くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「浮気のすすめ 女の裏窓」「小さな園の大きな奇跡」「種ま

kurawan2016-11-10

「浮気のすすめ 女の裏窓」
なんと感想を書くのか、時代色が極端に表に出た珍品映画という感じの一本でした。監督は番匠義彰である。

会社の警備員をする主人公は、ある晩、事務員を手篭めにしようとした社長を見つけたためにクビになってしまう。

たまたま知り合った女が、実は売春斡旋業を裏で行うしたたか者で、その女に関わりながら、様々な人と関わっていく。

結局、最後は警察に捕まってエンディングなのだが、その辺りの展開も実に雑で、息子のために受け取った金が原因なのだが、物語の中心は主人公が関わる女たちの人情ドラマなのである。

これという捉えどころのない普通の作品ですが、当時の世相が垣間見られるあたりは、ちょっと見応えだったかもしれません。


「小さな園の大きな奇跡」
アクション映画が中心のイメージがある香港映画界で大ヒットをした、実話を基にしたヒューマンドラマ。たわいのない映像作りではあるけれど、素直に物語に引き込まれるピュアな作品でした。監督はエイドリアン・クワンです。

エリート教育で名を馳せる有名幼稚園の両親と先生の面談場面から映画が始まる。一人の生徒を特別クラスから普通クラスに変えるという提案を両親にするが、断固拒否される。そこに、この幼稚園の園長ウェホンが現れる。しかし、まず子供のことを考えたいと主張を通そうとする園長に対し、有力者だからと両親の気持ちを優先しようとする事務長たち。

嫌気がさしたウェホンは園を辞める。一方夫も、テクニカルに頼るようになった会社の方針に嫌気がさし、辞職を決意する。そして夫と世界一周の旅行計画を立て、4ヶ月後の夫の自主退職の日に合わせて、日々を過ごし始めるが、何か虚しさを感じていた。

そんなある日、ある寒村の幼稚園が閉園になるというニュースを見たウェホンは、給与が安いにもかかわらずそこの園長に申し込む。そこは園児が五人だけで、あと一人いなくなれば廃園となるところだった。

園児の家庭はどれも貧しく、問題がある。よくある背景だが、これが実話という点から、素直に物語を追うことができる。そして、紆余曲折の中、村人からも理解を得て、一人が卒園する日を迎える。ウエホンはかつて腫瘍を手術したという過去などもあり、それぞれのエピソードが挿入されてクライマックスになるのである。

確かに、丁寧に作られたヒューマンドラマの形式で展開し、よくある香港映画の形とは少し違うようだが、途中に歌を歌うミュージカルまがいの場面を見ると、やはり香港映画だなと思ったりする。

結局、一人卒園で廃園かと思われたが、テロップで二人の入園があり、その後六十人にも膨らみ、今も残っているというテロップが流れる。

幼い子供の表情にどんどん引き込まれる作品で、ストレートに感情に訴えかけてくるので、いつのまにか涙ぐんでしまう。決して傑作とかではないのですが、ヒットしたのが納得できる一本でした。


「種まく旅人 夢のつぎ木」
佐々部清監督作品で、シリーズ三作目である。美しく整った画面の構図を背景に、岡山の桃農家を舞台に描かれる良質の映画で、余計な嫌味も仰々しいよくあるエピソードもなく、まっすぐに桃農家の姿を描いていく演出は非常に好感な一本でした。

東京の農水省の官僚木村が、上司の命令で岡山の桃農家を視察に来るところから映画が始まる。入社時は意欲に燃えていた木村もいつのまにか組織の中に埋もれる日々で、そんな馴れ合いのまま農園にやってきたが、ひたすら、兄の夢を成就させるべく桃づくりに取り組む彩音の姿に次第にかつての自分を思い出す。

というのが中心になる物語である。オープニングの、桃農園に光る防蛾灯のオレンジの光が夜の農園に灯るカットは実に美しい。そして、桃の酒の醸造や、彩音の妹の苦悩、四年前に夢半ばで亡くなった兄の意志を引き継ぐべく、役所仕事と農園を必死にこなし、疲れ切っていく彩音の姿など、一つ一つのエピソードが実に真摯に描かれていく。

木村を演じる斎藤工のちょっとチャラい今時若者がいまひとつ演じきれていない気がしなくもないし、そこが中途半端なのだが、佐々部清監督の演出はそれを逆手にとって、のどかで、純粋な赤磐市の人々の姿を前面に見せていく。

結局、彩音の兄の作った桃の品種登録は農水省に拒否され、一旦は、落ち込む彩音だが、地元の人々の励ましもあり、ここで生きる決意をして映画は終わる。

特に秀でたわけでも傑作でも、秀作でもない。しかし心に残る何かがある。そんな良質の一本でした。