くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「夢見通りの人々」「女咲かせます」

「夢見通りの人々」

ほのぼのしたとっても心温まる名篇でした。大阪の下町の人間模様を素朴に描いていくだけなのですが、細かいところまで行き届いた演出が見られ、隙のない展開は見事なものです。決して大傑作ではないけれど心に残る作品でした。監督は森崎東

 

詩が好きな主人公里見が電車の中で詩集を読んでいる場面から映画は始まる。しかし、彼の好きな詩はそういう詩好きの集まりでは誰も認めないのが不満だった。彼は大阪鶴橋の外れの夢見通り商店街の一角に住まいしていた。かつては蒲鉾屋だったが彼がサラリーマンとなった今ではすっかり店は廃れていた。彼は、美容院で働く光子のことが好きだった。映画は里見を中心に、この商店街の人々の人間模様を順番に描いていくが、そこにあるのは、誰もが忘れかけていた人間同士の心の触れ合いだった。

 

軒先の燕の巣を大事にして息子の帰りを待ちタバコ屋のおばあちゃんの話、未成年なのに、恋人に子供ができてしまい、駆け落ちするものの戻ってくる。女の子は結婚する気もなく一人で育てるというエピソード、ヤクザをやりながら肉屋を手伝う竜一は、ふとしたことから光子と親しくなり、やがて相思相愛になるが、光子は竜一に、刺青をなくしてくれたら結婚すると言う。竜一は里見に、医師の友達に取る方法を聞いてもらうが、里見は、竜一が恋敵だと知って嘘を言ってしまう。しかし、そんな二人を置いて、光子は母の待つ田舎に帰ってしまい、二人は本当の友達になっていく。写真屋の男森はホモだが、里見と関係があるなどという噂が流れ、森が堂々と物干し台で大見栄を張るエピソードから、そんなこんなの商店街の姿を見て、この地を出ていこうとしていた里見はずっとここに住むことに決めて映画は終わる。

 

とにかく、全編があったかい人と人の物語に溢れています。その暖かさに、見ている私たちも絆されて、心が豊かになって劇場を出ていく。そんなとっても素敵な作品でした。

 

「女咲かせます」

これは傑作でした。野村芳太郎監督の「白昼堂々」のリメイクですが、主人公を野村芳太郎監督版の渥美清から女性の松坂慶子に大胆に変え、しかも全盛期の松坂慶子の恐ろしいほどの演技力、コメディエンヌぶりとその美しさで映画がどんんどん盛り上がってきました。クライマックスの松坂慶子の長台詞には涙が止まりませんでした。監督は森崎東

 

長崎、一軒のアクセサリー店にサングラスの女が入ってくる。一人の女子高生が万引きをして捕まったのを見て巧みにその女子高生を連れ出し助けてやる。この日、父の遺骨を故郷へ埋めるために来たのだが、もう一つの目的は、彼女の仕事仲間ワタ勝を訪ねて最後の大仕事を頼むためだった。彼女の仕事は泥棒で、最後の仕事にしたのは東京のデパートのクリスマスの売り上げを強奪するものだった。しかし、ワタ勝は断ってしまう。

 

仕方なく東京に戻り、東京で仕事を続けている仲間と準備を進めるが、そこへ、ワタ勝が仲間を連れてやってくる。こうして計画は前に進み始める。デパートに勤める銀三も参加して進んでいくが、彼女をつけ回す大耳という刑事が彷徨き始める。豊代の住まいの二階にはチェロ奏者の若者三枝がいて、近々コンクールがあり、豊代は三枝のことが好きだった。

 

決行日は26日のつもりだったが、ふとしたことで大耳にバレていることがわかる。そこで日程を前倒しにして決行したが、大耳も待ち構えていた。それでも、なんとか強奪に成功、長崎に帰る新幹線に乗ろうとするが、ホームに大耳の姿を見かけた豊代は、面が割れていない仲間だけ列車に乗せ、自分は覚悟を決め隠れる。ところがその列車に三枝の母も乗っていて三枝が見送りに来ていた。しかも、三枝の妹から、兄がコンクールで入賞したらプロポーズするらしいことを聞く。三枝に見つかった豊代は、大耳に見つかることを覚悟で姿を表す。そして大耳に10分だけ待ってほしいと言って三枝と最後の駅弁を食べる。豊代は、幼い頃泥棒をして捕まった話をするが、ここの長台詞が素晴らしく、まさに松坂慶子の真骨頂という感じです。そして、三枝に嘘をついて、大耳がフィアンセだと大耳と去っていく。

 

刑務所に面会にきて、出所するまで待つという三枝に、豊代は、そんなことは無理だろうと答える。そして3年が経つ。長崎の炭鉱のボタ山に隠した金を豊代たちが運び出している。チェロの音色が聴こえてくる。豊代は、チェロを弾く三枝の方へ必死で登って行って映画は終わります。

 

野村芳太郎版は、荒唐無稽な犯罪映画という感じでしたが、松坂慶子に主演を変えたことで、不思議な色気が備わり、松坂慶子の演技力も相まって、バランスの良い映画に仕上がった気がします。本当に良かった。