「シンデレラ3つの願い」
シンデレラの物語を元にしたノルウェーのファンタジー映画で、ロードショーの時に見逃していた一本。真っ白な雪景色と、美しい馬がいかにも北欧らしい風景で、映画自体はそれほど目新しいものはないけれど、心地よい鑑賞後感を感じられる映画でした。監督はセシリエ・モズリ。
ノルウェーの小さな村、真っ白な雪の中にある両親の墓の前にいるシンデレラの姿から映画は幕を開ける。今は継母の元で暮らしているが継母はシンデレラを使用人のように使っていた。この日も朝の用事をする時間になり慌てて家に戻る。村の人々も動物たちもみんなシンデレラの味方で、彼女を継母からさりげなく守っていた。家に帰ると、継母は、間も無くやってくる王子の訪問のため、一人娘を磨いていた。
シンデレラはあてがわれた自分の小屋にいる真っ白な愛馬を可愛がっていたが、従者のアレックスは、王子が来るから村は大騒ぎなので自由に出ていけるとアドバイスする。シンデレラは愛馬に乗って雪原に飛び出す。一方お城からは王と王妃のみがやってきた。王子は王に色々言われるのが嫌で逃げられたのだという。継母らは王と王妃を丁重に迎える。
馬で飛び出したシンデレラは、動物を射落とそうとしている一人の青年を見つけ、無用な殺生をするなと咎める。そして二人で馬を刈って走る。青年は王子だった。王子は一目でシンデレラに惹かれるが、追いついてきた従者と一緒に狩に去っていく。継母は王たちから強引に舞踏会の招待状を手に入れた嬉々としていた。そしてアレックスに、娘にスタイリストを連れてくるように命令する。アレックスは馬車で街に出かけるが、途中、王子が放った悪戯の矢が梟の巣を撃ち落とし、中から三つの木の実をアレックスにもたらす。アレックスはそれをシンデレラに土産として届ける。
シンデレラは何気なくその木の実をひとつちぎると、みるみる変化して、父親が身につけていた美しい狩猟服を生み出しシンデレラに着せる。シンデレラはそれを着て再度雪原に飛び出し、王子と再会するが王子は気がつかないまま、父にもらった許嫁に渡す指輪を与え名前も聞けず別れる。やがて舞踏会の日、継母と娘は着飾ってお城へ向かうがシンデレラにはスパンコールの色分けをするようにと仕事を言いつけて去る。
舞踏会に行きたいシンデレラは、半信半疑で木の実の二つ目を床に落とすと、みるみるドレスが出てきてシンデレラを包む。それは母のドレスだった。シンデレラは愛馬に乗り城を目指す。そして、宴たけなわながら飽き飽きしてきた王子が逃げ出そうとするところへシンデレラが駆けつける。シンデレラは継母に見つからないように顔にはベールをかぶっていた。
王子はシンデレラに一目惚れしダンスを踊るが、継母の視線がシンデレラに向いてくる。見つかることを恐れたシンデレラは急いで会場を走り去るが途中で靴を落としてしまう。王子はその靴を拾い、村に娘を探しにいく。真相がわかった継母が村に戻ると、王子が娘たちを集めて靴を履かせていた。
継母はシンデレラの小屋に行き、シンデレラのドレスを奪い娘に着せて王子の前に連れ出す。靴を履くまでわからないという王子から無理やり指輪を奪い、娘と馬車に乗って城へ走り出す。それを追いかける王子。シンデレラは継母に地下室に閉じ込められたがなんとか脱出、王子を追いかけようと三つ目に木の実を床に投げるが何も起こらない。
シンデレラは父の狩猟服を身につけ王子を追いかける。継母らの馬車は途中の橋で壊れて落ち掛けるが王子が助ける。そこへシンデレラが駆けつけるが、継母は王子を川に突き落とす。なんで?という展開ながら、シンデレラが矢を射て王子を助け、継母の自由を奪う。娘も母の行いに嫌気がさす。
王子は助かり、これまでシンデレラと交わした会話を繰り返して本人だと確信して、許嫁に送る指輪を再度渡す。村に戻り、王子はシンデレラと結婚することを宣言、継母の娘も別の男性に求婚され村はハッピーになる。大雪原の中、シンデレラと王子が馬を走らせていって映画は終わる。
少々あっさり感がないわけではないし、なんで?という展開がやや強引ですが、素朴な感じのシンデレラストーリーという雰囲気の一本でした。
「セールス・ガールの考現学」
こういう映画は大好きです。一人の少女が次第に自分の生き方に目覚めて成長していく爽やかさがとっても気持ちいい。それにモンゴルの現在というのが綺麗に感じられて、勉強にもなる。音楽を演奏するミュージシャンをオーバーラップさせたり画面の色彩が主人公が音楽を聴くことで変わったりする演出は目新しいわけではないけれど、地味で大人しい雰囲気の主人公が女らしく大人びて垢抜けていく様がとにかく瑞々しい青春映画を感じさせます。アダルトショップを舞台にするという設定も上手いし、ちょっとした佳作でした。監督はジャンチブドルジ・センゲドルジ。
道路に置かれたゴミ箱、バナナというテロップ、投げられたバナナがゴミ箱に入らずに通りに落ちる。次々と人が通るが踏まれることはない。そこへ一人の学生ナモーナが通って転んで、次の瞬間骨折して、学校の同級生サロールにバイトの代役を頼んでいる場面になる。いかにも地味で目立たない原始力学を専攻するサロールは、それほど親しくないナモーナからの頼みを渋々受ける。そこはアダルトグッズのショップだった。
ショップで店番をしてオーナーのカティアのところに売上を届ける仕事で、サロールはカティアの住む豪華な邸宅にやってくる。カティアは相当な金持ちらしく、食事をご馳走してくれたりケーキをくれたりする。かつて有名なダンサーだったらしいカティアは、外出しても知人が多く、その知名度が計り知れた。何かにつけて呼び出されるサロールは、次第に彼女から色々な人生観を聞かされるが、それはカティアの人生の反省であるかのようだった。
両親の勧めで原始力学を勉強しているサロールだが、本当は絵が好きで、自室では絵を描いて過ごすこともあった。カティアはピンク・フロイドのレコードをサロールに見せて、その匂いを嗅がせて1970年代を感じるように言う。サロールはバイトの帰り、大きなヘッドフォンで音楽を聴くが、それに合わせてバスの中の照明が変わったり、乗客が一緒に歌ったりとポップな演出が展開する。
サロールにはボーイフレンドがいて、いつもセントバーナードの犬がいるが、生気のない犬だった。彼は俳優になると言うぼんやりした夢を持っていた。映画は、サロールが店とカティアの家を往復する姿の合間に庶民的な家庭の両親の姿、客の描写などを淡々と描いていく。
カティアと車に乗っていて、路上でキノコを売っている少女を見かけ、その父親の売っているものをカティアは全部買ってやったりする。ある時はサロールはラブホテルにグッズを届けに行って娼婦取締りの現場に遭遇し、警察に捕まったりする。またある時は、客の元にグッズを配達したサロールは危うく襲われそうになり、嫌気がさしたサロールはバイトを辞めるとカティアに宣言する。
そんなサロールに執拗にカティアは接触してくる。そして、自分はかつてお腹に赤ちゃんがいたことがあると話したり、たくさんの男性と関係があったがみな自分から去っていったと話す。
そんなカティアに、サロールは、自分たちのようなその日その日の生活を一生懸命している幸せをわかっていないと告げる。カティアは、サロールの家に行きたいと言い、深夜サロールの家の裏にまわり、そこにサロールの鉛筆を埋めて、つまらないことを隠してしまおうと言う儀式めいたことをする。
サロールはバイアグラをボーイフレンドの犬に勝手に与えたりする。ある日ボーイフレンドは、犬がいなくなったと嘆いている。サロールはその犬が別の雌犬を追いかけているのを見つけたりする。両親の元気がないので、勝手にお茶に精力剤を溶かせてみたりもする。
サロールは一人でホテルに行き、アダルトグッズのセクシーな下着をつけて、ディルドを使ってみたりするが思うように感じなかった。いつものようにボーイフレンドと話していたサロールは、自分の部屋にボーイフレンドを招き入れる。そして全裸になって誘うがボーイフレンドはコトに及ぶ前にイッテしまい大笑い、そこへ両親が帰ってくる。
サロールは、意を決して、両親に本当にやりたいことを話す。そして、今の大学を辞めて絵の勉強をし始める。服装も垢抜けたファッションになり、下着もおしゃれなものになったサロールは、骨折が治ったナモーナにバイトを戻すが、店にってみると子供服の店になっていた。カティアの家に行ってみると引っ越していないくなっていて、別の人がカティアから預かったサロールへの小包を手渡す。
サロールが公園で小包を開くと、キノコの浅漬けと真っ赤なスカーフ、ピンク・フロイドのレコードが入っていた。サロールはそのスカーフを首に巻いて意気揚々と歌いながら彼方に去っていく。カメラが引くとその曲を演奏するミュージシャンの姿になり映画は終わる。
とっても瑞々しいほど爽快で爽やかな青春ムービーで、とにかく主演の女の子がみるみる可愛らしく変身していく様が素敵。モンゴルという国のイメージを一新するような心地よい映画でした。