くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ジュリーと恋と靴工場」「浦島太郎の後裔」「ユリゴコロ」

kurawan2017-09-27

ジュリーと恋と靴工場
フランス映画のミュージカルというのはフランス語の独特の口調が心地よくて大好きなのですが、この映画もその点では御多分に洩れず楽しいリズム感のある作品でした。ただ、主人公ジュリーの心の成長がもうちょっと描けていたらもうちょっと素敵な作品になったかなという感じです。監督はポーリ・カロリ、コスチャ・テスチュいう人です。

靴屋で試用期間中のジュリーは試用期間終了とともにクビになってしまう。そこで必死で職探しを始めるが、なかなか決まらず、老舗の高級靴会社の工場にやってくる。そこでなんとか試用雇いになるが間も無く近代化を進める会長の意向で工場内は不穏な空気が漂い、職人たちはストを起こしたりして反抗を始める。

しかし、働きたいだけのジュリーは、ただひたすら働き、一方で運転手のか青年サミーと恋に落ちる。この辺りの展開が実に適当過ぎるのがちょっと残念。

やがて職人たちは「闘う女」という題名の靴を製造、それが会長の愛人に好まれ会長は近代化を断念、方向を転換、工場は活気を取り戻し、ジュリーも正規採用が決まる。

ところがサミーは仕事を辞め、自らの道を模索して旅に出ようとする。ジュリーはせっかくの正社員雇用を捨て、サミーの元へ向かってエンディング。

所々に挿入されるミュージカルナンバーはとっても素敵だし、リズムよく展開するダンスシーンも楽しいが、どうも捉えるカメラに躍動感がないので、映画が動き出してこない。

ミュージカルなので曲とダンスのコラボの面白さにストーリーが追いかけてくる形でいいと思うのですが、もう少しドラマ部分の描きこみも欲しかった気がします。でも楽しい映画でした。


「浦島太郎の後裔」
なんともいえない映画です。いくら当時の時代色をかんがみたとしても、あまりにも荒唐無稽に近い企画のような気がします。しかも、監督は成瀬巳喜男なのですからさらに驚きです。

一人のヒゲもじゃの男がラジオ局で奇妙な雄叫びをあげて、民主主義を謳っている。その突拍子も無い行動に目をつけた新聞社が、記者である高峰秀子に取材を命じ、高峰は彼を国会議事堂のてっぺんに登らせ叫ばせる。それが話題となり、一躍英雄に祭り上げられるが、第1党を目指す政党が彼を利用することを思いつく。

こうして映画は、政党にあやつられる一人の男の姿を追い、やがて、真実を知った男はヒゲを剃り落として民衆の前に立つ。

浦島太郎のおとぎ話を風刺劇のごとく仕上げた作品で、なんとも珍妙である。どういう意図で作られたのか不思議なほどの一本、これも映画です。


ユリゴコロ
よくできてるし、面白いのですが、所々にみせるあざとい演出が妙に鼻に着くので、映画のテンポが崩れてしまう。その欠点をなしと見ればしっかりと作られたミステリードラマというレベルの作品でした。監督は熊澤尚人です。

山間でレストランをオープンした亮介が、恋人の千絵を父親に紹介するシーンから映画が始まる。父親の洋介は末期のすい臓がんで、自宅で最後を迎えるべく一人暮らしをしていた。

ある時、千絵が体調が悪いと店を休んだので、亮介が夜に行ってみると部屋は空き家になって、千絵は行方不明になっていた。

たまたま、実家に戻った亮介は、父親が留守の時、押入れに一冊のノートを見つける。そこには一人の異常な性格だった女性の殺人の記録が記されていた。

その少女は幼い頃から人と関われず、ある時、友達が池に落ちたのを見殺したときに、人が死ぬことで自分が満たされることを知る。中学の時、溝に落ちた妹の帽子を取るために鉄板を持ち上げていた大学生の青年の手伝いをするふりをして、鉄板を押し付け小学生を殺してしまうが、青年は自分のせいだと思っていた。

やがて、少女は大人になるが、何かにつけ、人を殺すことでなにがしかの居場所を見つけていたが、生きるために娼婦となる。ある夜、一人の男に声をかけ、なぜかご飯を食べ、お金を渡すだけの青年にその女は惹かれていく。女の名前は美紗子。

相手の青年洋介は不能だったが、美紗子は誰ともわからない子供を宿しているのを知り結婚することにする。そして子供が生まれると、美紗子はそれまでの異常な感情は消え、普通に洋介と暮らし始める。

実は洋介は大学時代、一人の子供が用水に落ちた帽子を拾う手伝いをし、鉄板で殺してしまっていた。なんという偶然か美紗子はすでに洋介と知り合っていたのである。

ノートを読み進めるうちに、本当の殺人鬼の話だとわかるだけでなく、自分の母親だと知ってしまう亮介。そんな時、一人の女性細谷が、千絵から頼まれたと、その無事を知らせにくる。そして、ヤクザの夫がいること、その夫に酷い仕打ちをされていると告げられる。

父からも真相を聞いた亮介は、千絵を助けるため監禁されているというアパートに行ってみると、すでに千絵の夫やヤクザ仲間が殺され、そこには亮介の実家の庭に生えている草の種が落ちていた。

亮介の母は、川で溺れ死んだと聞いていたが、実は生きていて、亮介の前に現れた細谷こそ、整形して顔を変えた母だった。

美紗子は洋介との幸せな生活をしていたある日、数年前に勤めていた食堂に出入りしていた配達人の若者がやってきて、その時に殺された料理人の事件の真相を知っているからと体を求めてきたのだ。それに答えるふりをしてその若者を殺した美紗子は、洋介たちの元を去るべく身を引こうとしたが、川では洋介に助けられる。そして真相を洋介が知るに及び、身を隠すように美紗子を追い出したのである。

全ての真相が明らかになり、ヤクザを殺した美紗子はいずれ捕まるからと亮介たちの元を去り、洋介も病気が急変し救急車で運ばれる。一人、実家の庭に立つ亮介のカットでエンディング。

しっかりと作り込まれているのですが、亮介が突然衝動的に車のスピードを上げたりするあざとい演出がちょっと鼻につき、細かいところで雑な部分が妙に目立つのが残念です。異様に長く感じるのはそのせいかもしれません。見て損はなかったですが、それ以上ではなかったです。