くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「メイド・イン・バングラデシュ」「インフル病みのペトロフ家」「湖のランスロ」

「メイド・イン・バングラデシュ

これはちょっとした映画でした。まず、サビーヌ・ランスランのカメラが抜群に美しく、色とりどりのヒジャブを纏った女性たちの赤と黄色とブルーの衣装が映えるし、縫製工場での色彩演出も素晴らしい。ダリア・アクター・ドリという労働闘争を行っている実在の人物の実話を元にしていますが、ストーリーの組み立てや展開も実に面白くできているので飽きさせずにラストまで見入ってしまいました。監督はルバイヤット・ホセイン。

 

バングラデシュの首都ダッカの街の縫製工場の場面から映画は始まる。安価な賃金で働かされている女性たちの姿をとらえた直後突然警報が鳴る。火事だということで全員が避難、主人公シムも仕方なく帰宅する。翌日、給料をもらいに行って工場の前で追い返される。その帰り道、労働運動に組織の仕事をしている女性ナシマと出会い、組合を作るべきだとアドバイスされる。

 

シムはナシマの指示を受けながら、工場内で組合設立のための署名を集め、工場内の写真を撮るが、工場長やマネージャーらの圧力がかかり始める。しかも無職の夫さえもシムの味方になってくれない。男尊女卑の極端な社会と低レベルの教育水準の女性たちの姿を淡々と描く一方、マネージャーのレジと不倫関係にあるダリアの姿を描いていく。

 

結婚に逃げようとする同僚たちを鼓舞しながらシムは署名を増やしていくが、ダリアの不倫がバレて彼女は解雇されていく。さらに、署名の書類を見つけられた同僚も解雇される。間も無くして十分な署名があつまってシムは自ら組合長となり、労務省に組合設立の申請に行くが、事務はなかなか進まず、シムは追い詰められていく。

 

組合参加を承諾した同僚たちに解雇の危機が迫る中、シムは身を張って労務省に乗り込み、ようやく上司に設立許可への署名を得ることとなる。その書類を手に労務省を出てくるシムのアップで映画は終わる。

 

作劇のうまさ、映像の美しさ、バングラデシュという国の現実を見事に凝縮して切り取った作品で、映画としても見応えがあるし、メッセージもしっかりと伝わってきるなかなかの佳作でした。

 

「インフル病みのペトロフ家」

これはハマってしまうくらいに面白い独特の映画でした。主人公と一緒に高熱にうなされて幻覚を見る映画で、出てくる人物とか物語を繋ごうとすると頭の中が混乱してしまいます。結局、ほんのひとときの幻です。なかなかシュールながら楽しかったけれど、さすがに前半物語の構成がわからなくて疲れてしまった。監督はキリル・セレブレンニコフ。

 

ソ連崩壊後のロシア、エカテリンブルグの街、バスの中、派手な衣装の車掌が運賃を集めている。咳をしてインフルエンザの高熱に見舞われている主人公ペトロフの姿がある。バスが止まり、ペトロフが降りるが、突然銃を渡され、連れてこられた何人かをみんなで銃殺して、またバスに乗る。しばらくいくと、バスが止まり、友人のイーゴリがペトロフを引き摺り下ろし、自分の運転してきた霊柩車にペトロフを乗せる。中には棺に入った遺体もあった。熱でぼんやりするペトロフは意識を失いかけながら乗っている。

 

ペトロフは図書館に勤める妻マリーナとSEXをするが、マリーナはペトロフのインフルエンザがうつってしまう。家に帰って息子と接していたので、息子もインフルエンザの高熱が出る。帰ってきたペトロフは、息子が次の日に控えている学校でのパーティに出れるように看病をする。ペトロフのコートに入っていたアスピリンを息子に飲ませると翌朝は熱が下がったので、ペトロフは息子を学校へ連れていく。

 

ペトロフ旧ソ連時代の少年時代、同じくクリスマスのパーティで熱があったけれど出席していた。母との思い出や、雪娘に手を握られた思い出がスタンダードサイズで描かれる。一方、ペトロフは漫画を描いていて、空飛ぶ円盤なども出てくる。友人の自殺を手伝ったり、マリーナも熱に浮かされて息子の首を包丁で切ったり、公園で殺人を犯したりする。

 

少年の頃のペトロフの場面がモノクロで展開した後、現在のイーゴリは死体がなくなったと大慌て、そこで彼は死体が蘇ってバスに乗っていったと証言する。一方、イーゴリの悪戯で、棺の中に入れられていたペトロフは、棺を出てフラフラと彷徨い、やってきたバスに乗る。すると、派手な服装の車掌が運賃を払ってくださいとやってきてエンディング。要するに、悪友のイーゴリに霊柩車に乗せられたインフルエンザで高熱のペトロフの幻覚のお話であった。

 

ペトロフが見る幻覚の中で、突然全裸になる人物が次の瞬間元に戻っていたり、カメラが俯瞰で真上からペトロフらを捉えたり、辻褄の合わないシーンの連続に最初は翻弄されるがラストの処理で全てが幻覚だと判明して、なるほどという終わりがなんとも面白い作品。もう一度見るともっと面白さを堪能できそうな映画でした。

 

湖のランスロ

ずば抜けた傑作というわけでもない作品ですが、人物名が混乱する上に、ほとんど全員鎧を着ているので敵味方がよく見えないままに終盤の展開になった感じの映画でした。ラストの演出はなかなか面白かった。監督はロベール・ブレッソン

 

円卓の騎士が、王の命令で聖杯を探しにいくが結局見つからず戻ってきたというナレーションから映画は始まる。騎士の一人ランスロは、王妃グニエーヴルと許されざる恋に落ちていた。その証拠を掴み権力を得ようとするモルドレッドは、仲間を集め、ランスロを亡き者にしようと暗躍するが、ランスロは、隠れて試合に出て、自分を亡き者にしようとするモルドレッドに挑む。

 

しかし、ランスロはグニエーヴルへの恋を諦め、王妃を王の元に帰すが、時を同じくしてモルドレッドが反旗を上げて反乱を起こす。ランスロらはモルドレッド征伐に向かうが返り討ちに遭い、ランスロらは全員殺されてしまい映画は終わっていく。

 

ラストの、馬だけが戻ってくる演出でランスロらが敗れた流れを映像で見せる下りはなかなかのものですが、全体には普通の作品に思える一本でした。