くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「あねといもうと」「アズミ・ハルコは行方不明」

kurawan2016-12-13

「あねといもうと」
さすがに物語の展開自体は時代を感じざるを得ないのですが、ホームドラマとして、非常にそれぞれの人物が丁寧に描かれて居る点では、かなりの秀作に近い出来栄えの一本でした。監督は川頭義郎です。

田園調布に住まいする会社役員の長女が、見合いをしている場面から映画が始まる。いかにもな見合いシーンの後、家に帰った父は娘に何気なく断る方向に話を持って行く。このくだりが実に父親の心が出ていてうまい。演ずるのは名優山村聰である。

実は次女にも恋人がいて、父に話す機会をうかがっているのですが、何気なくかわしてしまう父。三女はまだ大学生で、結婚のことなど微塵も考えない当時のモダンな考えの持ち主。

そこへ、父の兄の未亡人が子供とともに一緒に住むことになる。

こうして、女四人と、昔気質の父親の物語が本編に流れて行く。次女の恋人も、その家では結婚位反対されている。理由は、息子の収入がないと生活できないのだという母親の思いゆえである。

物語の構図は、女の側が裕福で、男の側が、庶民的な貧しい家庭という形を全て取っている。

後に、長女が好きになる男性も、しがない小学校教師という設定なのだ。しかし、結局は愛情はお金の問題ではないという当時の人々の考え方の変化を物語に生かしたという描き方である。

しかし、どの娘の話も、非常にしっかりと描ききっているし、3人のキャラクターも見事に描き分けされている。父親の存在も中途半端さがなく、映画として凛と存在させている演出は見事である。

結局、次女の恋人は急死し、長女は小学校の先生と結婚することにる。父も、大人になって行く娘の姿に嬉しさがこみ上げてくる。兄の未亡人も、家を出て子供と二人で自立すると言い、坂道を二人で歩いて行くところで映画が終わる。

とにかく、しっかり描かれていて隙がない。展開が緻密で、抜ける部分がない。ホームドラマでここまで描ききったというのは、才能のなせるものと思わざるを得ません。いい映画でした。


「アズミ・ハルコは行方不明」
こういう映像のシャッフルのような作品は、個人的に大好きです。映画の出来栄えはともかく、突っ走って行くような映像の洪水のような世界は見ていてとにかく楽しい。監督は松井大悟です。

郊外のある街、一人の女性安曇春子がいなくなったというポスターをスプレーで壁に書いている若者たち。どんどんこのグラフィックアートが広がる一方で、女子高生集団による、男性への過度な暴行事件が次々と起こる。成人式で久しぶりに会った20歳の愛菜とその周りの若者たちの姿。SEXを当然のことのようにし、携帯で会話しながら遊びのようなつながりを求める。

春子の家には痴呆の祖母がいて、勤めている小さな会社では、社長たちが普通にセクハラ発言をしている。40歳を超えて独身の女子社員をバカにしたり、現代そのままの世界をデフォルメして描いて行く。

時間軸、空間を前後にシャッフルし、ただ繰り返されるエピソードがまるでジグソーパズルのように散りばめられて疾走する様はとにかく、楽しくて仕方ない。

行方不明の安曇春子の落書きをしていた愛菜は最後に目の前の春子と出くわして映画は終わる。楽しい。映像で遊ぶというのはこういうことなのです。この遊びの面白さに画面に釘付けになる。だから映画は面白い。