くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」

「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」

映画としてのクオリティはテレビスペシャル以下の出来栄えだったかもしれないし、演出も時代考証も、キャラクタ描写もひと昔もふた昔も前の物とは言え、こういう題材は定期的にちゃんと作るべきだと思います。物語はシンプルなので、素直に涙ぐんでしまいました。それでいいのではないかと思います。監督は成田洋一。

 

いかにも反抗ばかりしている女子高生百合は、この日学校での進路面談だった。そこへ、仕事を終えて母が駆けつけてくるが、鮮魚店で働いているのか百合は母に魚くさいと呟いてしまう。担任の先生は、百合の成績なら進学も十分というが、母一人子一人の家庭で、百合は半ば諦めている。家に帰っても、父が、溺れる子供を助けに飛び込んで死んでしまったことに悪態をついてしまい、母と大喧嘩して家を飛び出す。ここまでのオープニングはいったいいつの時代の物語かと呆れてしまいます。

 

雨の中飛び出したものの行き場もなく、たまたま近くにあった防空壕跡に入っていく。戦後七十年以上経って、いまだに防空壕跡があるのかという非現実的なところはともかく、百合はそこで眠ってしまい、目が覚めると目の前は田園風景に変わっていた。すっかり様変わりした街を彷徨ううちに暑さで倒れてしまい、通りかかった彰という青年に助けられ、近くの鶴食堂へ連れて行かれる。そこは陸軍航空隊兵士用の御用食堂だった。百合はそこで今が1945年6月だと知り飛び出すものの、行くあてもなく鶴食堂に戻ってくる。そして食堂の手伝いをするようになるのですが、あまりに展開が雑である。

 

この食堂には彰以外に青年兵が集まり、板倉、寺岡、加藤、石丸らと知り合う。彼らは皆特攻隊で出撃を待っていた。鶴食堂に出入りする魚屋の千代とも親しくなる。戦況はますます悪化しこの街も空襲で焼かれてしまうが、その際、百合は崩れてきた木材で動けなくなり彰に助けられる。彰は百合を故郷に残してきた妹のように可愛がるが、それは次第に愛に変わっていく。そして、近くの百合の群生地に彼女を連れていく。二人は恋愛関係になっていくのだが、この心の変化が全く描けていないので、上滑りの展開になっているのがいかにも弱い。

 

やがて、彰らにも出撃の命令が降るが、故郷に許嫁を残してきた板倉は逃げてしまい、仲間は彼を送り出してやる。石倉と恋仲の千代は石倉に自分の分身の人形を贈る。百合は出撃を見送れず店に残っていたが、鶴がいつも出撃する兵士の手紙を預かっていた文箱を落とし、そこに彰から百合宛の封書を見つけて慌てて飛行場へ向かう。そして彰を見送った百合はその場に突然倒れ、気がつくと防空壕跡だった。

 

家に帰り、母に、教師になりたいから大学に行きたいという。それは彰が教師になりたいと言っていた事の夢を叶えるためでもあった。学校ではこの日社会見学があり、戦争記念館のようなところへ行く。そこで百合は、板倉が特攻に行かなかったこと、石丸達の手紙の陳列の中に、彰が百合宛に書いた封書を見つける。そこには、百合を愛していたこと、幸せに暮らしてほしいことが書かれていた。その場に泣き崩れる百合の姿、特攻隊の視線での雲のカットで映画は終わる。

 

タイムスリップしたことに関しては一切触れずに、シンプルに、戦時中に行ってしまった女子高生が特攻隊の青年と出会うという儚いラブストーリーのみを全面に出した作りは流石に雑というほかないし、しっかり演技もできる役者を揃えずに、しかも演技演出も、ドラマ演出もさらりと流しただけの作りなので作品自体は恐ろしいほど薄っぺらいが、こういう題材はやはり年に一度は作るべきではないかと思います。