くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ワン・モア・ライフ!」「すくってごらん」

「ワン・モア・ライフ!」

小品ですが、イタリア映画らしいドライな笑いと、さりげなく埋め込んだブラックユーモアがちょと面白い作品。単純な御涙頂戴的な凡々とした作りじゃないのがとっても魅力的な作品でした。監督はダニエレ・ルケッティ。

 

港のクレーン現場で働く主人公パオロの場面から映画は幕を開ける。仕事が終わり、バイクに乗り、いつもやっている赤信号同士の瞬間に交差点を突っ切ることをしようと飛び込んだのだが、この日に限ってほんのわずかにタイミングがずれてトラックに跳ねられ死んでしまう。

 

あの世への入り口で審査を受けているときに、死神がパオロが普段スムージーを飲むというのを計算外にしていたミスが発覚、パオロは、92分間の寿命を与えられ、パオロは担当の死神と一緒に地上に戻る。パオロは、わずかの余命を有効にするべく、愛する妻アガタとSEXをし、アガタの依頼通り、息子のフィリッポを迎えに行ったり、娘のアウオラとあったりする。

 

映画は、わずかにブラックユーモアを交えながら、主人公の過去の話と現在を描いていきます。子供に目を向けることなく、次第に子供達がパオロから離れていく流れ、次々と女性関係を繰り返していく主人公の女癖の悪さを反省したりと、よくある後悔ドラマを綴っていきますが、時間が迫ってくるにつけ、家族と最後を過ごすことに執着してきて、妻が、警察から事故の連絡を受けるにあたり、とうとう真実を話します。そして、友達のところに泊まりにいくというアウオラと人生ゲームをし、フィリッポを抱きしめ、死神にせかされながらも、妻との抱擁から離れない。しかし、諦めて死神についていくと、事故を起こしたバイクが止めてある。

 

パオロと死神がバイクに乗り走りはじめる。気持ちが昂っているパオロは、次第にスピードを上げ、事故を起こした交差点へ差し掛かりますが、スピードが上がっているので、わずかのタイミングで事故を免れてしまう。そして、バイクを止める。死神は何食わぬ顔をして去っていく。このユーモアある不思議なエンディングもうまい。

 

家に帰ってくるパオロに、かつての女性から、また前みたいに付き合わないかとメールが来て一瞬目を止める。そして妻の元に帰って映画は終わります。このラストのブラックがなんとも愛おしくなる仕上がりで、一級品とまではいかないまでも、ちょっと面白い作品でした。

 

「すくってごらん」

久しぶりに大好きな映画に出会いました。とっても素敵、とっても楽しい、とっても切なくて、どこか伝わるものがあって、見終わって涙が溢れてしまいました。本当にこんな映画もっと作ればいいと思えるほど最高の一本といえる作品に久々に出会いました。監督は真壁幸紀

 

金魚のアップから映画は幕を開ける。どうやら車の後ろに積んでいるタンクの中、金魚がいっぱいのようである。田園が広がる田舎道を一人の男香芝誠が歩いている。東京の銀行でエリートコースを歩んでいた彼はふとしたことで左遷されこの田舎にやってきた。彼が田舎を馬鹿にする心の声が画面に映し出されていく。目的地を聞くのに、通りかかった金魚を積んだトラックを止める。歩いていくのは遠すぎるからと、気乗りしないままにこのトラックの助手席に乗る。ラジオから一昔前の歌が聞こえ、いかにも都会離れしていると心の声がつぶやく。

 

古い街並みの一角で車を下ろされた香芝は、突然目の前に振袖姿に女性の後ろ姿を見かけてその後を追っていく。角を曲がると大勢の着物の女性が踊っている。振袖の女性を追っていくと、一軒のいかにも煌びやかな灯りの紅燈屋という店に入ってしまう。中にはさまざまな金魚の水槽が並び、いきなり女性に金魚すくいのポイを渡される。彼女はこの店の主人吉乃と言った。香芝がまごついていると、後ろから下宿のおばさんが出てきて、案内される。いきなりのオープニングからどんどん引き込まれていきます。しかも、ミュージカル風の背後の音楽や踊り、果ては歌がとっても素敵なのです。

 

香芝は赴任先の支店にやってくるが、数字が全てと信じる香芝はどんどん仕事をこなしていく。営業先のバーでいかにもセクシーな明日香と出会う。それでも、成果を上げるには数字しかないと信じる香芝はビジネスライクに話をするが、どこかずれている自分を見る。

 

ある帰り道、ピアノの音に惹かれて倉庫を覗いてみると、吉乃が弾いていた。その曲もまた素敵で、ミュージカル仕立てで歌が繰り返し挿入される演出、古い街並みが遊郭のような色合いでキラキラ輝く様の美術も素敵なのです。

 

香芝はバーの経営を見直せば良いなどと明日香と話をするが突然明日香にキスをされて戸惑う。また吉乃に金魚すくいの奥の深さなども教えられる。香芝は次第に吉乃に惹かれていき、いつの間にか好きになってくる。香芝の心の動きが文字となって画面を覆い、一方で歌詞がテロップで流れながら歌うシーンも繰り返され、独特の演出でどんどん映画に引き込まれていきます。

 

そんな時、近くの高台でかつて車に乗せてもらった金魚売りの青年と出会う。彼は王寺と言った。彼と話しながらも、どんどん香芝はこの街に引き込まれていく。香芝は、吉乃のピアノに魅せられ、ぜひバーで弾いてみんなに聞かせたらどうかというが、吉乃は決して人前で弾かないのだという。子供時代、ピアノの天才的な才能のある幼なじみと舞台に立って、弾けなかったというトラウマがあるためだという。

 

香芝は、バーで開かれるライブに誘われ、吉乃を誘って、当日バーで演奏される奏者を見て自信を持ってもらおうとする。ところがその日、香芝がバーへ行くと、弾いていたのは王寺で、彼こそが吉乃が話していた幼馴染だと知り、その場を去る。

 

そんな時、香芝に辞令が届く。もう一度東京の本店に戻してもらえるのだという。香芝は吉乃について来てほしいとついに告白するが断られ、そのかわり祭りの場で人前でピアノを弾いてほしいと頼む。断る吉乃に、香芝は王寺と金魚すくい対決をして勝ったら弾いてほしいと提案する。王寺はかつて金魚すくいチャンピオンだった。

 

勝負のことを王寺に話す香芝。王寺は3分で百匹の金魚を掬ったという。香芝は百一匹掬うことを目指し練習を開始する。そして祭りの縁日の日、香芝と王寺が金魚すくい対決を始めるが、緊張し切った香芝は全然金魚を掬えない。ポイが破れても金魚を掬う王寺を見て、香芝は金魚掬いを始めるが、途中で辞めてしまう。そして何かを感じ取ったと思った瞬間、吉乃と王寺がデユオでピアノを弾いている場面を見て、香芝は一人その場を離れトランク引いて街を出ていく。こうして映画は終わります。

 

オープニングとエンディングをループで結び、昔ながらの街並みをまるでファンタジーのように描き、ミュージカルのように歌が流れ、曲が覆う。ちょっと艶かしい提灯の明かりが不思議な世界を創り出して、まるで香芝の心の作り出した幻想の空間であるかのように描いていく手腕は見事。コミックの原作があるのですが明らかに紙媒体から映像へ昇華されていると思います。本当に久しぶりに大好きな映画に出会いました。今は、とにかく嬉しくて仕方ありません。