くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ニューズの真相」「脱獄囚」

kurawan2016-08-05

「ニュースの真相」
これは見事な映画でした。ラストまで途切れることのない緊張、表と裏をしっかりと描いたストーリー構成の見事さ、それに何より、構図と配色にこだわった美しい画面作りが素晴らしい。監督はジェームズ・バンダービルト。しかも、主演のメアリーを演じたケイト・ブランシェットが今回も抜群に素敵なのです。

真上からロビーを捉える美しい画面から映画が始まる。主人公のメアリーが弁護士に会い、面談を始める。物語は数ヶ月前に戻る。時は2004年、ブッシュ大統領が再選を果たす数ヶ月前である。ブッシュ大統領の軍歴詐称の情報を掴んだメアリーは、そのきっかけとなるメモの入手から、その裏付けをとり始める。そして、きもいりのスタッフを集めてチームを作り、CBSの看板番組「60ミニッツ」でアンカーを務めるダン・ラザーを通じて番組に流す計画を練る。

次々と、証言が証拠となり、裏付けが万全となってついに放送。ところが直後から、メモが偽物だという情報が入る。しかし、その根拠を見事に覆す中盤、物語は二転三転しながら、メアリーたちを主人公として展開していく。この中盤までが実にうまい。

ところが、CBSの社長が、メモの裏付けとなった証言をした人物に直接面談したところで、全てが覆される。そして物語はブッシュ大統領の詐称事件から全くのでっち上げであることから、CBS側のメアリーへの詰問問題へと展開していく。

一転して主人公たちはヒーローから詐欺集団へと急転直下していく。メアリーへの内部調査委員会が開催され、ダン・ラザーに紹介された弁護士とともにその場に収監される。その弁護士との面談が冒頭のシーンである。

ダン・ラザーも番組降板を決意し、次々とスタッフも去ることが見えてくる。最後のメアリーの聴問会も終えて、無事終了かという段になってメアリーは最後の演説をする。「確かにメモは偽物だったかもしれないけれど、私たちを騙すためには、あれだけの知識や情報がバックになければいけなかったのだ。生半可な知識ではあんな信憑性のある文書は作成できない。すべてを知っている人物が関わったことは事実だ」と豪語する。確かにそうである。そしてブッシュの軍役詐称問題がいつの間にか文書の信憑性の問題にすり替わっていると説明してその場を去るのだ。このラストが見事ですが、このセリフを入れたことで映画が一気に深みを帯びてしまう。

ただの、真実追求から、スタッフが騙され、その責任問題に発展するというストーリーに恐ろしいリアリティを生み出すのである。最後のシーンでケイト・ブランシェットの演技力が爆発するのですが、それ以前にも、じっとテレビスクリーンを見るときの立ち居振る舞いのうまさ、相手を見つめる視線の鋭さはなんとも言えないほどの魅力を作品に吹き込む。本当に今の世界の女優の中でトップクラスだというのが納得が行く。

素晴らしい映画を見た感じです。お見事。


「脱獄囚」
どうしてこんなおもしろい映画が作れるのだろうと感心してしまうのが、今回の鈴木英夫監督特集である。どう見ても低予算の作品なのに、散りばめられた面白さの種の数々に感心するのです。まさにヒッチコックの世界観にものすごくよく似てますね。

三人の死刑囚が脱獄したという連絡から映画が始まります。検問をかいくぐり、隠していたカネを山分けしたのですが、一人山下という男は自分を死刑囚にした関係者に復讐するために拳銃を手に姿をくらます。そして判事の妻がまず殺される。

刑事の星野は自分の妻も狙われると判断、妻を囮に山下をおびき寄せる作戦にする。ときを同じくして山下は星野の家のそばにきていた。

在宅と家を確認する電話をしてやってきたが、たまたま妻が買い物で留守。待ち伏せをするが、様々な邪魔が入る。このあざといほどの邪魔者がまさにヒッチコックの世界である。

そして、刑事が張り込む、星野が帰宅して妻と山下を待つ。しかし、山下は向かいの家に潜伏していた。二階にいる娘が、逃げようと、ワンピースの布を窓から垂らすがことがなしえない。しかもこの布地はたまたま星野の妻が見ているという伏線が張られている。

向かいにいることを突き止める下り、二階からの布地に気がつき、窓が全部閉まっている不自然さ、そして電話をして、二階で張り込んでいるはずの経緯を呼び出してもらうが、刑事は山下に拉致されている。このスリリングな緊張感も格別で、さらに、いよいよ、星野の妻に迫ってくるクライマックスも決して手を抜かない演出が施されている。最後の最後、両手を上げて出てきた山下だが、最後の弾にかけて撃とうして撃ち殺されてエンディング。

たまらない面白さ、群を抜くサスペンスのリズム感、これが娯楽映画の醍醐味である。傑作という言葉より一級品の娯楽映画と呼ぶべきだろう。はまってしまいます。