くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「I AM JAM ピザの惑星危機一髪!」「サポート・ザ・ガールズ」「伴奏者」

「I AM JAM ピザの惑星危機一髪!」

サイレント映画を令和に復活させるとして、活弁士大森くみこと組んで仕上げた珍品。とにかく全編お遊び映画ですが、こんな遊びがあってもいいんじゃないかなと思います。コミカルでやりたい放題の映像作りで、悪く言えば自己満足映画かもしれないけれど、こうやって楽しく映画も作れるよという映画愛もさりげなく見えてくるのは良い。監督は辻凪子。

 

ピザ屋でバイトをする主人公のジャム。その紹介からピザ屋のコミカルな風景が、サイレント映画であり、舞台劇であるようなノリで描かれていきます。この街に巨大台風が来て、ジャムは家ごと飛ばされて辿り着いたのはピザの惑星。宇宙を守る守護神ゴードンが風邪を引いたのが台風の原因らしく、しかも、このピザの惑星には笑いがない。王様は四つのピザを集めると笑いが蘇るとジャムにその使命を託す。

 

こうしてジャムは、ピザ屋のバイト仲間に似たいろんなメンバーと出会いながら、まるで「オズの魔法使」の如き展開で見事ピザを集め、ゴードンの風邪も治し、大好きなおじいちゃんにもピザを届けて、夢であったコメディエンヌになるというハッピーエンド。

 

たわいのない映画ですが、映画関係者がたくさん協力して仕上げたお気楽作品という楽しさがとっても心地よい一本でした。

 

「サポート・ザ・ガールズ」

シンプルでたわいのない映画なんですが、バイタリティに溢れているし、女性達がとってもかっこいい。セクハラや黒人差別などもさりげなくセリフの端々に出てきるのに見ていて清々しい。作劇のうまさとしか言いようのない、ちょっとした小品でした。見て良かった。監督はアンドリュー・ブジャルスキー

 

ハイウェイをバックに軽快な音楽とタイトルバックで映画は始まる。ハイウェイのそばに店を構えるスポーツバーのマネージャーリサは、従業員の女の子の失敗をカバーするのに必要なお金を集めようと勝手に募金を始める。今日は新人の女の子の面接もあり大忙し。事務所の2階で音がするというので見てもらったら、どうやらダクトに隠した金庫の金を狙ってコソ泥が入り抜け出せなくなったらしい。しかも、その犯人は厨房で働く男の従兄弟だった。

 

そんなこんなをリサは見事に処理しながら、店が運営されていく。この展開が実にテンポ良くて面白い。リサの同僚で黒人のダニエラは、店のナンバーツーでもありリサを慕っている。というより、何かにつけて世話をしたり、客を大事にするリサはみんなから慕われていた。募金のためにオーディオショップのオーナーにスピーカーを借りてきたり、洗車のサービスをしたり、それもこれもオーナーのカブが旅行中に勝手にしている。でもどれもが人のためというリサの姿勢が心地よいのです。

 

まもなくしてオーナーのカブが帰ってきて、コソ泥の件を報告しなかったリサをクビにする。そして、ダニエラを次のマネージャーに昇格させる。リサは夫ともうまくいっておらず、別居を考えて、夫の部屋を探そうとしているが夫はなかなか煮え切らない。リサが出て行った後、残ったメンバーは店のテレビが壊れているのをいいことに好き放題し、店が禁じている大騒ぎを始める。収拾がつかなくなりその日の営業は取りやめになる。

 

場面が変わり、リサは近くにできるライバル店の面接に来ていた。面接を終えて出てみると、ダニエラらもクビになったといってきていた。面接が終わり、リサやダニエラらは屋上で酒を飲んで思い切り叫んで鬱憤を晴らす。こうして映画は終わるが、タイトの後、リサの夫が「ただいま」と言っている声で映画は終わる。良いじゃないの。というエンディング。

 

リサが奔走するスポーツバーのほんの数日を描いただけで、舞台もスポーツバーからほとんどでない。そこで、セクハラ発言する客を追い返したり、白人の女の子が黒人選手の刺青を入れてクビになったり、トランスジェンダーの女性が男達に喧嘩を売ったりというさりげない今時の問題が取り込まれている。でもそれぞれが実に自然で、押し付けがましくないのがとっても清々しいのです。小品ですが、良い映画だった気がします。

 

「伴奏者」

これは名作でした。主要人物の背後にもちゃんと何を映すかが計算されている画面作り、一流の作家が作るとこうなるという典型的な素晴らしい絵作りです。しかも、淡々としたストーリーが非常にサスペンスフルで、どんどん物語に引き込まれていくし、しっかりした構図が落ち着いた知的な雰囲気を醸し出してきます。まさに傑作、良い映画を見ました。監督はクロード・ミレール

 

オペラの曲でしょうか、心地よいメロディを背景に列車から線路をとらえる映像が続きタイトル。1942年、パリは食料の不足から死亡者が急増しているというテロップの後一人の女性が豪華なホールにやってくる。彼女の名前はソフィ、この日、伴奏者として雇われる予定の歌手イレーヌの舞台の終盤を垣間見て魅了される。

 

イレーヌの楽屋に行き、自分の意見をしっかりと話すソフィのことが気に入って、イレーヌはソフィを専属の伴奏者として雇う。ソフィはピアノを教えている母と二人暮らしの貧しい生活だった。ソフィはイレーヌの部屋で空腹のため気を失ってしまい、イレーヌにその夜の晩餐会に誘われる。晩餐会は富裕層ばかりで、さりげなく背後にドイツ将校が映されたり、退屈そうにあくびをする楽団員の姿が挿入される。この場面演出が見事。ペットに食事を食べさせる老婦人の姿を傍に見ながら必死で食事をするソフィ。帰り際、パンをそっと鞄に忍ばせる。

 

イレーヌがやってきて、帰りの馬車代にと金をもらうが、ソフィはその金を残すために馬車に乗らず歩いて帰る。イレーヌと練習を始めて間も無く、ソフィはイレーヌに一通の手紙をポストに入れてほしいと頼まれる。たまたま家の近くだったので直接届けにいくが、出てきたのは若いジャックという好青年だった。ソフィはイレーヌがこの男性と関係があると直感で知ってしまう。

 

イレーヌの夫チャールズは、巧みにドイツに取り入って商売を広げていたが、その真実はドイツを憎んでいた。イレーヌとソフィはお互いに信頼し合い、次々とステージを成功させていく。やがて戦火は厳しくなり、イレーヌはヴィシーでの公演にチャールズとソフィの三人で向かう。しかし、ジャックに会えないイレーヌの寂しさをソフィは感じ取る。

 

フランスでの生活に危険を感じ始めたチャールズは、ロンドンへ向かう決心をし、フランスを縦断しポルトガルの港までやってくる。そしてイギリスへ渡る船の港で、ソフィはブノワという青年と知り合い恋に落ちる。しかし、将来の現実を見なさいとイレーヌに言われ、ブノワにプロポーズされていたにも関わらずソフィはロンドンの港でブノワと別れる。

 

ロンドンでは一時はスパイ容疑でイレーヌとチャールズは逮捕されかかるが、イレーヌがジャックに連絡を取り、イレーヌ達は釈放される。イレーヌはBBCのオーディションをきっかけに人気が出て、あちこちのステージに出るようになる。当然ソフィも伴奏者として随伴するが、ある時、ソフィはジャックからイレーヌ宛のメモを渡される。ジャックもロンドンにやってきたのだ。

 

それから、イレーヌは頻繁にジャックと会うようになる。たまたま、チャールズの机にピストルのあるのを見つけたソフィは、チャールズがイレーヌの行動に不審を抱いているのではないかと不安になり始める。ソフィはイレーヌがチャールズと密会しているのを尾行するようになるが、ある時、仕事で出かけるといったチャールズが、イレーヌが密会している店の前に立つ姿を見つけてしまう。

 

慌てて、ソフィは自宅に戻りチャールズの引き出しを開けるがピストルがなかった。先に帰ったチャールズにソフィは問い詰められる。その場を取り繕ったソフィだが、直後、銃声が聞こえる。チャールズが自殺したのだ。葬儀を終えたソフィは、母から体調が悪いと連絡を受けて一人パリに帰る。一方、イレーヌはおそらくこのままジャックと一緒になるのだろうと想像された。

 

パリに着いたソフィは、ブノワと再会する。すでにフランスが勝ち戦争が終わっていた。ソフィはかつての思いをブノワに向けようとするが、ブノワの傍らにはペギーという妻がいた。また会おうと去っていくブノワを見送るソフィのシーンで映画は終わっていく。

 

まさに名作ですね。一人ぼっちから始まるソフィの物語は、また一人になって終わっていく。背後に流れるオペラの曲の数々がシーンごとにオーバーラップしていく演出も素晴らしいし、フィックスでとらえるカメラが時に大胆な構図に変わるリズム感も見事。ドキドキするほど先が気になるストーリーテリングも素晴らしく、登場人物それぞれの個性も際立って映画を引き立てます。これこそ名作です。良かった。