くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ケイコ 目を澄ませて」「泣いたり笑ったり」

「ケイコ 目を澄ませて」

良い映画でした。絵作りの才能があちこちに散りばめられている。決して大層な物語が展開するわけではないけれど、人物のいない静かなインサートカットのタイミングの使い方が抜群に上手い。まるで、木下恵介の名作を見ているような静かな感覚を味わってしまいました。岸井ゆきの、こういう良い作品に出ないといけません。監督は三宅唱

 

暗闇に縄跳びをする音が聞こえてきて映画は幕を開けます。机に向かう主人公ケイコの姿からタイトルと暗転して、夜の街灯、そこに群がる虫の影、一軒の場末のボクシングジム、稽古をする人たちの姿、ケイコがミットをうっている。彼女は両耳が聞こえない。しかし、プロ資格を取得し、試合にも勝っている。そんな場面から映画は幕を明けます。このオープニングにまず引き込まれます。

 

この日の試合も、善戦の末勝ち、ジムの会長、母親、同居している弟の祝福を受ける。インタビューを受けるものの、それほどな華やかさはない。母は、いつになったらボクシングをやめるのかと聞く。1945年、今の会長の父がこのジムを始めたらしい。ジムの会長はインタビューで、彼女には才能はないが直向きに真っ直ぐだという。なぜボクシングをするのかもわからないと答える。それでも会長は彼女を可愛がっているふうである。

 

病院の検診で、目や耳などの衰えを感じる会長、新しい選手も集まらない中経営は厳しい。ジムが閉まるという噂が流れ、会長も、胸の内を話し、間も無くジムは閉鎖すると選手達に告げる。ケイコもショックなのだが、言葉がないために表立って感情を描写することはない。かつて、ランニングの途中で会長に出会った事や、さりげない過去の想い出がフラッシュバックされる。

 

ケイコは、実はみんなに迷惑をかけているらしいからしばらくジムを休みたいと会長に話すつもりで手紙を書いていたが、渡そうとジムに行くと、会長が一人、ケイコの試合のビデオを見ていて渡せず、そのまま、会長と少し練習をしたりしてしまう。会長が次のジムを探してくれたが、ケイコは家から遠いと断るのだが、それが真意かは不明である。

 

そんな時、会長が倒れる。軽い脳梗塞で入院することになる。ケイコは、次の試合に出ることになる。試合当日、相手の反則などがあったとはいえ、ムキになってカウンターを食らったケイコはダウンして負けてしまう。その姿をビデオで見た会長は寂しそうに車椅子を動かし、向こうへ消えていく。このシーンがとっても良い。

 

一人ランニングの後河原で座っていると、先日の相手が近づいてきて、お礼を言われる。ケイコは複雑な思いでまたランニングを続けて物語は終わる。街並みを写しながらのエンドクレジット、全て終わって運河を左手から船が静かにインサートしてきて暗転、縄跳びの音が聞こえて映画は終わる。このラストが絶品の場面です。

 

ケイコを支える周辺に配置された役者達が実に良くて、特に目立たず、それでもしっかりと映画をリアリティのあるものにしていきます。スポーツものだからと余計な感動シーンなどはなく、主人公が耳が聞こえないからと、それを認めよというような押し付けがましさもない。淡々と進む主人公の日常がさりげなく胸に響いてきます。絵のリズムも素晴らしく、決して傑作とは言わないけれど相当素敵な秀作だった気がします。

 

「泣いたり笑ったり」

じじいのゲイカップルの話ということなので全く期待もしてなくて、見る気もなかったが、時間があったのでちょっと見てみた。これがなかなか良い映画でした。エピソードの配分が上手いし、音楽センスがいいのか、ダンスシーンも効果的に使われてるし、ラストは素直に感動してしまいました。典型的なイタリア映画ですがちょっとした作品でした。監督はシモーネ・ゴダノ。

 

保育所、赤ん坊を迎えにいくのが遅れるという電話を聞いている一人の保育士の場面と愚痴から暗転して、カルロの家族が、車の後ろにバナナボートを繋いで、友人トニの海辺の家に招待され向かっている場面から映画は始まる。車の中にはカルロの息子サンドロとその妻、息子、さらにカルロの幼い息子ディアゴも一緒だった。

 

出迎えたトニの家族、娘のペネロペは幼い頃から父トニに放っておかれていて寂しい思いをしていた。これが冒頭のシーンにオーバーラップする。トニにはもう一人、遊び回っていた時にできたオリヴィアという娘もいた。トニは妻とは別れたらしいが、カルロの妻は死別していた。カルロは妻に死なれて落ち込んでいる時にトニと出会い、立ち直れたらしく、そこに男であるとか女であるとか関係なく愛してしまったらしい。

 

二つの家族は賑やかに出会いを楽しんだが、程なく、トニが三週間後に結婚するのだという。しかも相手はカルロだというのでそれぞれの家族は仰天する。特に、漁師をしているカルロの息子サンドロらは子供達に悪影響だと大反対するが、トニの家族は自由主義で、それとなく受け入れた風を装う。それでも、ペネロペは受け入れがたかった。

 

ペネロペとサンドロは、この結婚をぶち壊そうと画策を始める。しかし、そんなドタバタの中で。仲の良かったはずにトニとカルロはお互いにギクシャクし始める。トニのパーティに呼ばれたカルロたち家族も独特の自由奔放さに呆れてしまう。昼食を共にする時、カルロが拗ねたように二つの家族から距離を置き、流れてきた曲でぎこちなく踊り始めると、なんとなくお互いの家族もダンスに加わり、いつか自然と和み始める。ところが、その夜、ペネロペはついサンドロにキスしてしまい、それをサンドロの妻に目撃され、大喧嘩となる。

 

錯乱したペネロペを介抱したのはカルロだった。そして一夜が明け、トニの家に戻ったカルロとペネロペだが、サンドロたちは帰ってしまったという。カルロもサンドロを追って帰り、サンドロと仲直りをする。ペネロペはトニに、幼い頃から寂しい思いをしてきたことを告白してトニの元を去るが、トニはペネロペの勤める保育所を訪ね、過去を謝る。

 

トニとペネロペはサンドロを訪ね、謝り、カルロに会いたいと申し出る。予定していた結婚式は明日に迫っていた。サンドロはゴムボートにトニとペネロペを乗せて、漁をしているカルロの船に連れていく。そして、トニとカルロは仲直りしキスをして物語は終わる。エンドクレジットに結婚式の場面が写し出されて映画は終わっていく。

 

イタリア映画らしい陽気で機関銃のようなセリフの応酬ですが、挿入される曲や歌が実に物語にマッチしているのとタイミングがいいので映画にリズムが生み出され、展開も心地良いのでラストも素直に受け入れてしまいます。傑作ではないまでも、予想以上に良い映画でした。