くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ソン・ランの響き」「窓」「街の野獣」

「ソン・ランの響き」

全く期待せず、またゲイの映画かと思っていたら、恐ろしく良かった。二つの空間、二つの時間を重ね合わせて描く物語のリズム感が見事。しかも、さりげないシーンに映像の美が感じられるし、主人公二人の心の動きが手に取るように伝わって来る。掘り出し物の秀作に出会いました。監督はレオン・レ。

 

一人の男がマッサージを受けている。そこへ、ヤクザのユンがやってきて金の返済を強硬に行うところから映画が始まる。ユンは地元では雷の兄貴と慕われるほど、借金取り立ての厳しさが有名で、それ故に今の高利貸しの姉御ともうまくいっていた。

 

ある時、地元で興行をするカイルオンという民族舞踏団の座長の取り立てに行き、衣装さえ燃やそうとして、その劇団のフンという二枚目役者と知り合う。一方、ユンは貧しい人間から金を取り立てることに疑問を抱いていた。ある時、タイという男の取り立てに行くがそこの幼い姉妹と遊んでしまう。間も無くして、タイの妻は娘二人を道連れに無理心中をし、ユンの心は打ちのめされる。

 

そんな時、酒場でフンが男たちに絡まれたところをユンが助け、その夜、ユンはフンを家に泊めてやる。ユンの父は、かつてカイルオンの楽曲奏者で、母は突然家を出て、父も亡くして仕方なくヤクザの取り立てをしていたのだ。ユンは父の楽器をフンの前で弾き、フンはその才能を認めてやり、今夜、自分の舞台の後座長の前で弾いてみればいいという。

 

ユンは全財産を使ってタイの借金を返してやり、楽器を持って劇場の前に立つ。一方、フンはこの日、得意の悲恋物語の演目に臨んでいた。フンは密かにユンに恋心を抱き、それまで足りなかった彼の芸風が一気に変わる舞台を演じていた。

 

約束通り、ユンは劇場の前に来た。ところが、背後から何者かに刺される。それはタイだった。ユンはその場に倒れ、舞台では物語のクライマックス、死んだ恋人を抱き上げるフンのシーンに観客は拍手していた。

 

舞台が終わり、ユンのための幸運の像のペンダントを持ってユンを待つも現れない。フンは一人劇場を後にして映画は終わる。舞台と現実、過去のユンと今のユンなど、空間や時間のカットバックの組み立てが実にうまく、映画がリズムを帯びて来る。なかなかの手腕の作品に出会いました。

 

「窓」

これは面白かった。単純そのものの話なのに、階段や空間を見事に使ったすれ違いのサスペンスが素晴らしかった。監督はテッド・テズラフ

 

少年トミーが友達とふざけている場面から映画は始まる。いつも適当な嘘をついては騒動を起こしていたトミーは、この日も両親に怒られ、部屋に引っ込んでしまう。真夏の暑い夜で、トミーは非常階段で寝ることにするが、あまりに暑いので一つ上の階のベランダまで上がって横になる。ところが窓の隙間から上の階の夫婦が一人の男を殺害する場面を目撃してしまう。トミーは急いで部屋に戻り、両親に言うが全く信用してもらえない。

 

仕方なく、警察署へ行き、刑事同伴で調べに来てもらうが、何もわからず、嘘で片付けられてしまう。少年に見られたらしいと不安になった上の階の夫婦は、トミーを亡き者にしようと計画する。そんな時、トミーの母は叔母の容態が悪くなり実家に行くことになり、父は夜の仕事で留守。トミーはひとりぼっちになる。上の階の夫婦がトミーに迫る。

 

入れ替わり立ち替わりの人物のすれ違いに、階段を有効に利用した空間のサスペンスが見事。シンプルな物語と、予定通りのエンディングなのですが、光と影、そして階段とフィルム編集の 妙味を見せてくれる映画でした。

 

「街の野獣」

これはなかなかの一級品。画面の構図の素晴らしさ、役者の見せ方、整理された入り組んだストーリーの組み立て演出のうまさが光る。これこそフィルムノワールの醍醐味でした。監督はジュールス・ダッシン。

 

夜のロンドン、一人の男が逃げていくのを俯瞰で捉える大きな画面から映画は始まる。逃げている男は恋人のメリーの部屋に駆け込む。ドッグレースの賭けの借金で追われているらしく、メリーに金を用立ててもらおうとするが足りない。メリーは上の階に住むアダムに金を借りてハリーに渡す。

 

ハリーはいつも何か一攫千金を目論んでは失敗を繰り返してきた。そんな彼を支えてきたのはメリーだった。ハリーは懲りずに、夜の街を回って面白い話がないか探す。そんな彼の前にある話が舞い込む。伝説のレスラーグレゴリウスが弟子のニコラスを連れてきていると言うのだ。グレゴリウスの息子はこの地でレスリングの興行をする実力者のクリストだが、息子のやり方に気が食わないとグレゴリウスが愚痴をこぼしていた。そんなグレゴリウスにハリーはまんまと取り入り、グレゴリウスを看板にレスリングの興行を一手に引き受けようとする。

 

しかし、とりあえずの金もないハリーはボスのフィルになんとか出させようとするが叶わず、たまたまフィルが想いを寄せる女ヘレンがハリーに近づき、金の一部を用立てる。それを元手にハリーはフィルを抱き込んでレスリングの試合を企画するが後一歩というところで、フィルはクリストの抱えるストリンガーとの試合をするなら金を出すと条件をつけてくる。

 

ハリーは巧みにストリンガーを焚きつけ、グレゴリウスもうまく乗せて、契約寸前まで行くが、酒に酔ったグレゴリウスはニコラスに絡み、さらにグレゴリウスと試合になって、グレゴリウスは勝ったものに、駆けつけたクリストの腕の中で死んでしまう。

 

怒ったクリストは、賞金をつけて逃げたハリーを探し出す。かつての仲間にも裏切られ逃げ場を失ったハリーは、覚悟を決めるがそこへ駆けつけたのがメリーだった。ハリーはメリーに賞金の金を与えるためにクリストの前に飛び出すが、ストリンガーが現れ、ハリーは川に投げ込まれ殺される。映画はここで終わる。メリーがあてにするアダムは何者かや、フィルを撃ち殺した婦人の説明がなく、わかりにくいところもあるものの、全体がよくできているので、目をつむってもいい感じだった。

 

カメラアングルの素晴らしさ、光と影の演出、スピード感ある編集など、見事な仕上がりの映画で、これこそフィルムノワールの醍醐味でした。