くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ドント・クライ プリティ・ガールズ!」「ナイン・マンス」「はなればなれに」「カルメンという名の女」

「ドント・クライ プリティ・ガールズ」

全編に軽快なビート音楽が流れ、フィクションなのですがドキュメンタリーのように展開していく映像が瑞々しくて、しかも主演のユリを演じた少女がとってもキュートなので、本当に爽やかな青春映画という感覚が伝わって来る素敵な映画でした。監督はハンガリーのメーサーロシュ・マールタ。

 

軽快な音楽と共に映画が幕を開けると、まだ瑞々しい少女たちをガラス越しに映す。そしてたくさんの自転車で大勢の若者たちが工場へ向かう。それぞれに笑顔が溢れ、それぞれの青年に彼女らしい相手がいる。主人公のユリには兄も勧める婚約者がいて、この三人と親しい友人たちが、工場で、女子寮で、日々を送る様が延々と描かれていきます。

 

空き家のビルに遊びにいき、ユリと婚約者はある部屋で抱き合おうとするが、ユリは結局受け入れない。そこへ警官がやってきて若者たちを追い出し、ユリたちも追い出す。

 

グループで、あるライブに出かけた際、ユリはそのミュージシャンの青年と恋に落ちる。そしてその青年とライブツアーについていくことになり、ライブ先で、建物内で二人は体を合わせるが、兄たちが駆けつける。しかし、ことの成り行きを静観するように去っていく。婚約者はユリに別れようと提案する。

 

カメラは大きく空撮に変わり、延々と二人の姿を捉えた後、結婚式の場面になる。ユリは当初の婚約者と結婚し、友人たちに祝福されて車に乗り込みホテルへ向かうが、雨が降って来る。雨に降られ、部屋に入ったユリは婚約者に優しくキスされ、ベッドに横たわる。こうして暗転、暗闇の中延々と軽快なビート音楽が流れて映画は終わる。

 

はっきり名前が出るのはユリだけで、あとは名前を呼び合う場面もなく、しかも若者たちの容姿がほとんど見分けられないくらい似通っているので、お互いの会話でしか関係をつかめなかった。でも、全編に次々と流れる曲がとってもテンポ良くて、歌詞が物語を語っていくというスタイルと、頻繁に空撮シーンやドキュメンタリーのように追いかけるカメラワーク、突然のスローモーションなどが素朴で瑞々しく、まさに青春音楽映画の如きイメージの作品で、とっても良かった。

 

「ナイン・マンス」

切々と伝わって来る女性のドラマというイメージの映画で、素直に受け取れないのは男性故か、ハンガリーという国柄が理解できていないためか、いずれにせよ、男女のドラマというより一人の女性の生き方のドラマという映画でした。ラストの出産シーンはあっと驚いてしまいました。監督はメーサーロシュ・マールタ。

 

工場に勤務するために一人の女性ユリがやって来るところから映画は幕を開けます。主任のヤーノシュに面談され工場内を案内してもらって、仕事につくのですが、二日目にヤーノシュからデートに誘われる。あまりにいきなりなので拒否するユリだが、ヤーノシュは、最初見た時から惹かれていたと強引に誘い、勤務中も顔を見に来る始末。仕方なく食事に行くユリだが、ヤーノシュは、いきなり指輪を出し、結婚したいと申し出る。

 

あまりのことに全く受け入れられないユリだが、いつの間にかヤーノシュと付き合い始める。しかし、ユリには息子がいて、その子は妻子ある大学教授との間に生まれ実家で暮らしていた。どこへ行くとも言わず出かけるユリをつけたヤーノシュは、息子の存在を知るが、素直に受け入れられない。

 

ヤーノシュは、現在家を建てていて、そこでユリと暮らすつもりだった。息子の存在も心ではわかっているが、どこかすっきりしないまま、ユリはヤーノシュの子供を妊娠する。ユリは大学で農業の勉強もしていて、授業に行った際、相手の大学教授にもいつも会い、そこでヤーノシュに紹介する。しかし、ヤーノシュは自分の家族にユリの息子のことを言い出せないでいた。

 

家の内装をヤーノシュの親族らとしていた時、ユリは息子のことを言うとヤーノシュに宣言して、自ら息子のことや大学教授のことを告白する。工場でもユリは尻軽女で主任のヤーノシュをたらし込んだかのような噂を立てられ、ヤーノシュが暴力沙汰を起こしたこともあった。

 

ユリの告白にヤーノシュの親族は冷たい態度をとったため、ヤーノシュは家族を追い出す。しかし、自分の言うことを聞かず勝手に告白したユリを責め、ヤーノシュはユリと別れると言い出す。しかも子供を産むなとさえ言う。ユリはそのままその場を去る。

 

時が流れ、お腹が大きくなり、農業のハウスを見学しているユリ、陣痛が始まり、やがて出産、脳裏にヤーノシュの姿が浮かぶものの、赤ん坊が生まれ映画は暗転して終わる。この場面。まともに生まれて来る赤ん坊のショットに切り替わる瞬間が呆気にとられてしまいます。

 

ハンガリーの国柄もあるでしょうが、不倫などにまだまだ理解が進まない社会で、一人生きる女性の新しい時代の物語という作品かと思います。アメリカ映画的な音楽の挿入をする演出ですが、その画面の力強さに引き込まれる作品でした。

 

「はなればなれに」

二回目の鑑賞になりますが、これはやはり名作に数えられる一本です。前半のバタバタした青春ラブストーリーからクライマックス一気に犯罪映画になり、ラストは切ないほどにありきたりの締めくくりになるリズム感が絶妙。間にはいるナレーションが面白いスパイスとテンポを生み出し、音楽を操る演出が独特の映像世界を見せてくれる。楽しい一本です。監督はジャン=リュック・ゴダール

 

パリの大通り、ひっきりなしに走る車の群れの中から一台の車が抜け出してセーヌ川のほとり、川向こうに見える邸宅を望むところで止まる。乗っているのはフランツとアルチュール。これから川向こうの邸宅に忍び込んで金を取ろうと計画している。手引きするのは主人の従姉妹オディールだった。

 

彼女は英語学校に通っていてフランツたちもそこへいき、オディールを連れ出してパリの街へ行く。オディールはアルチュールに惹かれ二人は恋仲になる。そして、目当てのオディールの叔母の家に盗みに入ろうと話を進めるが、アルチュールがオディールを自宅に呼んで一夜を過ごした朝、なぜかアルチュールのおじたちがその計画を知ってしまう。アルチュールは仕方なく、フランツたちを裏切ることと、押し入る計画に参加することを認めさせられる。

 

アルチュールはフランツたちに急遽押し入るのを今夜にしようと話し、三人はオディールの叔母の家に行くが、各部屋に鍵ががかっていて入れない。オディールに鍵を見つけるように指示して一旦邸宅を後にする。そして戻ってきたフランツたちは、出てきた叔母に猿轡をはめてクローゼットに押し込み、金を探すが、金庫にはわずかしかなかった。冷蔵庫で残りの金を見つけるが、叔母はクローゼットの中で死んでいた。

 

三人は慌てて脱出するが、アルチュールは、本当に死んでいるか気になりとフランツたちを残して一人で邸宅に戻る。フランツたちはアルチュールの叔父の車とすれ違ったので、嫌な予感がして邸宅に戻ると、おじたちとアルチュールが撃ち合ってお互いに死んでしまう。そこへ、叔母の知人が車できて犬小屋から残りの金を取り玄関に行くと、死んだと思っていた叔母が出迎えたのを目撃する。フランツとオディールは南米へ逃げることにして船の上で愛を語って映画は終わる。

 

遊びきった映画作りという感じが切々と伝わって来る楽しい作品で、背後のナレーションでこの映画を笑っているふうな語りが繰り返される様が実に面白い。これがゴダールですね。

 

カルメンという名の女」

これは良かった。とにかく画面が抜群に美しい。一見混沌とした感じで即興で物語が進むようで、次第にまとまって来るかと思うと、再度混沌としてしまって締めくくる。いったい何を見たのだろうという感じで映画は終わるけれど、何か一つ個性的な仕上がりの一本の作品を見た感じです。不思議な感じですが、良かった。監督はジャン=リュック・ゴダール

 

パリの美しい夜景、ベートーヴェン弦楽四重奏を稽古する音楽家たち、精神病院で何やら仕事をする映画監督のジャン、そこへ姪のカルメンがやってきて、伯父に海辺の別荘を貸して欲しいという。そこでドキュメンタリーを撮りたいから監督して欲しいと言う。場面が変わると銀行の警備をする警官ジョセフの姿、続いて銀行へ強盗団が襲ってくる。

 

中にカルメンという女性がいる。撃ち合いの末カルメンとジョセフは体を合わせ、そして恋に落ちる。二人は車で脱出、ジャンの別荘へ辿り着く。そこで二人は愛し合う。時折、弦楽四重奏の稽古場面が交錯し、ジャンの姿も重なり始める。そして、いつに間にかカルメンとジョセフの関係は怪しくなり始め、やがて喧嘩別れしたようになる。海辺のホテルで撮影するはずが、急遽パリの高級ホテルに変更、撮影が始まり、ジャンらもやって来る。そして何やら大騒ぎの末、映画は終わる。

 

結局、どういう話だったかと思うのですが、明らかに映像作品としてはまとまっている気がします。とにかく映像が抜群に美しいので、それだけでも値打ちの映画でした。