くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「浜の朝日の嘘つきどもと」「ムーンライト・シャドウ」

「浜の朝日の嘘つきどもと」

なんともダラダラした脚本で、前半はまだテンポが良かったが、後半はとりあえず作ったという感じでしかない展開とエンディングにため息が出てしまった。ほとんど高畑充希大久保佳代子の演技力だけで引っ張っていく作品で、いくらテレビドラマの前日譚だからといっても、もうちょっとしっかり作ろうよという映画だった。監督はタナダユキ

 

朝日座という映画館にサイレント映画がかかっていてその最後が終わったところから映画は始まる。一人の女の子、浜野あさひが福島に降り立つ。道に迷った末たどり着いたのは取り壊しが決まった朝日座という映画館。映画館主の森田は手持ちのフィルムを燃やしていた。そこへ駆けつけた浜野は必死でフィルムを守る。浜野と森田のコミカルなやりとりの後、この映画館がスーパー銭湯に生まれ変わる話、不動産屋に駆け込む話、そして、森田の借金のためにクラウドファンディングを立ち上げる話までテンポよくコミカルに進む。

 

高校時代、東日本大震災で、人を助けるために個人タクシーで頑張った父が財を成したために逆にいじめられ、居場所がなくなる浜野の過去が語られ、自殺を決意した浜野は破天荒な女教師田中と知り合う。やがて浜野の家族は東京へ移るが母はノイローゼになり、父は出て行き、浜野は家出して田中のアパートに転がり込む。男遍歴の多い気のいい田中との展開から、やがてベトナム人パオと田中のラブロマンス。

 

実家に連れ戻された浜野は映画の配給会社に入るが、そんな時田中が乳がんで余命幾ばくもないと聞かされ、その遺言に朝日座を守ってほしいと言われる。そこで浜野は朝日座にやってきた。クラウドファンディングもそれなりにお金は集まるも、思った以上に費用がかかることがわかり頓挫。解体が決まった朝日座を見つめる浜野と森田のところに、突然、浜野の父とパオの参加で、目標の資金が集まったという知らせが届き、無理やりハッピーエンドで映画は終わる。

 

前半の、小ネタ満載のコミカルなドラマを、高畑充希の持ち前の感の良さで牽引していくが、田中が亡くなり、取り壊しが決まってからのダラダラした長台詞の連続には流石に芸がなさすぎる。結局、無理矢理終わって締め括るものの、コロナの影響で企画が無くなってきたのを目の当たりにする一本だった。

 

「ムーンライト・シャドウ」

断片的な映像を繰り返し繋いでいくちょっとシュールな詩的な面白い作品で、しかもカメラが抜群に美しく、色彩と光の演出にこだわった画面に引き込まれて行きます。光がゆっくりとオレンジに変わったり、明かりが当たったり閉じたりを繰り返すこだわり、さらに衣装の色にも工夫が見られるのにも魅了されます。広角レンズと開放した露出を多用した極端な背景のぼかし、さらに奥行きのある構図、とにかくテクニカルを駆使した画面が秀逸。技術にこだわりすぎたためにストーリーテリングが弱くなるかと思うとそうでもなく、全体が見えた上での作画に酔いしれました。映像監督はエドモンド・ヨウ。

 

一人の女性さつきがマイクの前で語っている場面から映画は始まる。カットが変わり、川にかかる橋を歩く。鈴の音が始まりだったというような呟きから、河原を何かを探し歩くさつき。インサートで挿入されるカットが抜群に美しく、そしてイヤリングも落としたようで探していると、河原の草に引っかかった鈴を持って一人の青年等が現れる。後ろからさつきを捉える明かりがゆっくりオレンジに変わる。続いて二人がボートの上で抱き合っている。二人は意気投合し恋人同士になった。

 

等には弟の柊がいて、ぜひさつきに会って料理を披露したいと言っているらしい。柊が恋人のゆみこと現れ、四人は柊の作った食事を食べ和やかに歓談し、四人で遊ぶようになっていく。月影現象という使者と再会できる現象があるという柊。柊は遊んでいても突然眠くなって寝てしまうのだという。

 

さつきが一心にジョギングをしている。音のしない鈴をグラスに置くさつき。フラッシュバックして、さつきに柊から電話が入ったシーンへ。柊が眠ってしまったのでゆみこを車で送って行った等が事故を起こし、二人とも死んだという。ゆみこが生前着て、水の音を聞いていたセーラー服を柊が着ている。これを着ることで平静を保てるのだという。さつきもほとんど食事をとっていないままだった。かつて等が、この街の地下には網の目のように地下水の川があると話していた。その話は井戸掘り職人の充さんに聞いたという。柊は充さんに会いに行こうとさつきに言う。

 

充さんの傍で世話をする蛍という女性がいた。蛍はさつきにも声を録音してみようと提案、冒頭のシーンとなる。さつきは突然涙を流し、お腹が空いたと語る。柊は、蛍が月影現象を見るための案内人ではと聞く。蛍は明後日の夜明け前に橋に来るようにと二人に告げる。その朝、さつきは高熱で寝込んでいた。しかし部屋に現れた蛍は彼女を連れて川へ行く。そこには柊もいた。まもなくして河岸の向こうにゆみこが現れる。続いて、草むらから等が現れる。柊とさつきは街に戻り、道で分かれる。さつきは、これからまた新しい出会いがあると呟いて映画は終わっていく。

 

全編、淡々とシーンをつなぎ合わせて流れていく。カメラが美しいので、一つの詩篇のような色合いを帯びてくる独特の作品で、この監督の前作「Malu 夢路」もシュールでわかりにくかったが、それよりは良かった。とにかくカメラが美しいこと、衣装の色使いにも拘った映像が好感の一本でした。