くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「パリタクシー」「ガール・ピクチャー」「ダークグラス」

「パリタクシー」

ほのぼのしたハートフルヒューマンドラマという感じで、余計なメッセージは最小限で、人生の機微をさりげないユーモアを交えて描いた小品。気軽に楽しんで胸が熱くなる映画でした。監督はクリスチャン・カリオン。

 

タクシー運転手のシャルルが洗車機で車を洗っているところから映画は幕を開ける。シャルルは、金も休みもなく、しかも免停寸前。この日配車係から遠方の老人ホームまでの長距離を依頼されるが乗り気ではない。それでも顧客を迎えに行くが、その客は92歳の老婦人マドレーヌだった。とりあえず、目的地に向かうが何かにつけていらついているシャルルにマドレーヌは包み込むような会話で癒していく。そして彼女は若き日を回想して話し始める。

 

ファーストキスはパリ解放にやってきたアメリカ人マットだった。二人は愛し合うが、まもなくしてマットは母国へ帰る。手紙には母国に妻も子供もいるということだった。しかしマドレーヌのお腹には赤ちゃんがいて、息子マチューが生まれる。間も無くしてケイレフという男と結婚するが、その男はDVだった。しかし1950年代は、女性の立場が弱く、マドレーヌは息子を守るためにバーナーで夫の股間を焼いて復讐するが訴えられてしまう。しかも判決はマドレーヌに25年の禁固刑だった。

 

時が流れ、女性蔑視の風潮が見直され、マドレーヌは13年の刑期で出所、マチューは青年になっていた。しかし、法律家を目指しているものと思われていたマチューは報道カメラマンになっていて、ずっと放ったらかされていたマドレーヌに悪態をつきベトナムへと旅立ってしまう。しかし半年後マチューは戦地で殺される。そんな過去をシャルルに話す中、シャルルの家族も金銭的にも妻との関係もトラブルを抱えている様子が語られる。

 

夕方までに着くはずが、あちこち寄り道しながら夜になってしまったシャルルだが、タクシー代ももらわずにマドレーヌを施設に送り出す。そしてまた会いに来ると約束をする。家に戻ったシャルルは、妻から実家を売却する話を持ち出される。マドレーヌは女性蔑視反対運動の活動家で有名な人物だったとわかる。

 

シャルルはマドレーヌに妻を引き合わせるべく老人ホームに行くが、マドレーヌは昨日の朝亡くなったと言われる。重い心臓病で限界だったらしい。マドレーヌの墓を訪れたシャルルたちは、帰りにマドレーヌの公証人から手紙と、マドレーヌの自宅を売却した金の小切手を手渡される。こうして映画は終わっていきます。エンドクレジットで、マットと踊るマドレーヌの姿が映される。

 

マドレーヌの回想物語とシャルルの家族の物語をもうちょっと丁寧に描けばもっと深みのある作品になったかもしれません。道中起こるさりげないユーモアあるエピソードが映画全体を心地よいリズムに包んでいくので、作品が上品に仕上がった感じです。傑作ではないまでも、ちょっとした佳作という映画でした。

 

「ガール・ピクチャー」

映画全体がギクシャクして不器用な空気に包まれている。それは一見ダラダラとまとまらずに展開していく物語なのだが、それがこの映画のオリジナリティではないかなと思う。本当の恋愛やSEXや恋を探し求めながらも、その姿がはっきり見えていない幼い思春期の少女たちの心の危うさを物語として紡いでいく感じが不思議に引き込まれる映画でした。監督はアッリ・ハーパサロ。

 

ダンスホールで踊り狂う少女たち、カットが変わると体育の授業なのかホッケーをしているが一人の少女ミンミがクラスメートを意味もなく殴る。彼女に寄り添うのは親友のロンコ。二人はジェラートショップでバイトをしながら、恋や、SEXについて会話するのだがどこか幼くて上滑りで、何かの本で読んだような会話である。ここにヨーロッパ選手権出場を目指すスケート選手のエマがいた。彼女は最近得意のトリプルルッツが失敗続きでスランプだった。友人のバースデーパーティも断って練習すると言って母に戒められている。

 

そんなエマはミンミたちがいるジェラートショップでミンミと出会う。ロンコは、友達のパーティなどに顔を出してはボーイフレンドを見つけSEXしようとするがどうもうまく感じない。ミンミに教えられるままに相手に要求して相手を白けさせたりする。一方ミンミは、あるパーティでエマと知り合う。二人は急速に接近しやがて体を合わせるのだが、どこかぎこちない。しかしエマは次第にミンミに夢中になり始め、練習もおろそかになり始める。そんなエマにミンミは複雑な思いを持ち始める。

 

ミンミの母は新しい恋人と暮らしていて幼い弟もできていたが、いつのまにかミンミは母に忘れられるようになっている感じがして寂しい思いをしていた。ミンミとエマは頻繁に付き合うようになるが、ヨーロッパ選手権選考試合の前日、とうとうエマは母やコーチにキレて、もう試合に出ないと断言してしまう。それを見たミンミはわざと冷たくあしらう。エマはミンミに飽きられたと思い、一人練習に戻っていく。そんなエマをじっと見つめるミンミ。

 

ロンコは、いつも店頭に来る一人の青年をデートに誘う。そして一夜を過ごそうとするが、いざという時に吐いてしまう。その夜はその青年の部屋に泊まり、翌朝、駅で別れる。結局、ロンコにとってはその青年は恋人ではなかった。ヨーロッパ選手権選考試合、エマは出場、規定では失敗をするが、コーチの励ましもありフリーの演技でトリプルルッツも成功し見事選手権出場を決める。エマ出場の祝賀会、ロンコもミンミも来て、三人は、何か一つ大人になった気分で笑い合って映画は終わる。

 

ちょっとストーリー構成の整理が追いついていない感じがしますが、そのぎこちなさが映画全体の色になって、一つにまとまった感じがします。不思議な仕上がりの面白い映画でした。

 

「ダークグラス」

ダリオ・アルジェント監督10年ぶりの新作というキャッチフレーズで見に行ったが、呆気に取られる駄作ホラーでした。B級レベルで、ショッキングシーンの羅列だけのストーリーだし、肝心の殺人鬼が途中で普通に正体を表すし、そもそも、なぜ主人公が狙われるのかの動機づけさえ適当感満載、しかも相棒になる少年や、キーになる盲導犬の描写も思いつきレベルで、得意なサイケデリックな色彩もなく、いつものテンポいい音楽だけがアルジェント色という一本だった。

 

主人公ディアナが車で走っていると、周りの人たちが空を見上げているので、外に出て見上げると皆既日食。まずこの意味が不明。カットが変わるとホテルから一人の娼婦が出てくる。突然茂みから男が現れ彼女の首を針金のようなもので締め上げて殺す。警察が駆けつけ、一台の怪しいワゴン車の存在を突き止める。

 

ディアナはこの日も客を取って一仕事の後だった。彼女も娼婦なのだ。一人の犬のブリーダーをしている客を取った際、その匂いに罵声を浴びせたりする。ある日、一人の客に変態行為を要求され、罵倒して逃げ出すが、なぜか彼女を一台のワゴン車が追ってくる。ディアナは必死で逃げるが、ワゴンに追突され、前を横切った車と正面衝突し、衝突された車に乗っていた家族のうち父は死亡、母は昏睡状態、息子だけ奇跡的に助かる。ディアナも重傷で目が見えなくなる。まさに支離滅裂な展開です。

 

ディアナは盲人指導のリータに盲導犬をあてがわれ生活を始める。ディアナは生き残った少年チンを施設に見舞いに行くが、チンは施設にいるのが嫌だとディアナの残した名刺を頼りにディアナの家を訪ねてくる。ところが、怪しいワゴンがディアナの周辺に現れるようになる。ディアナはチンと家を出てリータの家にやってくるが、追ってきたワゴンの男にリータは殺される。ワゴンの男はかつてのディアナの客で、犬のブリーダーをして入り男だった。あっさり犯人登場に笑ってしまう。あとは、この男とディアナたちの追っかけあいとなる。

 

そしてついに男はディアナとチンを捕まえて、自分のアジトに連れて帰るが、ディアナの盲導犬も捕まえていた。柵を逃げた盲導犬にディアナは男を殺すように命令、盲導犬は男に襲いかかり八つ裂きにする。こうしてディアナとチンは助かり、チンは中国の従姉妹のところへ引き取られることになり、それを送るディアナの場面で映画は終わる。

 

何だこりゃという映画で、途中の水蛇に襲われてみたり、追ってきた刑事はあっさり犯人に殺されたり、とにかく雑で思いつきのつなぎあわせのような映画でした。ダリオ・アルジェントでなければ見てないだろう最低の仕上がりの映画でした。