 男の泣きどころ」

古き良き昭和の世界、たわいないプログラムピクチャーですが、肩の凝らないコメディは、そんな安直な物語も気楽に受け入れてしまう。これが映画の本当の醍醐味ですね。楽しいひとときを体験出来ました。監督は瀬川昌治

 

保安課に転任になった刑事木村が満員電車の中でとめというストリッパーの女と出会うところから映画は始まる。まさに昭和高度経済成長期の絵が楽しい。赴任先はポルノフィルムを取り締まる課で、課長らはヌードグラビアやブルーフィルムを見て半ば面白半分に捜査をしている。

 

堅物で真面目な木村は、最初から張り切って捜査を始める。それは行き過ぎに近く、ストリップ小屋などから噂にまでなる。この日、戦友たちの同窓会に出席した木村は、親友に近い戦友藤村と再会する。実は藤村はブルーフィルムを作っているプロデューサーで、保安課は、最近出回っているフィルムの黒幕を追っていて、実は藤村がその張本人だった。そんなこととは知らない木村は藤村と懐かしい話をする。

 

保安課のガサ入れで藤村を追い詰めようとするが、スンデのところで取り逃がしている課長らは警察の情報が漏れていると判断、木村は藤村の戦友であることを知り木村を疑う。木村は藤村の愛人でもあるとめを執拗に尾行し、藤村の行方を聞こうとすりがわからない。そんな頃、木村の妻は、子供が欲しいと木村に詰め寄り、木村もその気になるが、仕事のせいかインポになってしまう。

 

夫婦で温泉旅行でもして気持ちを変えようと出かけた温泉で、木村は藤村に出くわしてしまう。藤村は木村がインポで悩んでいると知り、またとめが木村に気があると知って、藤村は警察を辞めることを決意した木村を飲み屋に誘い、酔わせてわざととめの部屋に木村を泊めてしまう。

 

とめと木村は何もなかったものの、翌朝、木村は正常に戻り勇んで出勤、妻は妊娠し、藤村の取り調べをする木村の姿で映画は終わって行く。

 

たわいないながらも楽しい一本、中学生時代にはまっていた天地真理の曲や、ぴんからトリオのヒット曲などがやたら懐かしい映画でした。

 

「喜劇 女の泣きどころ」

痛快!名作傑作ではない普通のプログラムピクチャーの一本かもしれませんが、ちょっとした佳作という感じのいい映画だった。監督は瀬川昌治

 

剣戟の役者駒太夫の自殺騒ぎで、救急隊員の藤井らが駆けつけるところから映画は始まる。同じく、役者の竜子も自殺騒ぎを起こし、駒太夫、竜子、弥生が救急車で運ばれる。そして一年がすぎる。レズビアンショーで人気の駒太夫とモンロー=竜子は、かつて都会で人気だったが今はどさ回りで松江で興行していた。一方、救急隊を辞めて大阪で蕎麦屋でもしようとしていた藤井は、突然警察に呼ばれる。公然猥褻で捕まった駒太夫とモンローが引受人にたまたま知っていた藤井を呼んだのだ。

 

藤井は、蕎麦屋を開業するために貯めた金を、駒太夫らが壊した店の損害賠償に払わされ、仕方なく、駒太夫とモンローにストリップで稼がせて回収しようと、一時的なマネージャーに就く。しかし、天性の才能か二人の人気が上がり、しっかり金の計算をした藤井は短期間に立て替え金を回収してしまう。駒太夫らは藤井を正式にマネージャーに雇うことにして、三人でストリップ小屋周りをはじめる。

 

ところが、興行の途中で、駒太夫は、旧知の男と再会して二人の元をさってしまう。モンロー一人ではなかなか稼げないものの、藤井とモンローはいつの間にか夫婦暮らしのような生活を始める。そんな時、モンローが胆石で入院してしまう。一方、駒太夫は、男に振られ、酒に溺れていたが、飲んだ帰り弥生と再会する。そして弥生と駒太夫は二人でストリップを始めるが、その看板を見かけた藤井が楽屋に怒鳴り込み、弥生、駒太夫と再会する。

 

弥生の仲間の若手のストリッパーを巧みに使ったショーが人気になり、藤井はどんどん大きくなって行く。しかし、落ち目の駒太夫は、仕事が減って行く。ある時、仕事で出て行く藤井に駒太夫が縋りつき、そのまま一夜を過ごしてしまう。そのあと藤井と駒太夫は、いい仲になって、この日も酒に酔って酔い潰れてしまう。駒太夫は、自分の部屋を借りたばかりだったが、その部屋はなんと藤井とモンローが住んでいるアパートの部屋の向かいだった。

 

酔って、駒太夫の部屋に転げ込んだ藤井は、向かいが自分の部屋だと気がつく。しかも、退院したモンローが必死で貯めた金で冷蔵庫を買ったばかりだった。モンローと駒太夫は大喧嘩になり、最後には藤井を罵倒するが、藤井は、自分がこんな存在になったのはそもそも二人が原因だったと言い返す。確かにそうだと納得した駒太夫とモンローは返す言葉もなかった。藤井は出ていき、落ち込んだモンローは自殺しようとするが出来ず、駒太夫も裏の川におちてしまう。

 

太夫とモンローの仲は戻り、過去の知り合いに自殺したと連絡をして香典を集め車を買って、どさ回りをして回る姿で映画は幕を閉じる。

 

たわいない映画なのですが、二人のストリッパーの女たちの痛快ドラマに仕上がっています。藤井に部屋を与えられたモンローが、初めて部屋を持てたと喜ぶ姿には胸が熱くなってしまいました。財津一郎坂上二郎など時の人気のコメディアンらを効果的に使う余裕がまた楽しい一本で、思いのほか全体が心地よい人情ドラマに仕上がっているのがとっても良い映画でした。