くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「親密さ」「PASSION」(濱口竜介監督版)

「親密さ」

決して贔屓目で見ているわけではないけれど、この監督の演出力は半端じゃない気がします。一見、淡々と映像を繋いでいるようですが、いつの間にか訴えるべきメッセージが見えてきて全体が一つの作品にまとまってくる姿を作り出す力量は半端ではない気がしました。この作品は「親密さ」という舞台劇を作り上げる過程とその本番舞台の二部構成ですがちゃんと映画になっているのはすごい。ただ、一本の映画として見ると、後半がやたら長くて、前半と重なる部分がうまく噛み合っていない気がして、相当にしんどくなるのはちょっと残念な気がします。監督は濱口竜介

 

電車の中から風景を捉える映像から映画は幕を開ける。何度か出てくる列車のシーンが、次第に見えてくるメッセージに近づけるためのリズム作りになっています。場面が変わり、大学の演劇部の本読みの映像。脚本を描いた良平と演出担当の令子のアップに、役者たちへのダメでしが繰り返される。

 

令子と良平はどうやら同棲しているみたいで。お互いに深夜のバイトをしながらの日々であるようです。そして今回この二人がキャストで出ないと決めたところから物語が始まる。しかし、そんな頃、韓国に北朝鮮の攻撃が行われる事件がニュースで流れます。その事件を背景に、令子は、講義や説明会など、まるで演劇の稽古そっちのけのような毎日が続く。

 

そんな時、韓国に友人がいるメンバーの一人が、その友人からの連絡が途絶えたことから韓国の市民軍に入ることを決意し、日本を離れると言い出す。良平は怒るが、令子は、脚本を改編し良平に出てくれるように頼む。そしていよいよ迫ってきた日、令子と良平は延々と深夜の街を歩きお互いの気持ちを通わせる。夜が明け前半が終わる。この終盤の長セリフと長回しが恐ろしいほどに迫ってきます。

 

後半は舞台を映す展開となるが、さすがに長い。最初はそれなりに舞台上の物語に惹かれていくのですが、次第にしんどさが表に出てきてしまう。会話劇という形式もあり、その会話の応酬がくどくどと聞こえ始める。そしてようやく舞台は終わる。2年後、夜の列車に乗っていた令子は駅で降りる時に、韓国の軍服を着た良平と再会する。韓国の義勇軍で楽隊に入っているのだという。少し会話し、再び列車に乗りお互いに列車の中でいつまでも手を振って映画は終わっていく。

 

とにかく、後半が長い。全体のバランスを考えたら、ちょっとしんどい映画でしたが、それぞれのシーンの細かな演出が光っているのも確かです。

 

「PASSION」

これは恐ろしいほどの傑作でした。ちょっと頭が良すぎる脚本が鼻につく部分もありますが、ここまで知的な台詞の会話劇とストーリー展開を見せられるとなんのコメントもできなくなります。舞台劇を繋ぎ合わせた感じの構成ですが、それでも登場人物の細かい動きへの演出も見事で、本当に脱帽してしまいました。監督は濱口竜介

 

猫が死んで、その死骸を埋めている貴子と賢一郎のシーンから、タクシーの中、授業の補習で遅くなった教師をしている果歩と恋人で大学の講師らしいフィアンセの智也が乗っている。今日は果歩の誕生日会で、かつての友達が集まることになっていた。目的のレストランに着くと、毅と鞠江夫婦、賢一郎、らとパーティが始まるが、智也の視線は妙に泳いでいる。彼は女たらしで通っていた。鞠江のお腹には赤ん坊がいた。

 

やがてパーティは終わり、女性たちは先に帰り、智也、毅、賢一郎らは飲みにいくが、賢一郎の電話に友人の貴子から、久しぶりに会いたいからと連絡が入る。貴子のマンションへ行ったものの、智也の視線は微妙に貴子に注がれる。実は貴子と智也は関係があった。今日は貴子の叔母で作家のハナの飼っていた猫が亡くなったのだ。

 

そこへ突然ハナがやってくる。微妙な空気に中、通夜のように飲み始めるが、智也は貴子に視線を送るし、毅はハナに惹かれていた。賢一郎は果歩のことが好きだったが、貴子と付き合っている。物語はそれぞれパートナーがいながらも別の女性に惹かれる男たち、さらに本音を表に出せない不器用さの中で女たちに翻弄されながらも混沌としていく人間関係を見事に描いていきます。

 

毅はハナと懇ろになるも、ハナは仕事に戻ってしまう。智也は貴子にもう一度復縁したいと迫っていく。一方、果歩は学校でいじめによる自殺があり、その話を突き詰めていて、クラス全員がいじめに加担していたことがわかり、追いつめられる。この問い詰めていくホームルームのシーンがまず恐ろしいほどにすごい。

 

賢一郎が貴子のところにやってきたら、先約で智也が来ていて、賢一郎は帰るが、入れ替わりに毅がハナの連絡先を聞こうとやってきて智也と鉢合わせする。智也は貴子に迫るつもりはなく、自分の本心を探り出してほしいと毅を交えて真実の暴露ゲームを始める。結局、それぞれが心の内を暴露していくうちに取り止めもなくなり、毅は浴室へ貴子を押し込めてしまい、それを見た智也は出て行く。一方、賢一郎は果歩を誘い出して散歩に出て、自分の思いの丈を話すが結局果歩は離れて行く。

 

果歩が家に帰ると智也が帰っていて、別れようと言い出す。そして一旦出て行くが戻ってきてもう一度やり直したいと泣き崩れる。貴子は夜明けのバスに乗るが後ろの席に賢一郎が乗っている。こうして映画は終わって行く。ラストはやや収拾がつかなくなった感じです。

 

クオリティに圧倒されますが、舞台劇を並べたストーリー構成と、鼻につくほどに知的な台詞の数々に引き込まれてしまいます。若い頃の映画なので若干独りよがりに見えなくもないですが、見事な作品と言える映画でした。