くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ある脅迫」「ハートストーン」

kurawan2017-08-03

「ある脅迫」
フィルムノワールの傑作という触れ込みであるが、どこかゆるいところがあるのは、日活色ゆえでしょうか。クライマックスへの緊迫感からもう一歩突っ込んだサスペンスで盛り上がるのかと思うとあっさりエンディング。監督は蔵原惟繕

銀行の通用門に一人の黒眼鏡の男がやって来るところから映画が始まる。次長に用があると言ったその男に、管理の爺さんが、次長は栄転で本部付になったと答えてタイトル。

場面が変わると滝田次長の送別会の席。幼馴染の中池は万年庶務課長でいつも滝田に見下されている描写が展開。

ある日、熊木というサングラスの男が滝田を訪ねてきて、浮貸しの証拠書類を突きつけ300万を要求、滝田が無理だと答えると、銀行強盗しろと強要しピストルを渡す。

翌晩が中池が宿直だとたまたま知った滝田は、彼を酒に誘い出し、しこたま飲ませて、強盗を実行する。ところが、居ないはずの中池がいて、結局、模擬強盗だといって立ち去る。そして、熊木の待ち合わせ場所に行くが、もみ合っているうちに熊木も死んでしまう。

万事うまくいったと思った滝田は、翌日、昨夜の自分の強盗を正当化し、宿直だった中池を笑う。ところが全ては中池が仕組んだもので、一気に立場が逆転するのだ。

本店へ向かう汽車の中で、中池は今後も自分の世話を見るように滝田に迫るのだが、刑事がやってきて、手帳を出してエンディング。銀行をやめてきた中池も、もちろん滝田も全てが終わってしまうラストがあっさりである。

短編を原作にしているので、このラストの鮮やかさはなかなか楽しいエンディングだと思うのですが、どこか緊迫感が弱いのとスピード感が今ひとつなのは残念。逆転してからがある意味面白い気もするのですがそのあたりがあっさりすぎるのでしょうか。でも面白かった。


「ハートストーン」
淡々と散文詩のように語って行く物語、あまりに繊細すぎるプラトニックな感覚で紡いで行く物語は、とてつもなく豊富で細やかな感性があってこそ描けるストーリーだと思う。その意味で、ずば抜けている作品でした。ただ、その細やかすぎる感性で、スクリーンに見えている映像の裏を読み解いて行くにはまだまだ私の感性では追いつけないところもあり、導入部は少ししんどかった。でも、素晴らしい一本です。監督はアイスランドのグズムンドゥル・アズナル・グズムンドソンという人です。

所々に雪が残る広大な山々が広がるアイスランドの村。少し行くと、切り立った崖と海が広がる。幼い頃から仲のいいソールとクリスティアンは思春期に差し掛かったばかりの少年。まだまだ子供じみた遊びに興じて魚を捕ったりするいっぽうで、近所の同年代の少女への密かな恋心も芽生え始めている。

ソールは、近所のベータという少女が好きで、なんとか親しくなりたい。そんな友達の思いを叶えるために、何かにつけソールに味方するクリスティアン。ベータとその友達のハンナ、そしてクリスティアンとソールは、一緒に遊ぶようになって行く。そしてそれぞれが男女のカップルのごとく親しくなって行くのですが、クリスティアンの心は何かの違和感を感じていた。

映像の中でははっきりと描かず、ひたすらプラトニックな演出で見せて行くのですが、それがわかっているのかそうではないのかという態度で答えるソールもまた非常に繊細な演出が加えられているので、見ている側は、これでもかという感性で画面を見続けなければいけない。

ある夜、クリスティアンはソールの家を訪ねるが、ソールは留守でベータの家に行ったとおしえられる。その日、ソールはベータと初めてのSEXを交わしたのですが、もちろんクリスティアンは想像のレベルで感づいてしまう。そして彼は自殺未遂をし病院に運ばれる。その場面もあえて画面に登場せず、セリフで語って行く。

やがて、クリスティアンも無事戻って来るが、両親は離婚することになり、この村を出て行くと知らされるソール。季節は冬になり雪が舞っていた。

部屋に鍵をかけ、自宅でこもっているクリスティアンに、窓から忍び込むソール。そして優しくクリスティアンのおでこにキスをして窓から出て走り去るソール。

岸壁で、一人の少年がカサゴを釣り上げて海に捨てているのを見て、かつてクリスティアンらと魚を取り、カサゴを釣り上げて踏みつけたことを思い出すソールのカットでエンディング。

物悲しいほどに寒々としたアイスランドの景色の中で繰り広げられる、繊細すぎる思春期の少年の友情とも愛情ともわからない微妙な心の動きを描いたこの作品の素晴らしさは、理屈で語られるものではなく、画面から伝わる感覚を感じるままに感じ取って、ソールとクリスティアンに同化してこそその良さがわかる作品なのだろうと思う。その意味でも、ずば抜けた感性が生み出す秀作の一本だったと思います。