くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「恋のいばら」「嘘八百 なにわ夢の陣」「とべない風船」

「恋のいばら」

傑作でした。二転三転していくサスペンスと、コミカルな展開、作り込まれた映像と練られたセリフの数々にどんどんお話が深みにはまっていく。にも関わらず、重くならずに軽いタッチが最後まで持続する演出も面白い。楽しめる映画に久しぶりに出会いました。監督は城定秀夫。

 

ベッドで寝ている一人の女性の上に羽毛がゆっくりと落ちて来る。横にはもう一人寝ているが男性か女性かわからない。場面が変わり、図書館で働く桃が「眠り姫」の本をつい口に出して読んでしまい咎められる。振り返ると一人の男性健太郎がじっと見ている。場面が変わるとポールダンサーが踊るクラブで働く莉子。その日の仕事が終わり帰ろうとすると誕生ケーキを持ってきて欲しいと言う名指しの客がいると言う。莉子が持っていくと、なんと健太郎のサプライズで、莉子の誕生祝いが行われる。その夜、莉子は健太郎と過ごし、翌朝、先に出た健太郎の後から出る際に傍の写真集を自分の持ってきたものと入れ替える。莉子の彼氏健太郎は、痴呆気味の母と暮らしている。

 

入れ替えた写真集をゴミ置き場に捨てて、莉子はダンスのレッスンをしたりする。ある時、バスの中で莉子は桃という女性に声をかけられる。桃は健太郎の元カノだと言う。そしてリベンジポルノの話をし、自分の写真がネットにアップされるかもしれないと思うと眠れないので協力して欲しいと言う。健太郎の部屋に行き、彼のパソコンデータを削除する手伝いをして欲しいのだと言う。最初は気にしていなかった莉子だが、次第に自分も不安になって、桃に協力し始める。桃の部屋に行った莉子は、桃が健太郎にもらったアンクレットをしていることに気がつく。

 

まず、健太郎が仕事でいない夜に、桃の持っている合鍵で忍び込む計画だが、行ってみると鍵が変えられていた。そこで、莉子は健太郎を映画に誘い、鍵を巧みに桃に渡し合鍵を作る事だった。なんとか合鍵を作ったものの、行ってみるとチェーンがかけられて入れなかった。そこで二人は、健太郎の母が痴呆気味なのを利用することにする。母は綺麗な廃品オブジェを拾い集めるのが日課になっていた。莉子達は庭に光るものを「ヘンデルとグレーテル」のようにばら撒く。母は裏庭に出てきて拾い始める。ばら撒いた物の中には、莉子が健太郎にもらったネックレスもあった。

 

莉子達は健太郎の部屋に入り、パソコンデータを検索していたが、突然健太郎が戻って来る。桃はクローゼットに隠れるが、莉子は服を脱いで健太郎をポラロイド写真で迎えた上ベッドに誘惑する。それを見ていた桃は涙ぐんでしまう。上手く仕事に行かせた莉子は桃と一緒に健太郎の写真などを破り始める。そして桃は莉子に、自分は健太郎の元カノではなくストーカーだったと告白する。健太郎と関係はあったが付き合っていなかったと言われた話、桃が追いかけていたのは莉子だったことなどを次々と話す。実は莉子は桃にかつて会っていた。桃が強引に合鍵で健太郎の部屋にやってきて健太郎に飛びついた際、ベッドの下に莉子が隠れていて、桃のアンクレットを見ていたのだ。

 

二人は健太郎の部屋をめちゃくちゃにし、羽毛をばら撒いてベッドに横になる。冒頭の場面である。そして、帰ろうと階段を降りてきて母と出くわす。母は、自分が作った巨大なお城を庭に出して欲しいと言う。莉子達がそのお城を外に出す。二人が帰った後健太郎が戻ってみると、ポラロイド写真に「ばいばい」の文字があった。健太郎が莉子に電話すると、莉子は「二人は付き合ってたわけじゃないよね」と答える。

 

健太郎は元の生活に戻り、写真の仕事をしている。莉子と桃は健太郎の母と楽しく話している。莉子は自分の前世はスイスにいた娘なのだなどと話す。桃は「眠り姫」の話を語り、十三人目の魔女の事を莉子と話す。こうして映画は終わっていく。

 

ストーリー展開がまずめちゃくちゃに面白い。軽いタッチで流れていくのですが、どんどんそれぞれの存在に深みが出て来る。そんな二層三層した懲り方がとっても面白い作品でした。

 

嘘八百 なにわ夢の陣」

描こうとしているテーマは非常に奥が深くて、感銘さえ受ける物なのですが、前置き部分の配分が実に間延びしていて、クライマックスに流れてからのあざやかさを目にする頃には疲れている感じの出来栄え。しかも、雑な演出も見られる手抜きシーンの数々がどんどん安物映画に落としていく後半が実にもったいない。もっと真剣につくろうよと思ってしまいました。いい映画なのにね。監督は武正晴

 

秀吉七品と言われる豊臣秀吉の残したとされる七つのお宝。陶芸家の野田は、波動アーティストというTAIKOHの事務所から招聘を受ける。行ってみると、7つのお宝のうち、最後のおそらく焼き物であろう「鳳凰」というのを焼いて欲しいという依頼だった。つまり紛い物を作れという事だったが、妻が波動絵画に大金を払ったりしていて、量産陶器の仕事では賄えなくなっていた野田は引き受ける。

 

そんな頃、豊臣秀吉展開催のアドバイザーとして、たまたま動画配信で豊臣秀吉七品の解説をしていた骨董屋の小池が呼ばれる。小池はTAIKOHのオフィスで野田を見かけたこともあり、新たな仕事を計画しようとするが野田は乗ってこなかった。ところが、小池は豊臣秀吉研究家の別人物と間違われていたことがわかり、開催委員会から解雇される。一方、なかなか陶器が完成しない野田もTAIKOHの事務所から解雇される。この辺りの展開が非常に雑。

 

しかし、夢に「鳳凰」を何度も見て、かつて妻との思い出の品であるガラスと陶器のかけらからヒントを受けて、「鳳凰」は陶器にガラスを交えた物ではないかと考える。そんな野田に小池は、古文書による「鳳凰」のヒントを授ける。こうして二人は「鳳凰」の焼き物を作り始める。

 

やがて完成した焼き物をテレビ番組で放映したところ、秀吉博の委員やTAIKOHの事務所が駆けつけ、野田の焼いた器とTAIKOHが描いた時価一億の絵画との交換が成立する。偽物だろうと豪語する委員達に、夢を持つことこそ、秀吉が考えた真のお宝の意味だと小池は朗々と説明する。こうしてTAIKOHも、スランプを抜けてまた絵画の世界に戻れることになり、野田の陶器展も開催され、順風満帆な日常が戻って映画は終わる。

 

小池が語るクライマックスのセリフにこの映画のメッセージが凝縮されていて、この部分だけだと感動してしまうのですが、行かんせん、全体の出来栄えが実に間延びしているし、お宝の陶器を、専門家であるはずの骨董屋の小池や豊臣秀吉研究の大家が素手でつかむ適当演出など映画全体が雑に作られているので、せっかくのメッセージがペラペラに仕上がっています。勿体無い一本という感じの映画でした、

 

「とべない風船」

とってもいい映画でした。丁寧に丁寧に描かれた脚本を一生懸命に演出していった結果、微妙な心の変化と希望を自然と画面に浮き上がらせていきました。こういう一生懸命作られた映画は良いですね。登場人物全てが物語に最後まで関わって来るし、さりげない小道具やインサートカットが映像にテンポを生み出していく。しかも、エンディングまで手を抜かない演出も良い。いい映画が見れました。監督は宮川博至。

 

教師を辞めて、父の住む瀬戸内海の島に凛子が戻って来る所から映画が始まります。出迎えた父もかつて教師で、母は病気で他界していた。着いた日、突然、無愛想な男が魚を持って家に入ってきて、凛子は驚いてしまう。その男は憲二と言って、妻と息子を豪雨災害で亡くし以来、沈んだ表情で日々を過ごしていた。義父はそんな彼を何かにつけて責めるのだった。

 

ある時、島の小学生咲が行方不明になり大騒ぎとなる。しかし、憲二が仕掛けた魚の罠のところにいるのを憲二が見つける。凛子は少しづつ島の人たちとも親しくなる。母さわは病気を知って、最後をこの島で暮らすためにやってきたのだとわかる。凛子と関わったりしているうちに、憲二の心も次第に解されていく。

 

そんな時、凛子の父繁三が発作で倒れる。憲二の船で病院へ搬送し一命を取り留めたが、東京で手術をするために島を離れることになる。一方凛子ももう一度教師に戻るべく島を離れることにする。憲二の家には黄色い風船がいつも結えられていた。それは、かつて息子が、漁に出た父が無事帰るようにと結んだ物だったが、今は妻と息子をいつまでも待っているという憲二の合図だった。そんな憲二に義父は、これまでついつらく責めたことを謝る。

 

島を離れる日が近づき、憲二ら島の若者達は浜でバーベキューパーティをする。憲二を慕う咲や子供達ら島の人たち、凛子らは楽しく過ごすが、突然雨が降ってくる。それをきっかけに、せっかく立ち直りかけた憲二は過去を思い出し、その場から走り去ってしまう。後を追う凛子。それから憲二は、また家から出られなくなる。凛子や咲が訪ねて行っても出てこない。間も無く凛子の去る日が来る。

 

港で咲は凛子を見送るが、やってこない憲二の家に連れて行ってもらう。咲の懸命の声かけに、ようやく起き上がった憲二は、玄関で咲を抱きしめる。船に乗った凛子は、彼方に二つの黄色い風船が飛んでいるのを見つける。凛子と繁三を待っているという憲二のメッセージだった。憲二の家では、憲二が咲と一緒に、家にゆわえている風船を飛ばすことにする。ようやく憲二は前に向けるようになったのだ。黄色い風船がドンドン空に上がって行って映画は終わる。

 

とにかく、一つ一つの場面、セリフ、カットが丁寧に描かれていて、見ていてどんどん登場人物の心の変化と一体になっていき、最後は胸がいっぱいになってしまいました。本当にいい映画でした。