くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「放課後アングラーライフ」

「放課後アングラーライフ」

小品ですが、とっても気持ちいい映画でした。一歩手前で止めるエピソードの数々が思春期の女子高生の危うさを見事に描いていて、切なささえも感じられてしまう。さりげない一瞬の青春の一ページを爽やかにさりげなく素朴に、最低限の台詞で描いていく。決してトップクラスの映画ではないかもしれないけど大好きないい映画だった。監督は城定秀夫。

 

主人公めざしが教室で弁当を食べていると、後ろの女子が消しゴムのクズをめざしの弁当に吹き飛ばす。めざしはいじめられているらしい。場面が変わると、転勤で引っ越すことになっためざしの家族が車で海辺の田舎町にやってくる。めざしは新しい学校で、自分なりのルールを決めて二度と辛い目に合わないように準備をする。そのルールに「友達を作らない」というのもあった。

 

クラスで紹介され、クラスメートに歓迎の笑顔を向けられただけでも動悸がしてくるめざしだったが、授業中、一人の女子から昼休みに話したいことがあると手紙をもらう。てっきり、またいじめられると屋上へ行っためざしだが、呼び出した白木椎羅は、めざしという名前と椎羅という自分の名前に魚に縁があるからと自分たちのサークルに入らないかと誘う。それは釣りサークルだった。めざしはとりあえずいじめられないように逆らわずに椎羅に従う。

 

椎羅の家は釣具屋で、そこで一式をもらい、凪と三人でまずは練習に近くの灯台のそばの入り江に向かう。そこへ後からメンバーの明里がやってくる。これでアングラーメンバーが揃ったのだが、実は明里は椎羅のことが好きだった。椎羅とめざしがアイスクリームを交換しただけで、嫉妬してしまう純真女子の明里。

 

それから、見よう見まねでめざしは椎羅ら釣りをする日々が続き、ガシラ釣りでめざしは四人の中で一番大きいのを釣ったりする。次第にめざしも心を許しかける。そんなめざしに凪が前の高校でのSNSのアカウントを見つけてしまい、いじめられていたことを知る。しかし、ここではそんなことはないからとめざしに言う。夏休みを目前にし、椎羅たちは鱚釣りに行くことを決める。めざしは釣り方を勉強して、仕掛けを買いに椎羅の店に行く。そこで椎羅に、少し練習しようと言われる。

 

入江で練習していた椎羅とめざしだが、めざしがいつまでも受け答えが固いのを心配して、冗談をして気持ちをほぐそうとするが、それがかえってめざしの心を閉ざしてしまい、結局、鱚釣りの計画が流れる。それからめざしは家に篭るようになる。スマホの電源も切って連絡を断つめざしに椎羅たちも心配するが、しばらくそっとしておくことにする。

 

椎羅は、鱚を七十七匹釣って願掛けしようとして、熱中症に罹りかけ倒れてしまう。しばらくスマホを見ていなかっためざしがスマホを開くと、そこには、前の学校のSNSでは、いじめの言葉が並んでいたのに、今度の画面には心配している旨の書き込みばかりだった。この対比シーンがまずうまい。

 

そしてその書き込みの最後に、椎羅が倒れたと書かれていた。めざしはようやく目が覚め、母親に「友達のところに行く」と叫んで病院へ走る。椎羅たちとカラオケに行った時の盛り上がりの思い出が一気にめざしの心に浮かぶ。駆けつけた病室、明里も凪も待っていた。みんなを前にして、めざしは、前の学校でいじめにあっていて、ふとしたことで友達にいじめられるようになるのが怖かったと胸の内を曝け出して告白する。この長台詞シーンも上手い。

 

そして、四人、漁船に乗せてもらい、沖釣りに出かける姿があった。たまたま双眼鏡で岸を見ていためざしが、いつも連れて行ってくれるおじさんが椎羅の母に告白して成功する場面を目撃、そして、かねてから冗談半分に言っていた、いつかマグロを釣りたいというめざしの言葉が、嘘か誠か現実に釣り上げたかのショットで映画は終わる。

 

明里の椎羅へのほのかな恋心も余計な深みに入るようなことをせず、思春期の心の揺れ程度でとどめ、それでもさりげなく切ないシーンを挿入、めざしの気持ちが変化する瞬間のシーン作りも絶妙で、とにかく心地よく映画を締めくくってくれます。本当の友情にようやく気がついためざしが涙を流す細かい演出も上手い。傑作とか秀作とかまで行かなくても、素朴な青春映画というさりげなさがとってもキラキラ刷り一本でした。