くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「豚が井戸に落ちた日」「海流」

「豚が井戸に落ちた日」

四人の男女の物語が最後に交錯してまとまるというホン・サンス監督らしい一本。何気ない場面のあちこちに伏線を貼られた画面作りの面白さは楽しいのですが、いかんせん韓国の人の顔立ちがわかりにくく、しばらくは混乱してしまった。それでも四つの暗転で展開する物語はなかなかでした。ホン・サンス監督デビュー作である。

 

三流の小説家であるヒョソプが家を出る場面から映画は幕を開ける。出先で隣の人が家庭菜園しているみかんをちぎって食べ、出版社へ行く。実は彼は人妻のポギョンと不倫関係にあった。ポギョンにはサラリーマンの夫ドンウがいたが、仕事の先々で約束を反古にされたりしてどうにもうだつが上がらない。ホテルにデリヘルを呼んでSEXをするが、コンドームが破れ、潔癖症の彼は病気を心配して病院で検査したりする。

 

病院へ行くドンウをたまたま見かけたポギョンは病院で、ドンウが何の治療に来たか聞くが答えてくれない。映画館の女性職員のミンジェはヒョソプの文章に感激する女性で、映画館の仕事だけでは飽き足らず、声優のアルバイトを見つけてくるが、アダルトアニメの声をして欲しいと言われ逃げ出す。ミンジェが切符売りをしている映画館の職員ミンスはミンジェに片思いだが、どこか異常なところがある。

 

映画は四人の物語を順番に描いていって、最後に、ポギョンは何度もヒュソプの家を訪ねるが応答がなく、窓から覗くが中からミンジェの振り向く顔が挿入された後、ミンジェは思い余ってヒョソプの家に忍び込んで殺人を犯したふうなカットへ続く。ポギョンは諦めてその場を離れ、家ではポギョンはドンウに体を求められて突き飛ばす。これまでのエピソードの背後と結末をまとめていって映画は終わる。

 

張り巡らされたヒントの絵が、見ていて楽しいのですが、一度見ただけでは全部見つけられたかどうかという感じの映画でした。これがホン・サンス監督の魅力なのでしょう。

 

「海流」

荒っぽい脚本と、ちょっと臭い演出の連続ですが、新田次郎の原作がしっかりしているので、筋の通った展開とやはり映画全盛期の華のある役者たちの名演技で、見ていて楽しくて仕方のない作品でした。監督は堀内真直。

 

台風接近で荒れた海で木の葉のように舞う一艘の船の場面、遭難の恐れが出て、通信士の豊野は他の乗組員を避難させ、自分は船に残る。船は転覆し、豊野は流れた木に捕まって一命を取り留め、通りかかった密輸船に助けられる。その密輸船には杉岡という船長が乗っていて、ヤクザ組織から豊野をかばい、沖縄の岸に逃してやる。本土では恋人の葉子が安否を心配していた。

 

豊野は沖縄で、新聞記者の新城と知り合い、彼が片思いの実業家の娘節子と知り合う。やがて節子と豊野は愛し合うようになる。豊野は沖縄で杉岡と再会、密輸船のことを口外しないという約束を確認し、本土に逃してもらうことになるが、豊野が生きていると知ったヤクザ組織が豊野の命を狙っていた。杉岡は豊野の戦友でもあった。杉岡の手筈で豊野は本土への密航船に乗るが、杉岡はヤクザに撃たれて死んでしまう。直前、本土の妹への託けを渡す。

 

本土へ戻った豊野だが、葉子はすでに別の人と結婚していた。その頃、節子は沖縄民族舞踏の本土公演を計画して、新城に手伝ってもらい本土へやってくる。節子は豊野と再会し、葉子が結婚していることを知ってお互いの愛を確かめ合う。しかし、豊野は杉岡に託された妹小枝を見守る義務があった。しかし、小枝と出会い、小枝もまた豊野に惚れてしまう。しかし、節子の存在を知り、自暴自棄になってボーイフレンドのバイクに乗って疾走、追いかける豊野の前で事故で死んでしまう。

 

小枝が死んだことで、消えない蟠りができた節子は豊野との結婚を諦めようとするが、新城が小枝の日記を節子に見せ、小枝が節子と豊野の幸せを願っていたことを知って、二人はともに生きる決心をして映画は終わる。

 

かなりの無理矢理感のある展開ながら、やはりスターがスクリーンに存在するだけで、映画というものを楽しめる。この醍醐味はこの時代の作品でないと経験できないかもしれません。