「フラッグ・デイ 父を想う日」
アメリカのジャーナリストジェニファー・ヴォーゲルの実話なのですが、脚本がいいのか演出の構成が上手いのか、想像以上にい映画でした。ドキュメンタリータッチとホームムービー風の映像を駆使し、現代と過去のフラッシュバックや細かいカット割が良いテンポを生み出して、クソみたいな男の話しながら、ラストは哀愁さえ感じてしまいました。監督はショーン・ペン。
一台の車をヘリコプターやパトカーが追っている。1992年、ジャーナリストのジェニファーが警察官から父ジョンのことを聞いている場面から映画は始まります。精巧な偽札を作ったという嫌疑で警察に追われていたという話が語られ、物語は1969年に遡ります。幼いジェニファーは弟のニック、母パティ、そして愛する父ジョンと暮らしていた。ジェニファーは父を慕っていたものの、父は頻繁に行方をくらませては戻ってくりという毎日だった。ジョンは国旗記念日=フラッグ・デイ生まれでそれが彼にプライドに結びついているのかも知れなかった。それでも、ジェニファーは父ジョンとの思い出は忘れられなかった。
定職につかず、夢のようなことばかり追い続けるジョンに嫌気がさし、妻のパティは苛立ちを募らせ、とうとうジョンと別居することになる。二人の子供を抱えての日々にストレスが溜まっていくパティは酒に溺れ、ジェニファーたちは父と暮らすと家を出ていく。次第にジェニファーの毎日も荒れ始めてくる。
高校生になった頃、父ジョンが行方が分からなくなり、ジェニファーたちは母の元へ戻るが。母は愛人の男と暮らしていた。ある夜、ジェニファーはその愛人に襲われかかり、切れたジェニファーは一人家を飛び出し、父ジョンを探して一緒に暮らしたいと申し出る。戸惑うジョンだが、ジェニファーを受け入れしばらく暮らし、ちゃんと仕事をするからと面接を受けてサラリーマンになったとジェニファーに話す。しかし、それが嘘だとわかる一方、またいつもの癖で夢ばかり追い求める父を見ていたジェニファーだが、とうとうジョンは銀行強盗をして15年の刑に服することになる。
ジェニファーは、これまでの自堕落な生活をぬける決心をし、ドラッグ中毒の禁断症状も克服、父が残してくれた金をもとにしてジャーナリストになるべくミネソタ大学を受ける。父が犯罪者であることを最初は隠したが、学長はジェニファーの目標を応援する。やがてジェニファーはジャーナリストとして独り立ちし、各地を転々とし始める。ジョンはジェニファーに再三手紙を出すも全く返事がなかった。そんな頃、ミネソタ州で奇形のカエルが発見され、水質汚染であろうと突き止めたジェニファーは、その事件を追い始める。
ある時、ジョンがジェニファーの会社を訪ねてくる。かつてジェニファーらが子供の頃暮らした湖のそばのコテージを借りたから行こうという。最初は躊躇したが、ジェニファーはジョンの思いを遂げてやる。しかし、ジョンは全く以前と変わらず、ジェニファーに見栄を張った嘘をつく。そんな父に飽き飽きしたジェニファーはその場を立ち去る。
この日、ジェニファーは、排水汚染を起こしているらしい会社の幹部の取材をしていた。ジェニファーの追求に、幹部の男は電話をするために席を立つ。テレビに一台の車を追っているパトカーの映像が映る。追われているのは偽札を偽造した犯人ジョン・ヴォーゲル、父だった。ジェニファーは画面に釘付けになるが、追われていた車は横転して、中から血だらけの父が出てくる。ジェニファーには幼い頃から優しかった父の姿がフラッシュバックされる。父は持っていたピストルをこめかみに当て自殺、映像は冒頭の警察官の場面となる。こうして映画は終わっていきます。
ジョンが撮っていたホームムービーの映像や、手持ちカメラのようなドキュメンタリータッチの画面を挿入しながら、時々ハットするような美しい画面も映し出し、夢ばかり追って生活力のない一人の男と、それでも慕ってしまう一人の娘のどうしようもないお話にどこか切ない哀愁を生み出していきます。ミネソタの道端にあるカカシのような看板の文句や、ジェニファーが大事にしているペンダントなどの小道具もさりげなくスパイスになっていて良い。ただ、ニックやパティのことはほとんどなおざりにした描写や、汚染事件があざとく挿入される間の悪さもあり、決して出来のいい映画ではないかもしれないけれど、見て良い映画だったなあと思える一本でした。
「なまいきシャルロット」
思わず踊り出したくなるような、テンポが良くて瑞々しい青春映画の傑作。とにかくテーマ曲が心地いいのですが、史上最年少でセザール賞新人女優賞をとったシャルロット・ゲンズブールはもちろんですが手の届かないほどの天才少女として登場するクロチルド・ボードンの可愛らしさもずば抜けています。主人公シャルロットの一夏の恋、自由、不安それぞれがテンポよく綴られていて、とっても楽しかったです。監督はクロード・ミレール。
軽快なテーマ曲に乗せてタイトルが流れ、カットが変わると、プール、明日から夏休みというこの日、13歳のシャルロットは飛び込みの授業に出ているが、先生の掛け声にうまく飛び込めないまま膝を擦りむいてしまう。ケガの手当てをして帰ろうとすると視聴覚室でピアノ演奏の映像を視聴している授業に出くわす。教師に誘われて、その場面を見ることができたシャルロットは、画面の中で軽やかにピアノを弾く天才少女クララに魅了されてしまう。彼女もシャルロットと同じ歳だった。
明日からバカンスで、兄は友達と出かけてしまう、近所に年下で病気の友達ルルがシャルロットの家に泊まりに来ておしゃべりをするが、年下のルルに苛立ちを覚えたりする。ルルと二人で散歩に行き、たまたまクララが乗った車に道を聞かれる。数日後に開催されるコンサートにきていたクララは、ピアノの椅子を修理するための工場を探していた。憧れのクララに出会って胸が高鳴るシャルロット。
工場で二言三言クララと言葉を交わしたシャルロットはもっと親しくなりたいと願う。工場に勤める青年ジャンと知り合ったシャルロットは、ジャンが椅子を届けにいく車に乗せてもらい、クララの海辺の邸宅に行く。そこはシャルロットと明らかに違うほどに裕福な大邸宅で、別世界だった。しかも、クララから付き人になって欲しいと言われた上、パーティに招待される。しかし、結局パーティではそそくさと帰ってきたシャルロットだが夢見心地になっていた。
そんなシャルロットに、メイドのレオーヌもルルも反応は冷ややかだった。所詮叶わぬ夢を見ているだけだとレオーヌはシャルロットを諭すが、聞く耳を持たないシャルロットは、クララと旅に出る準備を着々と進める。密かにジャンにも惹かれていたシャルロットは、ジャンに誘われて彼の部屋を訪ねた際、ジャンに押し倒され、思わず傍のジャンが大事にしている地球儀の置物で殴って逃げてくる。一方で、シャルロットは何度もクララの家に電話をするがいつも留守電で伝言を残すだけだった。
やがてコンサートの日、シャルロットはルルやレオーナと会場へ行く。シャルロットは、コンサートの後クララの付き人として一緒に旅に出ると本気で思っていた。しかし、コンサートが始まり、突然ルルが客席から「シャルロットと行かないで!」大声を出したために三人は会場を追い出してしまう。
落ち込んだシャルロットは、舞台袖に行き、演奏が終わったクララを見つめる。そばにきたマネージャーのサムに、付人の話を聞いている旨話すが、クララに伝えてくれたものの、結局クララは車に乗りシャルロットに微笑みを返しただけで帰っていく。所詮、シャルロットの夢だった。しかも、コンサートの帰りルルは倒れてしまい、シャルロットはルルの病院に行った。
何かがシャルロットの胸の中で弾けた。クララへの夢はただ自分が自由になりたかっただけなのだと。そしてこの日ジャンは船に乗るために旅に出る。こうして映画は終わります。
とにかく、踊り出してしまうほどテンポの良い作品で、映画全体があまりにも瑞々しくて透明感にあふれています。本当に心に残る一本に出会った気がしました。