くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「83歳のやさしいスパイ」「唐人街探偵 東京MISSION

「83歳のやさしいスパイ」

老人ホームのドキュメンタリーなんてと思ってる人がいたら大違い、老若男女誰が見ても感動します。孤独というものを切々と、それもユーモアを交え、いつの間にかどんどん流れの中に引き込まれていく作品で、ラストの主人公の呟きに胸が熱くなりました。アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネート作品です。監督はマイテ・アルベルディ。

 

ある探偵社A &A社の看板から映画は幕を開ける。新聞広告に80歳から90歳の求人募集の案内。三ヶ月出張あり、家族の理解を得られること等々の説明にまず、なんやろうと思ってしまう。やがて集まってきた老人たちの面接シーンが手際よく描かれる。そして一人の男性セルヒオが採用される。

 

探偵社の社長ロムロから、スパイ用のカメラや暗号による報告の仕方などが説明されるが、チグハグに受け答えするセルヒオのシーンがまず微笑ましい。ミッションは、ある依頼人の娘から、母が、入所した老人ホームで虐待を受けているかどうかを調べてきてもらうというもので、セルヒオが、そこの入所者となって潜入することとなる。

 

最初は、見様見真似のスパイ活動で、ターゲットの女性を見つけ観察を始めるが、いつの間にかさまざまな入所者の相談相手になっていく。自分のママが面会に来るのを信じる老婦人、窃盗癖のある女性、セルヒオに心を奪われ恋をしてしまう婦人、施設から外に出てママのいる家に帰りたいと繰り返す婦人。そんな人たちと真摯に向かい合って話を聞くセルヒオ。もちろん一方でターゲットが虐待されていないか調べ、毎日ロムロに報告する。もちろん虐待などないのである。

 

セルヒオはある疑問が浮かび始める。依頼人の娘は母が心配だと言いながら一度も面会に来ない。ここに入所している人たちと話をしてわかったのは誰もが家族から離れて孤独の中に沈んでいるのではという思いだった。

 

やがて三ヶ月が経ち、セルヒオはロムロに最後の報告を送る。依頼人の娘は結局一度も面会に来ず、心配だと言いこのような調査依頼をしてきたが、このようなことは本来自分でするべきことではないのか。これ以上調査はしたくないから帰りたいというものだった。まもなくしてホームを離れる日が来るセルヒオは、たくさんの入所者に惜しまれ見送られながらホームを後にした。愛する家族の元に戻るために。

 

セルヒオには帰る家族がある。これはどんなに素晴らしいことかと思う。そんな思いがラストのセルヒオの報告文から切々と伝わってきて涙が溢れてしまいました。本当にいい映画でした。

 

「唐人街探偵東京MISSION」

これは面白かった。無駄に日本のオールスターキャストと、やたら大作という感じの壮大なロケの数々、しかもギャグ漫画のような展開なのに、しっかりとしたミステリー色、そして日本を舞台にしていることのパロディ感満載の選曲とシーンの数々がとっても面白く、たとえ、この映画が傑作という評価がつかなくても、私的には傑作だと思います。第3作目ということなのですが、前ニ作品は何故公開されていないのか気が付かなかったのか不明。監督はチェン・スーチェン。

 

このシリーズの背景と登場人物の紹介の後物語は本編へ。中国の探偵チンとタンは日本の探偵野田の依頼で東京の事件を調べるためにやってくる。事件は東南アジアのマフィアのボスが密室で殺され、同席していた日本のヤクザのドン渡辺に嫌疑がかかる。しかし、渡辺は被害者が殺される直前、茶に仕込まれた薬で意識を失っていたという。チンたちは、早速事件現場にやってくるが、すでに現場検証の後で綺麗に片付けられていた。しかし、チンはそこに残された一輪挿しが重要証拠だと判断、渡辺の冤罪を晴らす証拠だと持ち帰ろうとするが、そこへタイの探偵ジャックが現れ、さらに田中警視正も現れ事件は混沌とし始める。

 

物語は、チン、タン、野田、ジャーらが推理していく展開を軸に、至る所に日本文化を茶化すようなユーモアを交え、しかもそれが嫌味にならない展開で進む。被害者の遺体を調べに行ったチンは、そこでサイレント映画のようなドタバタシーンを展開して後、被害者の秘書小林が事件のキーを握ると判断したチンらは小林の元へ向かうが何者かに誘拐されていた。そして、探偵組織のトップに立つというQからチンらにクイズまがいのミッションが下される。

 

コスプレをし、日本武道と戦い、ついに小林が拉致された場所に辿り着くチンだがそこに現れたのは死刑囚で指名手配班の村田だった。村田は、小林が溺れていく装置を止めるには自分を殺すしかないと、チンに巧みに自分殺害のお膳立てを実行、小林は助かったがチンは田中に逮捕されてしまう。しかし、被害者の体に残った刺し傷の跡などの不審な点を拭えないままだった。

 

留置所でチンは田中の訪問を受ける。実はQとは複数いる組織だった。その一人である田中はチンをメンバーに誘うがチンは断る。野田の働きで釈放されたチンは真実を解明するために野田、タンらと最後の賭けに出る。そんな頃、渡辺の裁判は最終日を迎えていた。

 

裁判官が判決を下そうとしたその時、被害者の車に残された証拠を見つけたタンが駆けつけ、真犯人は小林だと宣言する。しかし、渡辺は自分がやったと自白する。実は渡辺と小林は親子だった。小林とその母は中国で渡辺に捨てられたそのあと辛苦ののち母は獄死、小林は復讐にために日本に来た。マフィアのボスは当初は渡辺に罪を着せるために自ら軽い怪我をして密室を作るだけだったが、小林はそのボスを搬送する車の中で刺し殺し、渡辺に殺人罪を着せて復讐しようとしたのだ。二転三転する中、裁判は一旦持ち越しとなり、小林は逮捕される。チンたちは日本の盆の花火を見学して大団円で映画は終わる。

 

とにかく面白い。どこかで見たようなシーンや、ラストの「人間の証明」のテーマ曲で、小林と渡辺のドラマを盛り上げるノリには拍手してしまった。裁判官は鈴木保奈美だったり、村田が染谷将太だったり、そのほか、活躍中の日本俳優総出演に近い豪華さ。さらに、ラストのQの会議の場面にいたのはアンディ・ラウだった気もする。懐かしい香港映画のノリで突っ走る娯楽大作で、それでもドラマ部分に手を抜かない脚本も楽しいし、ラストの大花火シーンの締めくくりも本当に楽しい。中国映画、こういうのも作れるんやなとにかく大喝采しました。