くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「先生、私の隣に座っていただけませんか?」「スザンヌ、16歳」「ショック・ドゥ・フューチャー」

「先生、私の隣に座っていただけませんか?」

これは面白かった。脚本の出来の良さと、演者の演技力の賜物と言う一本でした。プロットの基本は渡辺淳一の「あじさい日記」ですが、それを日記から漫画に置き換え、さらに二転三転、虚構と現実を交錯させた構成は面白い。終盤、もうちょっとアッサリ感があれば爽快感が残ったが、そこをもう一捻りしたミニシアター的なエンディングはあれはあれで評価できると思います。監督は堀江貴大

 

漫画家の夫婦左和子と俊夫の自宅、左和子が連載の最終回の原稿を仕上げたところから映画は始まる。夫の俊夫は人気漫画家だったがこの5年ほど全く書けていなくて左和子の背景などを手入れしていた。編集担当の千佳が左和子の原稿を受け取る。実は千佳は俊夫と不倫関係にあり、薄々気づいている左和子は俊夫に千佳を送ってあげるように言う。この時の左和子を捉える細かいカットは秀逸。ここにこの映画の真相を一気に見せてしまう。

 

ところが、突然左和子に母から電話が入り、事故に遭ったのだという。俊夫が運転して左和子たちは母の元へ向かう。左和子の母は人里離れた田舎に住んでいた。左和子は、連載も一段落したこともあり、実家にいる間に運転免許を取ることにする。俊夫が教習所まで送り迎えをすることになるが、左和子は教習の初日、全く運転できなかった。

 

ところが次の日、運転できたと喜ぶ左和子の姿があった。たまたま、朝送って行って、迎えに行くまで左和子の母の自宅に戻った俊夫は、左和子のデスクに次の漫画の原稿があるのをみつけ読んでしまう。そこには、俊夫と千佳の不倫のことが、先日の出来事そのままに描かれていた。しかも、左和子は教習所で知り合った教官新谷と懇ろになっていくのが描かれていた。題名は「先生、私の隣に座っていただけませんか?」だった。

 

ある迎えの帰り、俊夫は我慢できなくて左和子を問い詰める。対して、左和子はあれが現実そのままなら、不倫しているのかと聞かれ、していないと俊夫は答えてしまう。左和子の原稿はどんどん進み、新谷のことが気になる俊夫は教習車の後をつけたりする。やがて、免許を取った左和子は、ある時一人で車で出かけて帰って来なくなる。

 

心配した千佳もやってくるが、行方不明と思われていた左和子から原稿の続きがFAXで届く。左和子は新谷と出かけていた。原稿を見た千佳は、次の連載に嬉々とし、しばらくここに泊まることになるが、そこへ左和子が帰ってくるという筋書きが届く。しかも新谷と一緒に。待ち構える千佳や、左和子の母、俊夫の前に新谷と左和子が現れる。そして左和子はそそくさと2階へ行き、原稿の続きを書き始める。

 

俊夫は思い切って新谷に問い詰めると、それはみんな左和子の空想だと答える。安心した俊夫は左和子のところへ行き、原稿の物語と交錯させながら、自分の不倫を謝る。左和子は、俊夫にペン入れを頼む。俊夫はかつて左和子の先生だった。そして左和子にとっては俊夫は私の隣に座って欲しい先生なのだと告白する。なかなか降りてこない二人を千佳と新谷が覗きに行くと二人仲良く机に向かっている姿を見る。

 

やがて朝が来て、寝落ちしていた俊夫が目覚めると、左和子がいない。部屋にも下にもいない。そして、原稿が残っていて、左和子はまんまと騙した俊夫らを後に、新谷と出て行ったとなっていた。しかも左和子の母は、左和子が俊夫の不倫を許していなかったのを見破る。そして最後に、この原稿の流れは編集長に連絡済みで、千佳のところに連載スタートの知らせが入り、原作左和子、作画俊夫という形式になると告げられる。あっけに取られる俊夫、車を運転し、隣にいる誰かに微笑みかける左和子のショットでエンディング。

 

果たして、ラストはフィクションか現実か、どこまでが虚構かはぐらかして終わる流れは実に上手い一方で、もう一歩芸がないように感じる。終盤、登場人物全員が揃って舞台劇のような様相になる映像作りは面白いのだが、前半の動きのある展開が静止したのはちょっと勿体無い。でも、なかなかの佳作でした。

 

スザンヌ、16歳」

ちょっとセンスのいい映画でした。シンプルなお話を一時間少しにまとめ、映像全体が綺麗にリズムを生み出しています。所々に挿入されるシンクロしたダンスシーンやパフォーマンスシーンも効果的で、どこか甘酸っぱい思春期の少女の恋が瑞々しく描かれていました。監督はスザンヌ・ランドン。

 

16歳のスザンヌが友達とカフェで喋っている場面から映画は始まる。同級生たちの会話が退屈でそそくさと出てくる。滅多に顔を出さないパーティに行ってみてもこれと言って面白くもない。そんな彼女はたまたま近所の小劇場の前でラファエルという舞台俳優を見かけ、気になり始める。

 

なかなか言葉をかけられないスザンヌは、何かにつけ視線を送ったり、稽古場を覗いたりするが、そんな彼女に気がついたラファエルがスザンヌに話しかけてくる。たわいのない会話の後、朝食を一緒に食べようと誘われる。舞い上がったスザンヌは思わず一人で道で踊り出してしまう。このシーンがとってもいい。

 

そして、スザンヌとラファエルのたわいないながらもデートの時間が繰り返され始める。朝食だけでなく、夕方のラファエルのパーティなどにも顔を出し始めるスザンヌ。毎日が楽しくなっていくスザンヌの心の様子が、二人で一緒に聴くオペラのCDに合わせて体をシンクロさせる場面などで表現していく。ラファエルは35歳だが次第にスザンヌに恋を感じ始めていく。

 

明らかに毎日が変わってきた。そんな実感に嬉しくてたまらないスザンヌは、深夜に両親の寝室を覗いて声をかけたり、母に突然泣きじゃくり縋りつき、自分は恋をしていると告白する。そして、この日も学校の帰り劇場の入り口を見つめている彼女のショットで映画は終わる。

 

一人の少女のほんの一瞬の恋の時間を切り取った作品ですが、その瑞々しさに引き込まれる一本でした。

 

「ショック・ドゥ・フューチャー」

主人公の部屋の中からほとんど出ない絵作りは面白いのですが映画としては普通で、ひたすら電子音楽を見せるという作品でした。その意味では楽しい一本。監督はマーク・コリン。

 

CM曲を頼まれている主人公アナは、この日締め切りが迫り担当者からせっつかれてきた。なんとか誤魔化そうとするが気持ちは焦るばかり。そんなタイミングで機器が故障して、修理を頼む。やってきた男はたまたまパリに3台しかないローランドのリズムマシンを見せる。その音に魅了されたアナは、しばらく借りたいと申し出る。

 

夕方、再び催促に来た担当者にCMの仕事はやらないと蹴ってしまう。まもなくしてCM曲を歌う予定だったクララが訪ねてきて、アナがリズムマシンで即興で作った曲に歌詞をつけて歌ってくれた。今夜大物プロデューサーも交えてのホームパーティを予定していたアナは、楽曲を完成させ、パーティに備える。しかし、パーティで聴かせたがそのプロデューサーはいい顔をしなかった。落ち込んだアナに友人のポールが、たまたまスタジオで録音中の現場に連れていく。アナはそこの歌手に電話番号を聞かれ、少し未来が開けたと気を取り直し慌てて自宅に帰り、作曲を始めて映画は終わる。

 

なんのことはない物語ですが、レコードコレクターの男やら傍のキャラクターが多彩で面白い。1970年台後半、電子音楽全盛期の前夜を描く女性ミュージシャンの物語という空気感はそれなりに感じられた一本でした。