くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「昭和枯れすすき」「事件」

「昭和枯れすすき」

野村芳太郎監督の円熟期の佳作という感じの仕上がりがとっても素敵で切ない作品で、今見ればまさに昭和の世界という空気が満載。兄妹のどことなく危険な一歩手前の感情の重なりが胸に響きました。

 

刑事の原田と妹の典子がいつもの朝を迎えるところからさりげなく物語は始まります。原田は普通の出勤、典子は洋裁学校へ行く。ところが、典子が奇妙な若者と歩いているところを原田が見つけてしまう。一緒にいたのは吉浦というチンピラで、原田は典子を調べていく。さらに洋裁学校も辞めたと知った原田はさらに典子への不信感を募らせていく。

 

何度説得しても吉浦との関係をたたない典子、さらに中川という会社の御曹司との付き合いも発覚する。そんな時、吉浦が自分のアパートで殺される。しかも傍に女物のネックレス。そのネックレスは典子が中川に買ってもらったと言っていたものだった。原田は同僚に黙って典子を調べ始める。捜査線上にも、吉浦のアパートを訪ねてきた若い女の存在が浮かんでくる。

 

原田は典子を問い詰めると、持っていたネックレスもないことがわかる。不審がどんどん募り、言い訳ばかりの典子をとうとう原田は手錠をかけて留置所に入れる。その直後、一人の女から、吉浦殺しの犯人がいる住所のタレコミが入る。なんとそこは原田のアパートだった。原田は同僚と吉浦のアパートへ行く。そこには吉浦の情婦がいたのだ。タレコミがをかけてきたのはその女だと訛りから判断した原田が駆けつけたのだ。そしてその情婦が吉浦を殺したことを白状する。原田は典子を留置所からだし自宅に帰る。数日後原田は辞職願いを残して神戸に向かう列車の中にいた。傍に寄り添うのは典子だった。

 

さすがにしっかり描かれた切ない作品で、新藤兼人の脚本ならではの重みがあります。しみじみと時代の匂いを感じとれる秀作でした。

 

「事件」

初めて見た時はわからなかったが、この映画の真価をようやく理解できた気がします。脚本とはこう書くもの、演出とはこうすべきものというのを見せつけられた気がします。二時間を超える法廷劇なのに全然退屈しない見事なテンポで脚本が練り込まれている。物語はわかっているのに、どんどん引き込まれ、ラストはたまらない感動に包まれる。これこそ傑作。監督は野村芳太郎

 

殺人現場をヘリコプターから俯瞰で捉える場面から映画は始まる。坂井ハツ子という女性が上田宏という未成年の青年に殺され死体遺棄された。物語はそのまま法廷場面へ移っていく。ここからラストまで全て法廷シーンであるが、舞台劇にはならず映画になっているのがまずすごい。

 

まず検察側の陳述で事件の全貌が語られ、写真による関係者の姿が写される。そして、関係者が次々と証人喚問されながら物語が綴られていく。そこに二転三転などという陳腐な展開はしない。徹底的な人間ドラマ、上田宏、坂井ハツ子坂井ヨシ子姉妹との関係、男と女の微妙すぎる狡猾さや情念がみごとに描写されていきます。全てが終わり、判決が下され、最後の最後に、お腹の大きいヨシ子をチンピラの宮内が温かい言葉を投げかけるエピソードまで素晴らしく仕上がっている。いい映画です。名作と呼べる一本だと思います。