「四月の永い夢」
モスクワ映画祭w受賞ということで見にきたけれど、果たしてどれほどの作品が出品されたのかは分かりませんが、映画祭で受賞する作品というものかどうかちょっと分かりかねる一本でした。決して凡作ではないけれど、特に評価できるほど優れているようにも思えない。監督は中川龍太郎。
主人公滝本初海が桜満開の下で喪服を着て佇むシーンから映画が始まる。三年前に恋人を亡くし、その時に教師もやめ、本人は引きずっていないつもりながらも凡凡たる日々を暮らしている。そんなある日、恋人の遺品のパソコンを整理していたら、初海宛の手紙を見つけたと、元恋人の両親から初海に手紙が届く。
なぜかそれをきっかけに、かつての教え子と再会したり、そば屋店に常連の染物工場の青年志熊から告白されたりする。そして、久しぶりに元彼の実家に遊びに行った初海は、暖かい家族に触れ、何気なく人生が少し動いてきた気がする。
帰りの列車がトラブルで遅れたので、その合間に近くの食堂に入った初海は、そこで志熊がラジオに投稿した初海へのさりげない素直な恋心を聞いて思わず笑ってしまって映画が終わる。
全体に淡々とした展開で、特に秀でたカメラワークでも映像作りでもないし、音楽がある意味キーワードにもかかわらずそれほどセンスが優れているようでもない。とにかく素朴な映像が特徴の作品で、それが映画祭では受け入れられたのかもしれません。見て損をしたというものではないけれど、それほど評価するものなのだろうかと思ってしまう作品でした。
「座頭市物語」
これは時代劇としても名作に分類できる一本でした。脚本が実に艶々していて優れているし、男同士のドラマもしっかりと描かれている上に、静かな色気が漂う展開も本当に魅力的、しかも三隅研次監督の画面作りもしっかりしているので、どんどん画面に引き込まれてしまいました。
瞽だが居合の達人の座頭市がある宿場の親分のところを訪ねてくるところから映画が始まる。最初は盲と馬鹿にしているチンピラどもを煙に巻き、ここにわらじを脱ぐ。
ここの組では、近くの若い親分のいる組と事あるごとに諍いがあったが江戸からきた平手造酒というすごでの侍がいるのでなかなか出入りにならずにいた。
そこへ凄腕であることを知っている座頭市を従えた親分は、機会を伺い始める。一方市はさりげなく平手と知り合い、お互い、剣の道の達人同士男の友情が生まれる。また、市に密かに想いを寄せる茶屋の女なども登場、物語はクライマックスへと流れていく。
所々に散りばめられるユーモア溢れるセリフの掛け合いの数々や、ちょっとした時に見せる座頭市の際立った存在感が映画を奥の深いものに仕上げていくとともに、バッチリきまった三隅研次の構図の素晴らしさもあって映画が映像作品として完成される様も見事。
ラストは座頭市と平手造酒の一騎打ちから、争いの無情さを嘆いて仕込みの杖を平手造酒と一緒に葬るよう寺に頼んで旅に出る座頭市。途中で待つ市を慕う女を避けて藪の中を去っていく姿でエンディング。男のドラマの重厚さとほのかな色気を漂わせた作品の空気に酔いしれてしまいました。良かった。
「座頭市千両首」
こちらはいわゆる典型的な勧善懲悪時代劇の娯楽作品。国定忠治という有名人をだしにした極めて雑な脚本で展開する普通の映画だった。監督は職人池広一夫です。
座頭市の華麗な居合斬りのシーンをタイトルバックにし、物語は、百姓の上納金千両が奪い去られる場面から始まる。なぜか鉢合わせる座頭市の場面から、関わっていく座頭市の男気に、この手の典型的な悪者悪代官が登場して、あとは適当なストーリー展開の合間に、勝新太郎の居合斬りシーンを見せ場にながれていく。
これといって中身もなく、テレビドラマレベルの作品ですが、勝新太郎の居合斬りの華麗さが洗練されてきているのが明らかで、これを見せ場にシリーズが作られる意図が丸わかりです。この手の娯楽映画はそれで十分だと思えるし、それを楽しみにみんな劇場に足を運んだのでしょう。映画産業全盛期の一本ですね。
「座頭市決笑旅」
シリーズ中最高傑作と言われてますが、いわゆる人情物語に仕上がっている意味で、一線を画している作品ですね。監督は三隅研次です。
座頭市が旅の途中でたまたま乗った籠を、途中で子供を抱いた母親に譲ったために
座頭市が乗っていると勘違いした刺客たちが籠の上から女を殺してしまう。自分に間違われて殺された女の赤ん坊を、父親のもとに届けるために旅を始める座頭市の物語が中心になるが、途中でスリの女を助けたために道中をともにする。
一方で座頭市を狙う刺客たちが襲ってきて、その度に華麗な立ち回りを見せる座頭市のアクションシーンも交え、また、赤ん坊に次第に情が移っていく人間味あふれる展開も見もの。
そして、ようやく父親のもとに届けたものの、ヤクザになっていた上に、赤ん坊の母親など知らないと言い出す始末。しかも、刺客たちと一緒になって市を襲うことに。そして市の返り討ちになり死んでしまう。寺の和尚の進言で赤ん坊は寺に預けることになり、再び放浪の旅に出る座頭市のショットでエンディング。
今回の見せ場は、松明を持って周りを囲まれ耳の機能を麻痺させての立ち回り。着物に火が移って、火をまといながらの勝新太郎の立ち回りがすごい。今ならCG処理するが当時は普通に燃えているとしか見えず、迫真のシーンになっている。
傑作という評価は言い過ぎながら、ちょっと色合いの違うドラマに仕上がっているのは見事です。