くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「みんなのヴァカンス」「純愛物語」

「みんなのヴァカンス」

たわいのない話なのに、どんどん引き込まれて、どこか懐かしい想いが蘇りながら綺麗にラストはまとまっている。決して傑作秀作ではないかもしれないけれど、いい映画だった。見てよかったなと思える作品でした。監督はギヨーム・ブラック。

 

夜のセーヌ川岸、フェリックスはナンパしようかと歩いている風から映画は幕を開ける。とっても素敵な女性アルマと出会い、草原で一夜を明かしたが、アルマは家族とヴァカンスに行くから帰らないといけないとそそくさと帰ってしまう。フェリックスは、ヴァカンスを利用してアルマの住む街ディーへ行くサプライズ旅行を計画、親しい友人のシェリフと一緒にエドゥアールの車で向かう。

 

ディーの街についたものの狭い路地を入って車が故障してしまう。一方、フェリックスはアルマに電話をするが突然の訪問に戸惑い、そっけない返事が返って来る。とりあえず、翌日カフェで会うこととなる。エドゥアールの車は修理に一週間はかかると言われる。フェリックスはアルマと会って川で泳ぐが、アルマが怪我をしてしまい救護室で一人の若者と知り合う。結局その日もフェリックスとアルマはそっけなく別れる。

 

救護室で知りあった青年の誘いで、アルマとその姉は渓流遊びに行く事になる。強引にフェリックスも参加する事になり、フェリックスとエドゥアールが行くが、シェリフは中耳炎だからと断る。フェリックスたちは楽しいひとときを過ごすが、シェリフは、赤ん坊を連れている美しい人妻と出会う。子供に好かれたシェリフはすっかりその人妻と時間を過ごすようになる。

 

アルマとフェリックスの溝は埋まりきらず、強引に家に押しかけたフェリックスはさらにアルマから距離を置かれる。アルマの姉の計らいで、もう一度会う事になるものの、フェリックスはアルマとの関係は終わったと納得、パリに帰ることにする。エドゥアールは、修理の費用を稼ぐために、渓流遊びで怪我をした救護室の青年の友人の代わりに、清掃のアルバイトを始める。

 

明日帰る事になった夜、シェリフは人妻の元を訪れ、子供を救護室の青年の知り合いに見てもらってバーに出かける。戻ってきた二人は自然と体を重ねる。フェリックスは、テントを離れて川岸で寝ていたが目を覚ますとウクレレの音楽が聞こえて来る。川に降りてみると、昼、大道芸を披露していた女性がいた。フェリックスはその女性に親しく話しかける。こうして映画は終わっていきます。

 

いつか、どこか、懐かしい一瞬に出会ったような錯覚を覚える作品で、最後の夜のバーで騒ぐエドゥアールやシェリフたちの姿はどこかノスタルジックに胸が熱くなってしまいました。なかなか素敵な一本でした。

 

「純愛物語」

これは素晴らしい名作でした。公開された時代を考えると寒気がするほど一歩先を読んだようなストーリー展開。一見純愛ドラマの如き内容ながら、その背景に描かれる辛辣すぎる残酷さ、原爆に対する人々の本当の恐怖をまざまざとスクリーンに描写していく手腕に圧倒。その上、主役よりも脇役に至るまで主役級の筋金入りの配役で映画全体が恐ろしいリアリティと厚みが出ています。これこそ傑作と言える映画でした。監督は今井正

 

公園で一人の女の子が水飲み場の水を口移しで空き缶に移している。その脇を主人公早川貫太郎が通る。女の子は空き缶の水を野良犬に分け与えている。早川がパンを食べていると、物欲しげに女の子が寄って来るので、パンをやるが、その場を離れると金をすられたことに気がつく。時は二年前つまり1955年ごろに遡ります。

 

デパートでスリをした若者を脅しつけてカツアゲをした早川、トラブルを起こして田舎に隠れていた彼は東京下町の行きつけの食堂にやって来ると、そこにさっきの若者とその仲間がいた。最初は険悪な雰囲気だったが悪同士気が合い、これから一人の女をおもちゃにするから来いという。早川が行ってみると手を縛られた娘宮内ミツ子がいた。揉み合ううちに男が二階から下に落ちたのをきっかけに逃げてしまい、早川はミツ子の縄を解いてやる。

 

その夜、公園で寝ようとする早川にミツ子はアベックのスリをやろうと持ちかける。最初はうまくいくかと思われたが、ふとしたミスで二人とも捕まってしまい、早川は少年院へ、ミツ子は聖愛学園へ送られる事になる。しかし、早川は移送の途中で脱走する。ミツ子は学園で何かにつけて体調が悪いと作業をサボり、みんなから嫌われていたが、小島教官は彼女に目をかける。そんな時、早川がミツ子の学園にやってきて一騒動を起こすが、そこに、早川が幼い頃に世話になった下山教官と出会い、彼の説得で早川は少年院へ行く事になる。

 

ミツ子の体調が芳しくないのを心配した小島は、彼女を外部の病院に連れて行く。そこで、ミツ子は原爆症ではないかと言われる。しかし、ミツ子は小島が目を離した隙に逃げてしまう。やがて、早川は仮出所し、お菓子工場で働き始める。小島からミツ子が学園を出て行った事、体調が良くないことを聞く。まもなくして早川にミツ子から手紙がくる。早川がミツ子が働く食堂を訪ねるが、ミツ子は中央病院で精密検査を受けないといけないと告げる。

 

中央病院へ行く日、早川と約束をしていたが早川は工場を抜けられず、ミツ子は一人で検査を受け、診断される。そして、仕事先をやめて、安宿に寝泊まりするようになる。早川は、彼女の居場所を見つけ、なけなしの給料を届けたりするようになるが、ミツ子の容態は悪くなるばかりだった。早川は同僚がためている金を盗み、ミツ子と一日だけのデートをする。体調が悪いにも関わらず元気に振る舞うミツ子だったが、早川と別れた後、体調を崩す。

 

ミツ子の居場所を探していた小島は、早川の工場で聞き、ミツ子を安宿から連れ出し、知り合いの病院へ入院させる。しかし容態は予断を許せなくなって来る。病院に入ったという連絡と、待っているという知らせを聞いた早川は、この日、ミツ子の病院へ行こうとするが、そこへ下山がやって来る。かねてから探していた自動車修理工場に勤められそうだから面接に行こうという。夢だった自動車修理工場へ行ける事で、早川は散々悩むも面接に先ず出かける。

 

面接が終わり、病院に駆けつけた早川だったが、すでにミツ子はいなかった。今朝ほど亡くなり、解剖のために中央病院へ移されたのだという。やるせない思いで、夜の街を歩く早川の場面で映画は終わる。

 

原爆症がまだまだよくわかっていなかった時代、しかも戦後十年も経って、その症状が出る可能性を映像として描くというリアリティにまず圧倒されてしまいます。映画の出来以前にその勇気が素晴らしいのと、先を読んだストーリー作りに頭が下がります。こういう映画をみると、今の日本映画など比べる土壌にさえ乗らないと思ってしまいます。まさに傑作、これこそが名作と言える作品でした。