くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「モーリタニアン 黒塗りの記録」

モーリタニアン 黒塗りの記録」

これは見応えのあるドラマでした。静かに淡々と進むようで、どんどん真に迫ってくる迫力に圧倒されていきます。過去と現代をスタンダードサイズとワイドサイズの画面で交互に交錯させる作劇のうまさもさることながら、どこまでが真実で、どこまでが不正だったかの曖昧さを残しつつ真実の物語として描いて行く展開は見事。監督はケビン・マクドナルド。

 

民族衣装に身を包んだ一人の青年スラヒがモーリタニアの海岸に佇む場面から映画は始まる。時は2001年11月、アメリカ同時テロ事件から二カ月後、この日結婚の儀式があるようで彼も出席している。しかし披露宴の最中彼はアメリカ軍によって拘束される。それから5年が経ち、大手弁護士事務所に所属する弁護士のナンシーは友人から一人の男の弁護を頼まれる。それは、アメリカ同時多発テロ事件の犯人をリクルートした男として拘束されているスラヒという男だった。そんな頃、アメリカ軍では、スラヒを正式に起訴すべくスチュアートという将校がその任務につく。彼の友人はハイジャックされた旅客機に乗っていた搭乗員で、犯人らに殺されていた。スチュアートは、復讐を兼ねての仕事として前向きに向かい始める。

 

弁護の依頼人であるスラヒはキューバにあるグアンタナモ米軍基地に収監され、裁判も受けられないまま拷問を受ける日々を過ごしていた。ナンシーは、彼と面談し、真実を聞き出そうとするが、公式文書はほとんど黒塗りされていて証拠も見つからない。そこで、スラヒに手記を書かせてここまでの出来事を知らせるように依頼する。一方、スチュアートも正式な文書がなかなか手に入らない中起訴する証拠が見つからないでいた。そして彼は、スラヒの尋問記録を残した極秘文書を入手すべく動き始める。友人でCIAの職員だったニールを通じて、上層部に働きかけるが、なぜか妨害が入り始める。

 

ナンシーはようやく情報開示された文書を手に入れたが、そこにはスラヒが自白した内容の文面があった。しかし、スラヒは収監当初は正当な取り調べだったが、グアンタナモの収容所に行って軍による取り調べに入ってからは、ラムズフェルド国防長官の許可で特殊取調べ、いわゆる拷問により取り調べられていた。映画は、現在のナンシーらの調査シーンとスラヒが尋問された過去の映像を交互に挿入しながら展開して行く。ナンシーはスラヒの元を訪れ、手記によって真実を訴えるように依頼。一方で、スチュアートも取り調べの詳細を記録した文書をついに手に入れる。

 

ナンシーはスラヒからの拷問取り調べの日々の手記を読む。一方のスチュアートも極秘文書から特殊取り調べの実態を知り、起訴は不可能と判断し上司に報告。強行的に起訴にしようとする上層部によりスチュアートは罷免される。やがて裁判となる。法廷にオンラインで証言に立ったスラヒは、自分のこれまでを切々と訴える。やがて、グアンタナモにいるスラヒの元にナンシーの法律事務所から勝訴した旨の連絡が届く。しかしその後のテロップで、勝訴の後も七年間収監されたスラヒのこと、そしてようやく釈放された後の現在をテロップされて映画は終わる。

 

実話の迫力もさることながら、交互に描かれる過去と現在のドラマのテンポが実によくて、ナンシーとスチュアートの二人の法律家の物語のリアリティがあり、スラヒの存在を決して覆い隠さない程度の存在感が物語を厚みのあるものにしています。見応え十分な一本でした。