くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ほつれる」「シブがき隊 ボーイズ&ガールズ」「の・ようなもの」(秋吉久美子版)

「ほつれる」

なんともめんどくさい映画だった。遠回しにしか会話をしない文則、潔さのない綿子、そして、どう物語に関わるのかわからない脇役の面々、小道具である指輪もどこか適当感があって弱い。男と女の微妙な心の交わりとすれ違いを自分なりの解釈がまとまらないままに映像にした感じの映画だった。監督は加藤拓也。

 

綿子が夫に声をかけて旅行に出かける場面から映画は幕を開ける。綿子と文則は冷めた夫婦生活をして久しくなっていた。綿子が列車に乗ると、先に木村が乗っていた。綿子と木村は不倫関係で、これからグランピング旅行に出かけるのである。

 

現地につき、心地よい会話を交わしながら楽しくしごす二人だが、どこか落ち着いた演出を施している。木村は綿子にペアのリングをプレゼントする。やがて一泊の旅行が終わり、駅で別れた二人だが、綿子の目の前で木村は交通事故に遭う。綿子は一旦119に電話しようとするが切ってしまう。しばらくして木村が亡くなったことを知るが葬儀にも出向かなかった。

 

後日、綿子は友人の英梨と旅行に出かけ、山梨の木村の墓参りに向かう。英梨と木村は仕事の同僚だった。墓参りの途中、木村の父哲也と遭遇する。墓地で綿子は文則から電話を受けるが、文則は執拗に問い詰めてくる。自宅に帰った綿子だが、文則にはっきりしたことは言わず、綿子も詳細は語らない。文則はマンションを出て一戸建てを買おうと言う。

 

記念日に文則から財布をもらった綿子は、木村にもらった指輪を無くしているのに気づく。そして、一人山梨へ向かい、通った店を周り、木村の実家にもいくが哲也に関係を問い詰められてしまう。綿子は木村の妻依子に呼び出され会うが、お互いを話しただけだった。

 

家に戻った綿子に、文則は部屋で見つけた指輪を見せて問い詰めてくる。綿子は木村のことを話す。文則も過去に不倫したことがあり、綿子との関係も不倫から発展したものだった。ひとしきり言い争った末、離婚を現実に考えようと話す。綿子は木村の死を初めて実感し涙し、会いたいと叫んでしまう。そんな綿子の手を文則は握り、離婚はしたくないと寄り添う。翌朝、荷物を持った綿子は、車に乗り彼方に走り去って映画は終わる。

 

起伏のない展開と、遠回しなセリフの応酬、登場する脇役の存在感の意味などがどれも曖昧ではっきりせず、映画全体にメリハリが見えない。結局自立しない男女の甘い不倫遊びの映画かという感じで、映像はそれなりに美しいのですが、70分余りの作品なのに、妙にダラダラ感じてしまいました。決して駄作ではないのですが、好みの映画ではなかった。ただ、この監督の前作よりは良かった。

 

「シブがき隊 ボーイズ&ガールズ」

典型的なシブがき隊のアイドル映画なのですが、テンポがいいのか全然退屈せずに見ることができました。これが映画作りの才能があるかないか、感性がいいかどうかということだろうと思います。監督は森田芳光

 

夏休み直前、全寮制の高校の高校生の三人の男子=シブがき隊が、寮を抜け出して、ヒッチハイクで近場へ旅行に出かける。行き着いた旅館で財布を無くして帰れなくなり、旅館でバイトをして宿賃を払うことにする。旅館の娘とその友達二人と仲良くなった三人は、滞在中青春を謳歌し、いつのまにかそれぞれが惹かれあって恋に落ちる。やがて三人は帰ることになるが、最後の夜、旅館の娘は、財布を拾ったけれど帰って欲しくないので返さなかったと告白する。夏休みの再会を約束して女子高生は駅で三人を見送って映画は終わる。

 

本当にたわいのない話で、別荘のオーナーのセクシーな女性と知り合ったり、コミカルな展開を挿入しながら。ひとときの恋の始まりをみずみずしいタッチで描いていく。森田芳光得意の色彩演出で色とりどりに画面を覆い、軽いエピソードを重ねながらのテンポいい物語は、ついつい素直に楽しんでしまいます。決して傑作とかそういうものではないけれど、心地よい一本でした。

 

「の・ようなもの」

恐ろしいほどいい映画ですね。主人公はいるものの特定せずに展開する群像劇の装いで描かれる物語ですが、散りばめられるコミカルなショットと、切ないほどに染み渡る青春ドラマの物悲しさがたまらない情感を映画全体に与えてくれます。さりげなく登場する個性あふれる脇役の数々も微笑ましいし、映画全体のリズム感、物語構成の面白さは天才的というほかありません。本当に素敵な映画でした。監督は森田芳光。デビュー作である。

 

落語家の卵の志ん魚は、志ん米ら兄弟子たちにカンパを受けて初トルコに送り出してもらうところから映画は幕を開ける。志ん魚が飛び込んだ店で出会ったのは、気のいいトルコ嬢エリザベスだった。志ん魚のことがすっかり気に入ったエリザベスは志ん魚を食事に誘い、二人はそれとなく付き合い始める。エリザベスの部屋へ誘われた志ん魚は、彼女が洋書を読むほどのインテリだと知って驚く。

 

そんな頃、女子校の落研から指導に来てほしいと言われ、師匠は志ん魚らに教えにいくように言う。そこで志ん魚は、落研の部長由美に心が惹かれやがて二人は付き合い始める。エリザベスに由美とのことを告白した志ん魚に、エリザベスはバレなければいいじゃないのと付き合いを続ける。まもなくして志ん米の真打昇進が決まる。先輩の昇進を喜ぶ志ん魚だが、由美の家で落語を披露した際、由美にもへたくそと言われ、やや心が複雑になっていた。由美の家の帰り、深夜の街を彷徨う志ん魚のシーンがずば抜けて素晴らしい。

 

複雑な思いのまま志ん魚はエリザベスの部屋を訪ねるとエリザベスは雄琴にいくことを決めたと言って荷造りをしていた。志ん魚は寂しさを堪えて荷造りを手伝う。そして志ん米の昇進パーティの夜、大騒ぎしながら、志ん魚ら仲間は将来の夢を語り合う。こうして映画は終わっていく。

 

なんとも言えない堪らない感動に浸る一本で、さりげなく挿入される脇役のコミカルなショットと、主人公志ん魚の心の変化の切なさがどうしようもなく胸に迫って来ます。とっても素敵な青春映画の傑作でした。