くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ある人質 生還までの398日」「ベイビーティース」

「ある人質 生還までの398日」

見応えのある作品なのですが、誰を中心に描きたいのかがぼやけている作品で、主人公はダニエルなのですが、アメリカ人のフォーリーにも割いている演出がどうも全体を甘くしてしまったのは残念です。シリアで一年近く拉致されたデンマークの写真家ダニエル・リューの実話の映画化です。監督はニールス・アプデン・オプレブ。

 

体操のエキシビションでしょうか、デンマークの体操選手たちが軽やかに演技を披露する場面から映画は始まります。そこに主人公ダニエルもいますが、着地に失敗して骨折してしまい、世界大会に行けなくなります。ここから妙にへこんだ主人公を描くのではなく、兼ねてからの夢だった写真家になるべく進み始める、といきなり本編へ入っていきます。

 

写真家の助手になってソマリアに行ったダニエルは、独り立ちした後、地元の庶民の姿を写真に収めようとシリアに向かう。この辺りかなりハイスピードな展開です。地元のシリア自由軍の許可を持った上で、サポーターと同行して撮影していたが、突然、拉致されてしまう。シリア内は様々なグループの乱戦となっていて、不安定になっていたのだ。訳もわからないまま拷問を受けるダニエル。

 

一方、ダニエルの両親は、予定の便で帰ってこないダニエルを心配し、拉致されたと判断し、救出の専門家のアートゥアを雇う。やがて身代金の要求がくるが、とても払えるものではなく、なんとか集めた金で交渉してもらうが、相手は怒って、一気に額を上げてくる。このままでは殺されるだけと判断した両親は、止められていた募金で金を集めることを始める。

 

募金は思いの外集まり、最後の一歩も助け舟が出て、その金でダニエルは約1年ぶりに釈放されて帰ってくる。物語は、同時に拉致されたアメリカ人のジャーナリストフォーリーの話も絡めて描いてくる上に、ダニエルの両親の苦悩にも焦点を当てているので、どこが物語のキーなのかぼやけてしまった上に、最後の最後に、フォーリーが殺された上に、アメリカでの葬儀にシーンとオバマ大統領のテロップで終わるという、何を描きたかったかというエンディングになっています。

まあ、こういう出来事がありましたという勉強に見る作品だった感じです。

 

「ベイビーティース」

昔から何度となく描かれた裕福な家の薄幸の美少女と不良少年との恋物語を現代風の演出と映像で綴る純愛物語です。前半は流石になかなか入り込めなく、どちらかというと反発的に見ていましたが、中盤から後半にかけて物語が透明度を帯びてきて、ラストの詩的なエンディングはとっても良かった。監督はシャノン・マーフィー。

 

一人の女子高生ミラが駅で列車を待っていると、突然彼女を突き飛ばすように一人の青年が、入ってきた列車に飛び込まんかという勢いで登場する。こうして映画は幕を開けます。青年はいかにも不良少年という出立ちのモーゼスという名で、ミラはモーゼスを見つめる中、何かを感じます。モーゼスはミラが鼻血を出しているので介抱してやります。ミラはモーゼスに自分の髪の毛を切ってほしいと頼みます。モーゼスは犬の美容室をする母親の店に忍び込み、ミラの髪の毛をバッサリ切ってしまいます。モーゼスは、自宅を追い出されたので泊めて欲しいと頼みます。

 

ミラの母アナは精神不安定で、精神科の夫ヘンリーの治療を受けています。二人は診察室でSEXをするという場面から二人は登場、どこかおかしいミラの家族の姿が描写されます。一方のモーゼスも家に帰ろうとしても母親らしい人から、邪魔者扱いされてしまい、帰ることもできない。

 

それから間も無くして、ミラはスキンヘッドになってモーゼスの前に現れます。おそらく不治の病、癌なのでしょうが、ミラは自分より少し大人のモーゼスに惹かれていきます。しかし、モーゼスにはミラは最初は興味もありませんでした。しかし、次第にミラのひたむきさに惹かれていくモーゼス。

 

ミラの家の向かいに、妊婦の女性が一人住んでいて、ヘンリーはさりげなく惹かれています。それは、アナが不安定であり、ミラのことも心の重圧になっているからかもしれません。しかし、ミラがモーゼスに惹かれている姿を見るにつけ、ミラの望み通りにしてやりたいという気持ちが大きくなってくる。それはアナも同様でした。

 

アナはかつてはピアニストを目指していたが、ミラが病気になったことで諦めたという過去もあるようです。ミラのバイオリンの先生も時折物語にからんできます。

 

ヘンリーとアナは、モーゼスに、一緒に住んでほしいと頼みます。それはミラの希望を叶えたいと思うためですが、その頃にはモーゼスもミラを離したくないと考え始めていました。そんなミラにプロムに出るためのドレスをアナは買ってきますが、それを試着した時、ミラは胸の下のしこりに気がつき、自分の余命が少ないことを知ります。

 

ヘンリーらはホームパーティーを企画し、モーゼスの家族も、バイオリンの先生も向かいの妊婦も集めます。縁たけなわの時、向かいの妊婦が産気付き、みんなは産婦人科へ。残ったミラとモーゼスはベッドをともにします。ミラはモーゼスに、枕を押し付けて殺してほしいと頼みます。朝までもたないのがわかったのと、痛みで苦しみたくないという理由でした。モーゼスは一度はまくらを押し付けるが、ミラが暴れるので思わず離してしまう。そしてそのまま二人は体を合わせる。

 

夜が明ける、一人外に出たミラは空を仰ぐ。翌朝、ヘンリーとアナは朝食を準備している。モーゼスが起きてくる。ヘンリーはミラに水を持っていこうとして何かを感じて立ち止まる。アナがそのコップを取ってミラの寝室へ、そしてミラの死を知ります。このシーンが実に上手い。暗転後、浜辺でホームパーティーで集まったメンバーが戯れている。ミラは両親の写真を撮って映画は終わっていきます。

 

オーソドックスな物語を、手持ちカメラやテクニカルな映像処理でモダンな画面で再構成した面白さがちょっと斬新で素敵な映画で、最初はいかにもいけすかない不良少年モーゼスが、いつの間にかピュアな若者の笑顔を見せるようになる演出がちょっと素敵です。ただ、妊婦の女性や、バイオリニストの先生は登場人物として必要だったのかは疑問です。好みもあるかもしれませんが、いい映画だったと思います。