くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「月曜日に乾杯!」「ここに幸あり」「少女は卒業しない」

月曜日に乾杯!

非常にシンプルな話なのですが、小さなエピソードがラストで絡み合ってくる展開が秀逸で、しかも毒のある風刺も見え隠れするなかなかの一本でした。監督はオタール・イオセリアーニ

 

絵を趣味にし、溶接工をしている主人公ヴァンサンが、いつものように車に乗り、仕事場の工場へ向かう。途中、黒人が運転するトラクターとすれ違う。職場ではタバコが吸えないので、注意されながら次々と穴の空いた管の溶接をしていくが、突然蒸気のようなものが漏れる場面があり、実は職員の一人が破壊工作をしているカットが映される。淡々と仕事をして帰るヴァンサン。翌日も車に乗りトラクターとすれ違って職場へ行くが、門に入る直前で、何かを思ってその場をさる。そして一夜過ごして父の実家に行くと叔母たちがいた。父の容態が悪いのだというから寝室に入ると父は目を開け、叔母たちを帰して二人で飲もうという。ヴァンサンは叔母たちを帰して父と酒を飲む。父はどこかへ旅行に行けと金をくれる。

 

ヴァンサンはその金でヴェニスに行く。途中の列車の中で婦人のトランクを運んでやり、カルロという男性と知り合う。ヴェニスでは父の友人の音楽家に会いに行くが、見栄だけを張っている男だった。ヴェニスではスリに財布をすられる。ヴェニスでカルロと再会したヴァンサンはボートでヴェニスを案内してもらい彼の家に泊めてもらう。翌日、カルロは仕事に行くからと工場へ行く。ヴァンサンは、大きな貨物船に乗せてもらい次の旅路へ向かう。

 

カットが変わると、ヴァンサンの家にハガキが届く。そのはがきはヴァンサンがエジプトから出したものだった。妻はそのハガキを読もせず破る。祖母はヴァンサンがいなくなってお金がないからと庭に埋めてあった壺を掘り出すとたくさんの小銭が出てくる。息子は教会で壁画を描いている。パイプを繋いだハングライダーで空に舞い上がると父が帰ってくるのを見つける。

 

ヴァンサンが家に入りにくそうにしていると、妻と目が合い、あっさりおかえりと言われて家の中へ。息子はスライドで写真を壁に映して絵を描いている。弟はそのモデルの絵になっている。トラクターを運転していた黒人は結婚式を挙げて、新婚旅行へ行く。やがてヴァンサンは以前と同じく仕事場に行く。向かいにいる白人の夫婦がトラクターで出てくる。ヴァンサンの妻がその夫婦の女性に声をかけ、カメラは工場の煙突を捉えて映画は終わる。

 

ラストのショットがちょっと毒があり、元の生活に戻ったヴァンサンの人生も何か不思議な感覚にとらわれます。でも、ユーモアを散りばめ、次々と出てくる人物が最後にまとまっていく作りは見事。全体が一つの映像作品にしてまとめてしまう一本で、隅々まで楽しめる映画でした。

 

ここに幸あり

これは良かった。さりげないループで同じ物語が繰り返すような展開ですが、人生の幸せのなんたるかをちょっと風刺を込めて描かれた展開が楽しい。例によって様々な登場人物が最後に一つにまとまっていく下りもいい。隅々まで楽しめる心温まる映画でした。監督はオタール・イオセリアーニ

 

野生の動物が走り回る隣国の大臣の訪問に来たとある国の大臣ヴァンサンの場面から映画は幕を開ける。隣国の大臣は黒人でいかにも原住民という出立。そしてヴァンサンに鳥をプレゼントしてタイトル。陳情に来た人を放っておいて側近と遊んでいるヴァンサン。外では労働者のデモが行われている。どうやらヴァンサンが提案した法案への反対のデモらしい。愛人の女は浪費癖があり、今日も訳のわからない銅像を買って来てヴァンサンに疎まれる。労働者のデモが激しくなり、政権安定のために首相はヴァンサンを更迭し、新しい大臣と交代させざるを得なくなる。

 

普通の人に戻ったヴァンサンは母親の元を訪ね金を借り、元住んでいたアパートの鍵をもらう。ヴァンサンが行ってみると、不法占拠されていた。ヴァンサンは隠し部屋に入り、そこでピアノを弾く。向かいのアパートの女性に色目を送ったりする。公園で座っていると旧友がやってきて酒をもらう。ヴァンサンは、元妻の家を訪ねるがそっけなく追い出され、街中で若い女性に声をかけ、すぐに友達になってしまう。レストランでデートをしていて、今の大臣の一行とで出会いそうになったりもする。

 

ヴァンサンは、不法占拠を排除するように嘆願し、それが現在の大統領に届き、強制執行でヴァンサンのアパートの部屋は元に戻される。そこに旧友たちが集うが、友人たちが大騒ぎしたので友人たちは警察に追い出される。

 

しばらくすると現大臣も母親の意向を繰り返していてやがて労働者の反発を食うようになる。まもなくしてヴァンサン同様更迭されることになる。ヴァンサンは公園の仕事をするようになり、新しい恋人とよろしくやっている。女友達の多いヴァンサンだが元妻とも仲良くやり、今日も公園でパーティをしている。そんなところへ職を追われた大臣がやってくる。ヴァンサンは、かつて自分がしてもらったように酒を飲ませてやる。そして、今がとっても楽しいと呟く。アパートの隠し部屋では、書店で知り合った女性がピアノを弾いている。こうして映画は終わっていきます。

 

ヴァンサンが街で声をかけた女性たちが、そこかしこにラストで絡んでくる展開がとってもユーモアあって微笑ましく、権力の座を目指した人生を皮肉るようなラストの締めくくりがどこか風刺が効いていてにんまりしてしまいます。いい映画でした。

 

「少女は卒業しない」

期待していなかったのですが、掘り出し物、めちゃくちゃ良かった。朝井リョウの原作がいいのかもしれませんが脚本が実に事細かく丁寧に書かれていて、シーンの入れ替えのリズムも抜群で、何度も涙する上に、懐かしい一瞬を思い出してたまらない切なさに浸ってしまいました。まだまだ新人の女優陣も抜群でした。良かった。監督は中川駿。

 

桜満開の三月、卒業式を明日に控えた教室から映画は幕を開けます。この校舎は今年で取り壊しが決まっていて、明日が最後の卒業式となる。今日は卒業式の予行演習、いつものように山城まなみが登校して来てクラスメートと挨拶を交わす。バスケ部長の後藤由貴は地元に残る恋人の寺田と気まずくなっている。後藤は東京の大学で心理学を学ぶ予定だった。予行演習の後、バスケのシュートをしてうまく入ったらもう一回寺田とちゃんと話すと決め、シュートし成功する。

 

軽音学部長の神田杏子は幼馴染の森崎に想いを寄せていた。卒業式の後のライブで軽音学部の三つのグループが演奏することになっていてその順番を人気投票で決めたが、口パクで歌うビジュアルロックグループのヘブンズドアが在校生の意図的なノリでトリを務めるようになってしまっていた。ヘブンズドアのボーカルこそ森崎で、実際の歌声を軽音学部の誰もが知らず、不安に思っているが神田杏子はそのままの順番でと説得する。

 

クラスに馴染めず、図書室にやって来た作田詩織は図書室の坂口先生に淡い思いを抱いていて、この日も図書室に来る。作田は坂口から、クラスの誰かに声をかけてみたら良いとアドバイス、その際決して同意するようなことをいうなと言われる。作田はクラスで思い切って一人のクラスメートの話題に割り込むがうまく言葉が続かなかった。

 

答辞をを読むことになっている山城まなみはある恋人への想いがあった。調理実習室で山城はいつも恋人の佐藤駿に弁当を作って来て一緒に食べていた。佐藤は山城の作って来た弁当に入っている国旗を部屋の隅に貼って、国連みたいにしたいと言っている。そして鼻歌である曲をいつも歌う。放課後時々聞こえて来たけれど何の歌か知らないのだと言う。

 

卒業式の前夜、後藤は友達と花火を買う。そして思い切って寺田に電話をし、卒業式の朝一緒に行こうと誘う。そして卒業式のあと花火がしたいから屋上来て欲しいという。作田は近所の本屋へ行き一冊の本を買うが、通りで坂口とばったり出会う。作田は坂口の指にある結婚指輪に気がつく。

 

卒業式の朝、森崎はいつものように弁当を作り調理実習室に行く。佐藤はいないが弁当を置いて部屋を出る。後藤は寺田と待ち合わせ、一緒に学校へ向かうが、寺田はそっけない言葉を後藤に投げて別れる。軽音学部では森崎の衣装や化粧道具がなくなって大騒ぎしていた。しかし森崎は一人でも歌うと言う。作田はバスの中で、前の女の子に持っている本を聞かれ、夢がある本だと答える。そして卒業式が始まる。山城は壇上に上がり答辞を読もうとするが、一人の父兄の母親を見る。その母親の胸には佐藤の遺影があった。。佐藤は夏、転落して亡くなっていた。涙で答辞を読めない山城。

 

卒業式が終わり、ライブが始まろうとしている。後輩の不安をよそに神田は、森崎は中学時代普通に歌っていたと話す。そして化粧道具や衣装を隠したのは神田だった。屋上では寺田が朝のことを後藤に謝り、花火を始める。作田は一人帰ろうとして、昨日声をかけたクラスメートに呼び止められ、アルバムを交換してメッセージを書きたいと言われる。そして、図書室に行き、感慨に耽っている坂口先生にアドバイスのお礼を言って、実は…と見つめる。卒業したくないと。そして、ずっと借りっぱなしだった本を返そうとする。作田が書店で新しいのを買ったからというのを坂口は買った方を預かり、ずっと借りていた方を作田に渡す。

 

神田は森崎が放課後、部活の後歌っているのを知っていたが、自分だけの秘密にしておきたかったのだという。そして森崎の番が来て、ゆっくりと「ダニーボーイ」を歌い始める。いつのまにか在校生らも聴き入っていく。調理実習室では山城が友人と佐藤の思い出を話している。体育館から森崎の歌声が聞こえてくる。かつて、佐藤が口ずさんでいたものだった。佐藤は森崎の歌声を聞いていたのだ。

 

全てが終わり、山城は体育館で一人佐藤の幻影を見ていた。そして佐藤の前で答辞を読み始める。屋上では花火が、図書室の廊下では作田が、舞台袖では神田が森崎を見ている。答辞を読み終えた山城は、佐藤にかけた上着を引き寄せる。めいめいが先へ進んでいく場面で映画は終わる。

 

原作に描かれているであろう細かいエピソードの数々が丁寧に脚本に盛り込まれている上に、それを巧みに挿入した編集も的を射ていて見事。本当に爽やかな青春ムービーでした。