くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「月」「シック・オブ・マイセルフ」

「月」

圧巻、人間の本音に刃物を突き立てるかの如くストレートにテーマを描く一方、シンプルな物語に、それに対する微かな反論を垣間見せる。芸達者な役者たちの演技合戦もすごいが、アニメを交え、映像テクニックを駆使したカメラワークで語る演出に引き込まれてしまいました。監督は石井裕也

 

夜空の三日月があり、瓦礫の中を歩く洋子の姿から映画は幕を開ける。東日本大震災直後らしい。画面が変わると、洋子は夫昌平と朝食を食べようとしている。向かいに座ろうとする夫を拒否する洋子。どうやら二人には生まれつき心臓に障害のある子供がいて三歳で亡くなった過去があるようで、二人はいまだにそれをひきづっている。洋子はかつてベストセラーを書いた作家だが昌平はストップモーションアニメで夢を追いかけていた。

 

この日、森の奥にある障害者施設の臨時雇用されることになった洋子は職員に迎えられる。同じ女性職員は陽子と言って、幼い頃父の厳しい躾をされたが、その父は今は不倫しており、そんな父を母は容認している。そんな家庭を不満に思っていた。洋子はまず、寝たきりで身動きのできない障害者きーちゃんを紹介され愕然とする。若い職員で、真面目に障害者に紙芝居を見せようと頑張るさとちゃんもいた。

 

正職員らは、半ば虐待のような対応を障害者にとり、そんな様子を複雑な思いで洋子は見つめる。息子が亡くなってから新作を書けなくなった洋子は陽子やさとちゃんと付き合うようになり、自宅に呼んで昌平とも親しくなる。何事も生真面目に仕事をするさとちゃんは、先輩職員からいじめに遭い、せっかく作った紙芝居を破られてしまう。

 

そんな頃、洋子が夜勤の日、一人の患者の物音に陽子とさとちゃんが駆けつけると、糞尿まみれになって自慰をする老人の障害者を見てしまう。あまりのショッキングな場面に言葉がない三人だが、さとちゃんはこの辺りから障害者に対して敵意を持つようになる。彼には聾唖者の恋人がいたが、施設の障害者の中で言葉も喋らない心のない存在は生きる価値がないという信念を持っていた。そして、いずれ自分が世の中のために障害者を殺すつもりだと洋子に告白する。

 

そんな時、洋子は妊娠していることがわかる。また障害のある赤ん坊が生まれるのではという不安から、出産前診断をするかどうか昌平と相談することになる。あの夜の事件以降、洋子は再び執筆を開始、昌平も応援するようになるが、さとちゃんはとある議員に自分の考えを示す手紙を送って精神病院で治療を受けることになる。二週間してさとちゃんは出てくるが、彼は障害者殺害の計画を実行に移す準備をはじめる。

 

一方、昌平のアニメはフランスの小さな映画祭で入賞、間も無くして洋子の小説も完成する。そして二人が出産前検査をするかどうか結論を出す日が迫る。それは二人が回転寿司屋で出会った日だった。回転寿司屋で食事をする二人の前にあるテレビに、さとちゃんが施設で大量殺人を起こした事件が報道される。昌平はこれからも洋子が好きだと言い、洋子も昌平に好きだと答えて施設へ向かう。こうして映画は終わる。

 

見事な作品ですが、思い返してみると、若干の穴があるように思います。果たして陽子はどうなるのか、洋子ときーちゃんと母とのエピソードは必要だったか。二時間半近くの長尺にする必要があったかどうか若干の疑問が残る作品でしたが、オモチャのカットで子供の存在を表現したり、突然スプリット映像で会話する二人を挿入したり、斜めの構図を取り入れたりと映像を駆使した演出はなかなかのものでした。

 

「シック・オブ・マイセルフ」

なんとも気持ちの悪い映画だった。顔を崩していくという表現形態は別として、主人公の心がとにかく気持ちが悪い。監督はクリストファー・ボルグリ。

 

レストランで高級ワインをシグネの恋人トマスが注文するところから映画は始まる。シグネの誕生日という設定で、高級ワインが持ってこられるが、トマスはシグネに電話をするふりをして外に出るように言う。そして、トマスはワインを盗んで飛び出す。しかし、追いかけてきたレストランの給仕はシグネに目もくれず戻っていく。シグネがカフェで仕事をしていたら、犬に噛まれた女性が転がり込んでくる。思わず助けたシグネは、血だらけになり、そのまま家に帰る。シグネにとっては、注目を浴びるのが快感だった。

 

トマスは高級家具を盗んでは話題の人になり、雑誌の表紙を飾っていた。トマスは人気が出るに従ってシグネに関心を示さなくなり、パーティでもシグネは蚊帳の外だった。シグネは食物アレルギーがあると嘘をついて注意を引こうとするが一時的なものだった。シグネは薬物の輸入をしている友人に頼んでロシアの違法薬物を輸入してもらう。その薬は皮膚がただれる副作用があるとネットで知ったためだ。

 

過剰に飲み続けたシグネの顔はみるみる崩れ始め、それが謎の病気だと騒がれ始める。トマスの話題をさらって時の人になっていくシグネだが、飲み続けた薬の影響で顔だけでなく様々なところに副作用が出始める。友達も離れていき、彼女を記事にしようとする女性が唯一近づいてくる。やがてファッションモデルの話も出て、シグネは望んだように話題を攫い始めるが、とうとう体が言うことを聞かなくなる。シグネは雑誌の記者に全てを話し、セラピーで自らを曝け出す。彼女が執筆した本はベストセラーになる。こうして映画は終わる。

 

嘘をついて気を引こうとする歪んだ心を赤裸々にホラータッチで描いた感じがどうにも気持ちが悪く、解説にはコミカルに描いたとされているが、なんとも言えない嫌な映画だった。