くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「幻滅」「未来は裏切りの彼方に」

「幻滅」

単純にピカレスクロマンのようなサスペンスとして面白かった。バルザックの原作があるとはいえ、ストーリー展開が実に小気味良いしスピーディでキレがいいので、時代が少し前というレトロ感を払拭して素直に楽しめた。映像の懲り方も程よいし、キャラクター描写も面白い。娯楽映画として楽しめる一本でした。監督はグザビエ・ジャノビ。

 

印刷所に勤める詩人のリュシアンは、母方の貴族の姓に拘りながら、いつか世に出ることを願っていた。そんな彼の詩の才能を見抜いたルイーズは彼と恋人関係になる。そして世に出そうと彼を連れてパリに出る。パリにはルイーズの従姉妹で実力者のデスパール侯爵夫人がいた。ルイーズはリュシアンを社交界に紹介するためとオペラ座に誘うが、何もかもが目新しいリュシアンは気負いした姿でルイーズに伴うことになりデスパール侯爵夫人らの顰蹙を買った上、ルイーズにさえも疎まれてしまう。

 

打ちのめされてしまったリュシアンは、全ては金と力だと判断して、場末のレストランで働きながらルストーという記者と出会う。当時新聞の記事は世の中の動きを左右するほどの影響力があり、嘘もまことしやかな文体で語られることで、人々を操っていた。

 

リュシアンはその文才でルストーと共に辛辣な記事で次第に頭角を表していく。その頃、場末の役者コラリーと知り合う。リュシアンは、その影響力でオペラ座で予定して入り古典劇ラシールの主役にコラリーを強引の採用させ、コラリーは早速稽古に参加し始める。リュシアンは出版社の大物ドリアにも働きかけ、自らの影響力を拡大していく。

 

舞台では、サンガリという仕掛け人が、観客を誘導して、どんな舞台も成功か失敗かを左右することができた。リュシアンの才能を認める作家のナタンはリュシアンの詩集を出版させるべく働きかける。

 

そんなリュシアンにルイーズたちは再び接近すりことになる。元々彼を愛していたルイーズはその流れの中身体を任せる。デスパール侯爵夫人もリュシアンの影響力が気になり始め、シャトレ男爵の力もあり、王制非難を止めるのであれば爵位を授ける手続きを進めるという提案をリュシアンに出す。爵位にこだわるリュシアンはその提案を飲み、ルストーからの記事を匿名で出しながら、自分は王制賛成派の如く立ち居振る舞いを見せる。リュシアンは放蕩三昧に金を使い、借金に追い回されてくるがコラリーが必死で金の工面をしていた。

 

やがてコラリーの舞台の初日が迫る。リュシアンはサンガリに金を渡して初日の舞台の成功を画策し、爵位申請の手続きを進め、やがて初日を迎えると、客席にはルイーズを含めそうそうたるリュシアンの関係者が集まる。そして開演、ところが舞台もクライマックスになるにあたり。突然舞台からブーイングの嵐が吹き始める。

 

サンガリはより高額の報酬を出してきたシャトレ男爵らの方に寝返ったのだ。そしてリュシアンは全てを失い、爵位申請も形だけだったことがわかり、ルストーやドリアらからも見限られてしまう。もともと肺病だったコラリーは、これがきっかけで体調を悪化し間も無く死んでしまう。全てを失ったリュシアンは友人のナタンに別れを告げて故郷に帰る。そして故郷の湖に全裸で入り映画は終わっていく。

 

一人の男の野心の果ての物語で、とにかくキレのいい展開が実に面白いのですが。少々登場人物が多すぎて最初は混乱してしまいました。それでも、次第に設定が見えてくると、単純なサスペンスとして楽しむことができました。娯楽映画として面白かった。

 

「未来は裏切りの彼方に」

面白い話なのですが、出てくる男女が皆クソだらけで、誰にも感情移入できず最後まで冷たい視線で見てしまいました。面白かったかというと、まあまあかなという感じの一本でした。監督はペテル・マガート。

 

スロバキアの歩兵隊にいるジャックの姿から映画は幕を開ける。ジャックの誕生祝いということで娼婦を招いてのパーティが開かれ、それぞれが女性と部屋に消える中、ジャックは一人残った娼婦キャットに誘われるも断り、一人部屋を出ていく。そして彼は脱走して妻エヴァの待つ家に帰ってくる。

 

負傷して除隊したと偽ってエヴァの働く工場で仕事に就くジャックだったが、傲慢経営のバールの姿に不信感を持っていた。バールは終戦後の経営に不安を抱き、役人のハナーチェクの愛人を妻として娶ることにする。バールが連れてきた妻というのは何とキャットだった。ジャックは一眼でキャットを認め、キャットもジャックの姿を認める。やがてエヴァは妊娠するが、村では反ナチスの蜂起が起こり始め、レジスタンスの姿も見え始める。

 

ジャックはキャットに自分が脱走した後の出来事を聞く。ジャックが部屋を出た後、レジスタンスが突入してきて、ジャックの同僚の兵士は全て殺されたのだという。どうやらその手引きをしたのはキャットらしかった。キャットがジャックと関係があるらしいと疑ったバールはキャットを殴るが、バールはハナーチェクの部下に襲われる。そんな中ますますバールとキャットの関係は冷めてくる。

 

一方ジャックも、エヴァがこの工場で働いていることに不信感を抱き、バールとの関係さえ疑い始め、キャットと身体を合わせてしまう。キャットの言葉でジャックが脱走兵であることがばれ、バールはジャックを痛い目に合わせようとするが折しもレジスタンスのメンバーがジャックを拉致する。そして、非難する工場の従業員たちの前でジャックは撃ち殺されてしまう。

 

一方東部戦線でロシアがベルリンを征服したというニュースが流れ、バールたちはキャットを連れて逃げるべく準備をするが、そこへ工場の従業員が襲いかかる。キャットは、バールを見捨ててバールの秘書を連れて金を持って逃げ、エヴァは同僚の馬車で脱出、途中で赤ちゃんを産む。こうして映画は終わっていきます。

 

生き延びるために奔走する人たちの姿をただひたすら描いていく作品で、そこに正義も何もないように見えてくるので実に殺伐としています。その味気なさにさすがに素直に感情移入できなかった。悪い映画ではないのかもしれませんが、好みではありませんでした。