くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ニューヨーク・オールド・アパートメント」

「ニューヨーク・オールド・アパートメント」

もっとほのぼのしたヒューマンドラマかと思っていたが、思いの外辛辣で、しかもどこかおかしい作品でした。不法移民でアメリカに来た家族の厳しい現実の中で出会うさまざまな出来事を掘り下げた展開で描いていくのはわかりますが、あくまで不法移民であること、そして関わった一人の娼婦の犯罪行為をさりげなく流した終盤、さらに、もう一度アメリカの戻ろうとする主人公二人の行動での締めくくりが、疑問につながる作品だった。心温まるものもないし、と言って現実を直視したメッセージも見えない。解釈を履き違えると、この映画を勘違いしてしまうように思える映画でした。監督はマーク・ウィルキンス。

 

保険局による閉鎖の張り紙のあるアパートの一室にラファエラとその友人が入っていく。そこは雑然と散らかされた部屋になっている。こうして映画は始まる。場面が変わると、ティトとポールの二人の若者がレストランのデリバリーのバイトをしている姿へ移る。美しい母のラファエラはレストランで働き、出会った男性を自宅に誘っては売春まがいの仕事もして生計を立てている。

 

そんな母の姿も認めざるを得ない現実で生きるポールとティトは英語学校に通っているが、教師は二人を無視している。その教室に金髪でセクシーなクリスティンという女性が入ってくる。一目で惚れてしまったティトたちは、授業で隣の人と話す機会を得てクリスティンに話しかける。クリスティンはすぐにティトとポールが気に入り公園へ連れ出す。こうして三人の友情か恋愛か不思議な交流が始まる。

 

ラファエラは、レストランで知り合ったエドワルドという男性に誘われ、デリバリーのブリトーショップを開業する。場面が変わり、ラファエラは、友人にある記事を見せられている。それはクリスティンが逮捕された記事だった。クリスティンは路上で売春をして生活していた。ラファエラは友人の娘の身分証を借りてクリスティンの留置所へ面会に行き、ポールとティトの行方を聞く。時間を前後させて描いていく作りだとこのあたりからわかってくる。

 

クリスティンの客は普通の男はいないところから、かなり下層の売春婦だとわかる。彼女の恋人は今刑務所に服役中だった。ポールとティト、ラファエラはペルーからの不法移民で、肉の輸送船に隠れてニューヨークに来たのだ。ラファエラは、エドワルドとデリバリーショップを開業するが、最初は苦戦だった。しかし軌道に乗り始めるとエドワルドはラファエラら家族をあごで使うようになっていく。

 

ある時、クリスティンは刑務所の恋人が出所する情報を聞き、嬉々として刑務所へ向かうが、迎えたのは男の子供と妻らしい人物だった。すっかり騙されたと知ったクリスティンは落胆してニューヨークに戻る。ティトとポールはクリスティンに誘われモーテルに行く。彼らとSEXをしてあげる代わりに、自分のことを聞かれたら、良い人だったと答えるようにと約束させる。

 

次第に強行的になっていくエドワルドと喧嘩したラファエラは、夜の街にティトとポールを探しに出る。かつて勤めたレストランなどに立ち寄るも見つからない。自宅に戻ってみると、無届の飲食業をしていたとエドワルドが逮捕される現場を見る。ティトとポールは、クリスティンが逮捕された騒ぎの現場に出くわす。そこで警察に事情聴取されるために連行される。クリスティンは、裏切られた恋人をナイフで滅多刺しにして逮捕されたらしかった。しかし、事情聴取を受けるポールとティトは不法移民であることがバレて逮捕され強制送還されることになる。

 

ラファエラは、ポールとティトの行方を探していたが、警察はラファエラにも迫っていた。同じように生活する人に助けられたラファエラは、友人のレストランで働くようになる。一方、ティトとポールはペルーに戻されたが、生活の術はなく乞食同然の毎日を送り始める。自宅も叔父という男に乗っ取られ行き場もない二人は、小銭を恵んでもらって、ラファエラに電話をし、無事を報告した後、再度アメリカに戻るべくヒッチハイクする姿で映画は終わる。

 

移民たちの現実を掘り下げた分厚いヒューマンドラマに一見見えるが、どこか不協和音が鳴っている気がして、まるで、不法移民して来た人たちが正当で、彼らを蔑んでいるのが悪者であるかの視点が見え隠れする。その偏見が最後まで違和感を感じさせて、素直に心温まるヒューマンドラマと感じられない映画でした。