くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「グッド・ワイフ」「リトル・ジョー」

「グッド・ワイフ」

これといって取り立てていい映画でもないのですが、どこか魅力の垣間見られる一本。メキシコという国柄を理解できればちゃんと楽しめるのかもしれません。監督はアレハンドラ・マルコス・アベヤ。

 

主人公ソフィアは、夫が会社の役員で成功しセレブな生活をしている。今日は彼女の誕生パーティで、セレブな友人がたくさんやって来ていた。ただ、ソフィアは、有名人を呼びたいと夢見ている。いつものようにパーティが進行しやがて終わるが、セレブたちの間では証券会社社長を夫に持つアナの存在が気にかかっていた。

 

そんな頃、メキシコに経済危機が到来し、間も無くソフィアの夫の会社も経営危機になる。みるみる生活が荒び始め、それまで女王のように振る舞っていたソフィアにも徐々に暗雲が迫り始める。カードが使えなくなり、使用人に給料を払えなくなり、水道さえも止まってしまう。そんな中でも必死でセレブの仲間に入るべく背伸びをするソフィアだが、周りのセレブたちは彼女のもとを離れ、アナのもとへ移っていく。

 

ソフィアは最後のあがきの如く着飾り、アナのパーティに出かけるが、門に入ったところで躊躇い帰ってしまう。カットが変わると、アナの夫婦とソフィアの夫婦がレストランにいる。お互い食事をし終えたところで、今回の経済危機に独裁的な政策で貧乏人を切り捨てた大統領のロペスが入ってくる。アナやソフィアはロペスを犬の声を真似して追い返すところで映画は終わる。

 

最初から、登場人物がわかりづらく、ソフィアのみがわかるのだが、後のセレブ妻たちの関係は見えない。あえてそうした描き方をしたのかもしれないけれど、ソフィアだけを浮き上がらせたとはいえ、物語の流れに必要なアナの存在もぼやけてしまった気がします。社会派ドラマという一本なのですが、魅力もあるのですが、もう一つ心に感じきらない映画でした。

 

「リトル・ジョー」

感覚で鑑賞する映画で、どこがどうと語ることができない作品。その意味で独特の色合いがあるし、赤の使い方の美しさにも脱帽するし、なかなかの映画でした。監督はジェシカ・ハウスナー。

 

遺伝子操作で新種の植物を開発する研究所、そこで栽培されている植物を俯瞰で回転させながら延々と撮る場面から映画は始まる。研究員で主人公のアリスは、ここでリトル・ジョーという赤い花を栽培することに成功する。その花は人を幸福にするという効用があったが、アリスの助手のクリスを除いて、所長を含め周辺の研究員はまだまだ受け入れられなかった。

 

この研究所にベラというベテランの研究員がいて、いつも愛犬のベロを連れて来ていたが、ある時帰りがけに行方不明になる。クリスが探しにいき、リトル・ジョーを栽培している温室に隠れているベロを見つけるが、飛びつかれて思わずリトル・ジョーの花粉をすいこんでしまう。

 

一方、アリスには一人息子のジョーがいて、別居している夫と交互に会うようにしていた。アリスはジョーのために、リトル・ジョーを一輪、家に持って帰る。

 

翌日、ベラは、愛犬のベロに噛まれる事件が発生。かつてのベロと別の犬になったと、殺傷所分をしてしまう。どうやらリトル・ジョーの花粉は人の脳に感染して、別人に変え、自分を守るために性格を変える作用があると疑い出す。実際、花粉を吸ったジョーの性格が変わり、彼女を自宅に連れてくるようになるし、クリスも異常なくらいにリトル・ジョーを擁護するようになる。

 

アリスは、一人、なんとかリトル・ジョーの危険を証明するべく奔走するが、リトル・ジョーに懐疑的だった所長さえもリトル・ジョー擁護に回り、さらに、危険について声を大きくしたベラを階段から突き落としてしまう。

 

アリスは、精神科にも通っていて、その医師はアリスが仕事に追い詰められ、一人息子ジョーの存在を疎んじているのにそれを押さえつけていると判断する。

 

極まったアリスは、リトル・ジョーを枯らしてしまうべく温室の温度を操作するが、そこにやって来たクリスに殴られ気を失い、その間にアリスはマスクを外され、花粉を吸い込んでしまう。

 

翌日、アリスはリトル・ジョー擁護者となり、精神科の医師にも自分の思い違いだったと告げ、出口にリトル・ジョーを置いて帰る。ジョーは父の元で暮らすことになり、彼を送り出したアリスは、家に帰り、自宅のリトル・ジョーにおやすみというと、リトル・ジョーは「おやすみお母さん」と答えて映画は終わる。

 

SF的にストーリーを追うとこの映画の意図する物は見えない。人間を幸福のすると信じるものがいつの間にか人類に蔓延していく様を植物という暗喩を用いて描いた作品で、ある意味面白さもあるがぞくっとする怖さも伝わる映画でした。カメラの使い方や色彩演出もなかなかのもので、雅楽を使った音楽や、アリスが買ってくるデリバリーが拗ねて東洋のものであったり、ジョーの彼女が明らかに中国系など、どこか東洋的な神秘さも見え隠れする映画、個人的には大傑作と言えないまでも、相当な秀作と思いました。