くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「殺人容疑者」「大番頭小番頭」

kurawan2016-07-28

殺人容疑者
映画関係の役者を排除し、舞台劇の役者を使うことで、非常にリアリティのあるドキュメンタリー調の作品に仕上がっている。ある意味、映画全盛期で映画の俳優は映画の俳優と徹底されていた時代ゆえの演出と言えなくもない。監督は鈴木英夫である。

一つの殺人事件の現場から映画が始まる。地道な捜査と科学捜査の様子が丁寧に描かれ、一つ一つの証拠や、足で稼ぐ情報が積み重なる様子が、まるでドキュメンタリー映画を見るように綴られていく様は、独特の面白さがあります。

ドキュメンタリータッチと言っても、映画は映画なので、挿入される映画的なシーンがかえって際立つ効果を生み出して、緊張感が途切れないままに、クリマックスの逮捕シーンへつながる。

さすがに、地道な捜査が淡々と語られるあたりは、しんどくもないとは言えないものの、そのしんどさがまたリアリティにつながるというのも面白い。

デビュー作となる丹波哲郎のギラギラ感が犯人役に適役だし、刑事側の役者のいかにもな存在感も見事。この時代でこそできる映画といえばそう言える作品でした。楽しかったです。


「大番頭小番頭」
これはメチャメチャ楽しい映画でした。終始、微笑みなくして見ていられないほどに微笑ましいし、気持ちが陽気で幸せに溢れてくる。監督は鈴木英夫。始まってからラストまで、こんな楽しい映画の作り方があるもんだなと、惚れ惚れしてしまいました。難を言えば、池部良がミスキャストくらいでしょうか。広子役の若山セツ子という女優さんがとってもキュートで可愛いのも良かった。

映画は、安政時代から続いた老舗の下駄屋の新入番頭の採用面接シーンに始まる。いかにも形式ばった画面にまず惹かれる。主人公原野は大卒でここにやってきた。昔気質の大番頭に商売に身が入らない社長という店の中に飛び込んだ原野の奮闘から、やがて、考え直した社長が商売に身を入れる決心と、いつの間にか心を惹かれていた亡き兄の未亡人広子への恋が実る終盤が小気味良い。

もちろん、芸達者な役者たちが集った演技合戦の面白さもさることながら、妙にじめじめした展開を排除した陽気なストーリー構成も楽しい。カメラワークや演出にもそれほどこだわることなく肩の凝らない画面作りも見事。

突然歌い始める雪村いずみのキャラクター演出も楽しい。これが娯楽映画の真髄じゃないかと思います。勉強にもなりましたが、とにかく楽しかった。終わってほしくないなとさえ思ってしまった。最高です。