「大阪古着日和」
ゆるゆるでたわいもない映画ですが、見ていて微笑ましいほどに癒されます。そのほんわかしか空気感がとっても素敵な小品でした。わざわざお金を払って見るかどうかはともかく、楽しいひと時を過ごせた気がします。監督は谷山武士。
大阪の川縁にある倉庫のような古着屋に、芸人で古着マニアの哲矢がやってくるところから映画は始まる。店主と話をし、店員のナナという女性と知り合う。軽い会話の後、お気に入りのスウェットに悩む哲矢。ナナには同じく古着マニアの叔父さん六さんがいる。映画は、ナナ、六さん、哲矢の古着への思いを一人語りさせながら、それぞれの日々の機微をさりげなく描いていく。
六さん、哲矢、ナナの三人で晩御飯を食べようということになるが、ナナは父の介護でドタキャン、六さんと古着談義をする。ナナから翌日のデートに誘われた哲矢は夜のライブまでナナと楽しみ、ライブの後食事を約束するが、先輩にライブの後のコンパに誘われ、それを相方に舞台でつっこまれ、その舞台を見ていたナナの機嫌を損ねてまう。
翌日、店に行った哲矢は、店主からナナが探しているスウェットがあると教えられ、自分が買いたかった二着を含めて紙袋に入れて中を見えないようにして並べて、どの二着を買うかナナと相談する。この日もライブだった哲矢はナナに送られる途中で、買った二つの紙袋の一つをプレゼントすると言ってナナに選ばせる。ナナが選んだのはナナが欲しかった方だった。ナナは、かねての夢を叶えるためロンドンに行く決心をしたと話す。夜、いつものように最近のことをネタにする哲矢たちの姿と、そのオチで映画は終わる。
本当にたわいのない映画ですが、見終わって心地いい。楽しいひとときでした。
「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」
まったりした青春映画かと思っていたら、陰にこもった若者たちの苦悩のドラマだった。ぬいぐるみという可愛らしいアイテムを仲介にした社会の問題点を読み取る作品だが、今ひとつくっきりとこちらに訴えかけてくるものが見えづらい気がします。その辺りの演出か脚本がしっかり出来ていれば面白い作品に仕上がったかも知れません。監督は金子由里奈。
一人の青年が風呂場で何かを洗っている。カットが変わり、高校生の七森が同級生に告白されている。七森には女性を恋する感情がわからないと返事をし女性は走り去ってしまう。彼らの少し上の道で小学生たちがぬいぐるみを取り合いしていて、そのうちの一つが七森らのところに落ちた。七森は水たまりに落ちた白いぬいぐるみを拾い、風呂場で洗う。冒頭のシーンである。ぬいぐるみの視点から七森を映し、カメラが引くと七森はネクタイを締めた大学生になっている。この日は入学式だった。
式の帰り、ベンチで思わずゴミを拾いかけ、隣にいた麦戸と出会う。二人は、ぬいぐるみサークルという部室に見学に行く。てっきりぬいぐるみを作るサークルかと思ったら、ぬいぐるみに話しかけるサークルだった。他のメンバーが話しかけている時はその話を聞かずにイヤフォンやヘッドフォンで耳を塞ぐルールがあった。七森と麦戸はこのサークルに入り、ぬいぐるみに日頃の様々を話すようになる。
このサークルには白城という、ぬいぐるみに話しかけないメンバーもいたが、彼女は、気持ちが癒されるこのサークルの存在が好きなのだという。他のサークルではセクハラや、世間でも様々な問題が起こっていてしんどいけれど、ここに来ればそんなことはないからとつぶやく。ぬいぐるみに思いの丈を話すことで優しくなっているのかもしれない。麦戸は突然学校に来なくなる。そんな頃、七森は白城に告白し付き合うようになるが、恋人同士というより親しい友だち同士のような関係だった。
しばらくして麦戸が学校にやってくる。その頃七森は、幼馴染とたまたま会って飲んだ際、自分が他と違うことを笑って済ます幼馴染に嫌悪感を感じ、学校に来なくなっていた。麦戸が七森を訪ねると七森は髪の毛を金髪に染めていた。麦戸は七森に、かつて電車の中で痴漢されている女性を見、友達の経験なども聞いて、生きていくのが怖くてたまらなくなっているのだという。そしてぬいぐるみに思いを話すことで、自分の存在を維持しているという。そんな麦戸に七森は、悪いのは麦戸じゃないからと諭す。
一年が経ち、部室でみんながいつものように話している。七森は、たくさんあるぬいぐるみを見て、ぬいぐるみも自分達に話しかけてくれているのではないかと話す。そこへ、新入部員が来る。彼もまた何かに怯えていた。優しく迎え入れる部員たち。こうして映画は終わっていく。
原作があるので、伝えたいメッセージがあるのはわかるが、ぼんやりとしか見えない。面白い作品なのですが、もう一歩工夫が欲しかった。
いつものように