くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ダウン・バイ・ロー」「ゴースト・ドッグ」

ダウン・バイ・ロー

見逃していたジム・ジャームッシュ監督作品を、彼の特集上映で見る。屈託のない軽快なタッチで描いていくドライなコメディという感じで、淡々としたユーモアが散りばめられた展開がさりげなく笑いを生み出していきます。モノクロ画面も美しいし、背景の景色もどこか引き込まれます。評判通り、小品ながら秀作でした。

 

墓地のそばに停まっている霊柩車のカットからカメラが左にパンして映像が始まる。同時に軽快な歌声と音楽、街の様子をなめていったかと思うと、折り返してカメラはさらに反対方向へパンして移動していく。そしてタイトル。

 

DJをしているザックは妻から罵声を浴びている。どうやら放って置かれている不満をぶつけられているようである。シーンが変わると、黒人の娼婦といるぽん引きのジャック。知り合いががいい話があるとやってくる。ジャックが言われたホテルに行ってみると女がいる。そこへ突然警察が踏み込んでくる。ハメられたと思った時は遅く女は明らかに子供で、ジャックは逮捕される。

 

夜、追い出されたのか街の隅で佇むザックのところに知人が近づき、簡単な仕事があるからと申し出る。ザックは車を移動させるだけの小一時間の仕事だと言われて、車を走らせているとパトカーに止められる。トランクを開けると死体が入っていた。

 

留置所をゆっくりとなめりようにカメラが進むとある一角、ザックが収監され、間も無くジャックもその部屋に収監される。最初は会話もないが、することもないので、次第に話し始める。そこへ、イタリア人のお調子者ロベルトが収監される。三人は退屈な日を過ごすうちに次第に親しくなる。何もすることがない日をユーモア満点に描いていく。

 

ある時、ロベルトは、庭で散歩の時に逃げ道を見つけたという。そして、三人が庭に出た時に、その逃げ道から脱獄する。地下道を通り、森に入り、沼を通り川を渡る。木々に囲まれた中を進む三人の場面が美しいほどにドライ。しかも、普通なら悲壮感が漂うところが、ユーモア溢れる会話の応酬と、さりげない笑いを誘う小ネタシーンで淡々と進むリズムが心地よい。調子良いロベルトがウサギを捕まえてみたり、泳げないとゴネてみたり、ムードメーカーになってストーリーを牽引していく。

 

三人はルイーズの店というカフェにたどり着く。様子を見にロベルトが先に入るがなかなか出てこないで夜になる。ジャックとザックが痺れを切らして入ってみると、なんとロベルトはその店の女主人と懇ろになっていた。翌朝、ここで女主人と暮らすことにしたロベルトを残して、ジャックとザックは店を後にする。別れ道で、ザックとジャックはそれぞれ別れ、カメラは二人を捉えて映画は終わっていく。

 

終始淡々と流れるリズムが独特のユーモアと相まって、ニンマリとした笑いを繰り返しながら展開していく映像がとっても楽しい。ロビー・ミュラーのモノクロ映像が実に美しく、森や沼、延々と続く道など、絵のように物語を引き立てます。大傑作というより秀作という表現がぴったりのいい映画でした。見れてよかったです。

 

ゴースト・ドッグ

これは面白かったし、映画としても相当に良かった。散りばめられるユーモアとキレのある殺人シーン、そして日本の武士道を核にした三者のアンバランスが見事にコラボして最後まで飽きさせません。監督はジム・ジャームッシュですが、やはり彼は才能あるなと実感しました。

 

一羽の鳩が空を舞っている。街並みを捉えるカメラが一軒の建物に入っていくとそこに一人の黒人が銃を準備している。ブリーフケースのようなものを持ち、車を巧みに盗んで、一軒の建物へ入っていく。中には一人の男が女と一緒にいた。黒人の男はその男を鮮やかに殺すが、一緒にいた女から一冊の本を借りる。彼の名前はゴースト・ドッグと言われる殺し屋だった。彼は、マフィアで命の恩人でもあるルーイからこの男フランクを殺すように言われたのだ。フランクと一緒にいた女はマフィアのボスの娘ルイーズで、本当はその場にいないはずだった。ルイーズはゴースト・ドッグに「羅生門」を貸す。

 

ゴースト・ドッグは日本の武士道を愛し、「葉隠」という武士道の本を教科書に、伝書鳩を使って依頼人から連絡を取りながら仕事をしていた。公園でくつろぐゴースト・ドッグに一人の少女パーリーンが近づき親しく話す。そして、ゴースト・ドッグには友人でアイスクリーム屋をしている男がいたが、ゴースト・ドッグは英語、アイスクリーム屋はフランス語でお互い言葉は違っている。にもかかわらず、なぜか通じているという会話シーンもまた面白い。

 

一方マフィアのボスレイは、フランクを極秘裏に殺すはずだったが、ルイーズに見られたことで、ゴースト・ドッグを殺すように指令を下す。しかしマフィアの部下たちは皆高齢になっていて、ゴースト・ドッグが黒人で屋上に伝書鳩を飼っているというだけで、適当に殺し始める。この展開もまたブラックユーモア満載で、インディアンがいたり黒人を馬鹿にしたり平気で行動していく。一方、ルーイもまたマフィアの仲間に命を狙われ始め、マフィア間の権力争いも起こり始める。

 

ゴースト・ドッグが、ある夜家に戻り鳩の小屋に行ってみると鳩が全て殺されていて部屋も荒らされていた。ゴースト・ドッグ復讐に燃え、銃を準備する。そこへ残った最後の一羽の鳩が来る。ゴースト・ドッグはその鳩に最後の伝言を届けさせ、いざマフィアの居城へ向かう。

 

最初は、ボスを遠方から射撃するはずだったが、すんでのところで小鳥に邪魔をされ、仕方なく、突入して次々と殺していく。しかし、ルーイを狙っているソニーは撃ち漏らすが、後日、ソニーの自宅へ侵入し見事に暗殺してしまう。しかし、ルーイもまたゴースト・ドッグを狙っていた。

 

ゴースト・ドッグは命の恩人であり、主人と敬うルーイを殺すわけにいかないので、空の銃を持ちルーイの前に立つ。ルーイはゴースト・ドッグを倒す。こうして物語は終わっていくが、ゴースト・ドッグがパーリーンとの会話の中で「羅生門」の感想を聞いたり、最後に、ゴースト・ドッグは「羅生門」をルーイに渡したりする。さらに死の間際、ゴースト・ドッグはパーリーンに自分の愛読書「葉隠」を託したりと、至る所に武士道や日本文化を取り入れる演出を加えています。さらに、マフィアが家賃の支払いが滞り家主に責められたり、高齢になって思うように体が動かなかったり、別々の言語で言葉が通じ合ったりと、いろんな場面がユーモア満載である。絵作りも美しいし、ゴースト・ドッグが殺す場面はプロらしい鮮やかさがあるし、隅々まで楽しめる傑作でした。