くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ヌーのコインロッカーは使用禁止」「一晩中」「ノック 終末の訪問者」

「ヌーのコインロッカーは使用禁止」

カメラワークもカット割も素人っぽくて、しかもストーリー展開の構成も古臭く雑な映画なのですが、全体から湧き出てくる生の人間味の暖かさにどんどん引き込まれてしまいます。実在の人物を元にしているとはいえ、胸が熱くなりました。監督は上西雄大

 

借金が膨らみ、つまらない詐欺で刑務所に入り、妻や息子からも遠ざけられた一人の男黒迫が出所してくる。生活するために、かつての同級生でヤクザをしている男の世話でしゃぶを売るようになる。その取引場所は街の片隅のコインロッカーだった。ここに、発達障害で、いつも赤いトランクを引っ張りながら絵を描いている叶という少女がいた。黒迫がいつものように取引場所のコインロッカーを使おうとすると、そばにいた叶が突っかかってくる。そのコインロッカは自分専用なのだという。叶は、通称ヌーと呼ばれていて、赤ん坊の頃このコインロッカーに捨てられていたのだという。

 

何事にも純粋に受け答えしてくるヌーにいつに間にか翻弄されながらも親しくなる黒迫。たまたま取引に使う携帯に入っていたインスタにヌーの絵をアップしていたが、それが突然海外のアーティストの目に止まる。そして売って欲しいと接触してきたので黒迫は自分が描いたものだと言って一枚200万円という値をふっかける。ところが相手はすんなり受け入れて、アップしていた七枚の絵全部売れて、黒迫は大金を手に入れる。一部を息子の受験費用に振り込んでやり、ヌーのコインロッカーを専用に買い取ってやったり、ヌーを通天閣に連れて行ったりする。

 

ヌーの担当の民生委員の瀬戸は、いかにも怪しい黒迫に、ヌーと接触しないようにと訴えるが、真っ直ぐに接してくる黒迫にヌーはすっかり信頼を置き、親友としてカーブというあだ名で呼ぶようになる。黒迫は、そんなヌーにどんどん感化され、絵を売ったことに罪悪感を持ち始める。そんな時、ヌーが倒れる。病院で検査をすると白血病だという。骨髄移植が有効だという医師に、黒迫は、自分の骨髄を検査するように依頼、しかも奇跡的にヌーの骨髄に適合し、移植できることになる。ところが、警察の取り締まりで黒迫は逮捕されてしまう。

 

ヌーは黒迫に会うために病院を抜け出し、警察署まで行くが、雨に打たれ気を失う。そんな姿を見た検察官は黒迫に取引を持ちかけ、関係者を教えてもらう代わりに不起訴にする。事情を知った黒迫の友人らは黒迫を許す。ようやく釈放された黒迫だが、ヌーは亡くなっていた。泣き崩れる黒迫、瀬戸の姿から映画はエンディングを迎える。

 

非常にベタなストーリーで、古臭さは否めないし、次々と登場する人物、特に前半のヤクザたちの場面はかなり雑でごちゃごちゃしているし、ヌーの勤め先の同僚がヌーにイタズラをしていた等のエピソードはしつこいだけですが、中盤から後半にかけて、その荒削りな人間味がいい味を出してきてくれます。映画のクオリティはかなり低いので、決して作品として評価はできないかもしれませんが、忘れていた生身の暖かさを感じさせてくれる映画でした。

 

「一晩中」

映し出されるブリュッセルの夜、その中での様々なカップルの姿を描きながら、特に一本の通った筋はなく夜が明けて、みんなが新たに踏み出して映画が終わる。まさに映像という表現形態で語る作品で、何を言わんとしているかと考えるのではなく映像を楽しむ映画でした。監督はシャンタル・アケルマン

 

ブリュッセルの夜、様々なカップルが抱き合い、ダンスをし、語り明かす。はっきりと顔を映し出すわけでもなく、名前を呼び合うわけでもないので、見ている側は、映し出される場面場面を見えるままに受け取っていく。

 

やがて夜が開ける。音楽に乗せて踊ったり、わずかなセリフが交わされたりする。さっきまで映されていたカップルなのだろうが、何のつながりも感じられないままに、この日も始まって映画は終わっていく。

 

物語もメッセージもなく映像を楽しむ90分。作品として鑑賞する映画、そんな一本だった。

 

「ノック 終末の訪問者」

?何なのだ?という映画だった。不条理劇というスタイルなのはわかるが、ラストに鮮やかな真相が描かれないと、モヤモヤだけが残ってしまう。途中の惨劇場面も結局テレビを通してのみになっているし、原作があるとはいえ、映像化するにあたっては脚本にもうひと工夫欲しかった。ドキドキよりも、ただのカルト集団に襲われた善良なゲイカップルの家族という映画でした。監督はM・ナイト・シャマラン

 

一人の少女ウェインが森でバッタを集めている。そこへ大柄なレナードという男が近づいてくる。そして一緒にバッタを取り友達になろうという。しばらくすると、四人の男女が現れる。レナードは、ウェインの家に自分たちを素直に入れて欲しいというので、ウェインは慌てて家に逃げ、ゲイの両親アンドリューとエリックに伝える。間も無くノックが聞こえる。アンドリューたちは戸締りをするが、レナードたちは各々の武器で窓を破り押し入ってきてアンドリューとエリックを縛り上げる。

 

レナードは、エリックたちは選ばれた家族で、エリック、アンドリュー、ウェインのうち一人を犠牲にして差し出さないと世界が滅びるのだという。その選択を早急に進めなければいかず、区切られた時間のたびにレナードたちが順番に殺されていくのだと言う。何とも強引かつ無茶苦茶な話である。最初の選択を拒否したエリックたちの前で、レナードの仲間の一人の男が残る三人に殺される。その途端、テレビに巨大地震が世界を襲っているニュースが流れる。

 

さらに決断しないエリックたちの前で、また一人が殺され、大津波が世界を襲うニュース、さらに一人殺され、旅客機が次々と墜落するニュースが流れる。エリックたちが決断しないとエリックたち三人以外の人類は滅んで暗黒の世界が残るのだと言う。何とかロープを解き、車に隠していた銃を手にしたアンドリューが反撃するが、時が迫り、最後にレナードが残る。自分が死んだあと数分まだ余裕があると言って自ら死んでしまう。

 

レナードの言葉を受け入れられなかったアンドリューとエリックだが、ウェインの未来を考え、エリックはアンドリューに自分を撃つように懇願する。アンドリューはエリックを撃ち、小屋に隠れていたウェインを助けてレナードが乗ってきた車で脱出、近くのドライブインに寄ると、世界の惨事が突然止んだと言うニュースが目に入る。こうして映画は終わる。

 

結局、アンドリューとエリックが選ばれた件も、ゲイカップルである理由も、ウェインが中国人風であることも、それぞれの設定が全く説明されないままに終わる。レナードたちが黙示録の四騎士だと言うのはわかるが、何で世界終末がやってきているのかと言う背景も無い。出来事だけをかいつまんだような映画になっていて、ストーリーが破綻しているので、ドキドキもハラハラもなく面白くないのである。B級と割り切ればそれまでだけれど、ちょっと残念な映画でした。