くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「屋敷女」(ノーカット完全版)「復讐者たち」

屋敷女

かなりグロいスプラッター映画ですが、ホラー映画としては傑作でした。テンポの良い映像、次々と登場人物を入れ替える小気味良いストーリー展開、細かいところまで配慮された脚本によりリアリティ、恐怖心を次第に高めていく伏線の数々、どれをとっても、怖がらせるための一級品が揃っています。監督はジュリアン・モーリー

 

体内の赤ん坊の映像からカットが変わると2台の車の事故現場に移る。地面を這うようにカメラが迫り、運転席に移るとひとりの妊婦が血だらけで座っているが、なんとか生きているようで、隣の主人だろうか名前を呼ぶが明らかに死んでいる。そして四ヶ月が経つ。

 

産婦人科で検診を受ける主人公サラ。今日はクリスマスで、明日には出産予定だから今夜はゆっくりするようにと医師に言われる。待合室でいると、いかにも素行の悪そうな看護婦が座りにきて隣でタバコを吸う。迎えにきた母と一緒に帰るが、サラはこの母親にもそっけない態度を取る。会社の上司のジャン=ピエールが公園でシャッターを切るサラの隣にくるが、無神経にカメラの前を歩きサラをいらつかせる。サラはジャン=ピエールに明日の迎えを頼む。

 

家に帰るが、突然ミルクを吐く悪夢を見て目が覚めると玄関でチャイムの音。覗き穴から見ると顔が見えないので、電話を借りたいというのを断るサラだが、執拗にドアを開けるように言う訪問者。しかもサラのことも夫が事故で死んだことも知っている。なんとか追い返すが、ベランダの外に立っていて、ガラスを割ろうとする。報道カメラマンでもあるサラはカメラを向けシャッターを切るが影で写らない。一方で警察へ連絡し、女は何処かへ消える。サラはジャン=ピエールにも電話をして、見て欲しい写真があると告げる。

 

しばらくして警察がやってくるが、結局何もなくて、パトロールにまわるように連絡するといって帰る。ところがサラがベッドで眠っていると傍に女が立っている。そしてハサミを持ってきてサラの臍に突き立てる。痛みで目覚めたサラは、必死で反撃し、二階の洗面所へ立て篭もる。そこへ、たまたまジャン=ピエールが立ち寄る。出て来た謎の女を母親と間違えて話しているところへ、サラの母がやってくる。ジャン=ピエールは不審に思う一方、サラは二階の洗面所に物音がしたので上がっていく。ところが気が動転しているサラは間違って母親を刺し殺してしまう。さらに、ジャン=ピエールは、謎の女に襲われ殺されてしまう。

 

サラは母を殺したことでショックを受け、母を殺した罪悪感で混乱してしまう。謎の女はさらにサラに迫ってくる。そこへパトロールの刑事がやってくる。出て来た謎の女をサラと間違えるが、不審に思い再度家に入る。サラは逃げようとして謎の女にハサミで手を突き刺されていた。異常事態に気づいた刑事は一階の相棒に叫ぶが謎の女は手に持っていた菜箸のようなもので刑事を刺し殺す。2階の刑事はサラを助けようとするが、銃を奪った謎の女に撃ち殺される。銃声を聞いた外で待っていたもうひとりの刑事が、車で搬送予定の不良少年に手錠をかけて二人で部屋に突入、謎の女を追い返し、サラを助けようとするが、謎の女はブレーカーを落とし真っ暗にし、ブレーカーを治そうとしている刑事を撃ち殺す。そして不良少年の頭にハサミを突き刺す。死にきれずゾンビのようになる少年。

 

サラはベッドでぐったりしていたがそこへ謎の女が覆い被さってくる。サラは女の唇を噛みちぎり、台所に降りるがそこに襲いかかる謎の女は、サラの目の前でタバコを吸うので、サラはスプレーをかけて女の顔を焼く。サラは包丁にパイプを差し込んで武器にして女を追い詰めると女は、自分は事故の時の相手の車を運転していた女だと白状。その時妊娠していた女は赤ん坊を死なしてしまっていた。サラはリビングへいくと、そこにいた不良少年を刑事と間違えて近づくが、朦朧としている少年はサラを襲う。そこへ謎の女が出て来て、少年を刺し殺してしまう。必死で二階に逃げるサラを追って謎の女が迫る。サラは階段の途中で耐えきれなくなり出産し始めるが生まれてこない。ハサミを持った謎の女がサラのお腹を裂き、赤ん坊を取り出し、抱き上げて椅子に座って映画は終わる。当然サラは死んでしまう。

 

次々と人物が入れ替わり、殺されるかと思うと次の展開へ。しかも、母である二人の女の執念の対決もしっかり描いているし、冒頭で紹介される登場人物の配分も実に上手い。確かにエグいほどにグロテスクでスプラッターな場面が連続するが、謎の女のコマ落としで描く不気味なショットや、耳障りな音響効果を挿入した絵作りも嫌味がなくてうまい。ホラー映画としては非常に出来の良い傑作ではないかと思います。

 

「復讐者たち」

復讐というものの本質をテーマにしたしっかり作られたサスペンスですが、ラストに今ひとつ胸に迫ってくる迫力にかけたのは、やはり、架空のどんでん返しに仕上げたせいかもしれません。確かに鮮やかに誘導されるのですが、それはあくまで映像のテクニックで終わってしまった感じですね。次第に本気でのめり込んでいく主人公と、次第に冷静な方向へ変化していくアンナの好対照の心の変化の流れは実に上手い。しかしラストで技巧的に締め括ったので、せっかくのそこまでの力量の演出を活かせなかったでしょうか。でも、クオリティは非常に高い一本でした。監督はドロン&ヨアブ・パズ。

 

ある家庭、庭にひとりの男が立っているので、ここの家の主人が出ていく。立っていた男はマックスと言い、何故自分たち家族を密告したのかと責めるが、家の主人はマックスを銃で殴り倒す。時は1945年、既に第二次大戦は終わっているがマックスの妻と息子はナチスに殺されたようである。

 

浮浪者の溜まり場でマックスはアブラムという男と出会う。二人でパレスチナを目指すが途中でイギリス軍のユダヤ旅団と出会う。アブラムはその旅団の基地からパレスチナへ向かうが、マックスはここに残り、ドイツ人の将校たちを私刑している活動に参加することになる。しかし、まもなくしてこの旅団もパレスチナへ本拠を移すことになる。そんな頃、ナカムと呼ばれる秘密組織がドイツ人への大規模な殺戮作戦を計画していることがわかる。旅団の隊長はそういう行為は逆効果だからと阻止するべくマックスに、その組織に潜入して情報を得るように依頼する。

 

マックスは持ち前の機転で組織に入り込み、アンナというメンバーとも親しくなる。リーダーはアッバという男で、彼らは、修理中の浄水場に毒を流しドイツ人の無差別殺戮を計画していた。マックスは最初は情報を得るだけだったが、次第に復讐に染まり始める。息子を殺されたアンナは、最初は復讐に燃えていたものの、ドイツ人の子供まで殺すということに抵抗を覚え出す。

 

なかなか具体的な情報が得られない旅団の隊長は、ついに強行的に組織に突入してくる。その頃、アッバはパレスチナで毒薬を手に入れる段取りをすめていた。アッバの帰りが三ヶ月にも及ぶ中ようやく手紙が届く。それを読んだマックスは、突入して来た旅団の隊長に、アッバは失敗したらしいという嘘の手紙を渡す。ところが間も無くしてアッバは帰ってきた。アンナは、アッバを待たずに去っていく。マックスはアッバと共に毒薬を流すべく浄水場へ向かう。旅団の隊長がマックスを追い詰めるがマックスは返り討ちにして毒薬を撒く。翌日、道に大量の死者が倒れていた。

 

と思ったが、実はマックスが読んだアッバから来た手紙には、アッバは毒薬を手に入れたが港に着く前に逮捕され、その時、調達した毒薬は海に捨てていた。つまり、現実には大量殺戮は実行されず、マックスの妄想だったのだ。マックスはその後、パレスチナへ移り、平和に暮らした。年老いたマックスが、本当の復讐とは、そんなことを考えない世代を作り出すことだと語って映画は終わる。

 

丁寧にたたみかけるストーリーと心理描写が優れた作品で、ナチス映画ながら、次第にこういう傍の物語に変化してきたのが伺える1本でした。