くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「パラダイスの夕暮れ」

「パラダイスの夕暮れ」

一切の余計な描写を排除し、研ぎ澄まされたエッセンスの塊の中にさりげないユーモアとセンスの良い曲、落ち着いた色彩演出で魅せる素朴なラブストーリー、これという仰々しい感動などはないのですが、ラストシーンがとっても粋なのが素敵な一本でした。監督はアキ・カウリスマキ

 

ごみ収集業者のトラック倉庫にやってくる従業員たちの場面から映画は幕を開ける。主人公ニカンデルもその一人だった。L L教室で英語を勉強し、ビンゴに興じるだけの平凡な毎日、この日、職場の先輩が独立するから手伝って欲しいと言われる。その帰り、自分の車の不調でエンジンを触って怪我をしたままいつものスーパーに行き、レジの女性イロナと知り合う。

 

これという望みもない毎日だったニカンデルは、先輩の申し出を快く承諾、ようやく自身の未来が見えてきたと心なしか喜んでいたが、その先輩が仕事中突然心臓麻痺で亡くなってしまう。せっかくの希望が見えてきたニカンデルは落胆し、バーで飲んで大暴れして留置所に入れられる。そこでメラルティンという男と知り合う。ニカンデルは、先輩の後釜に彼を職場に紹介し一緒に仕事をするようになる。

 

ニカンデルは以前から気になっていたイロナをデートに誘うが、いつもいくビンゴに連れて行きイロナに嫌われてしまう。そんなイロナは突然職場を首になり、その腹いせに事務所の手提げ金庫を盗んでニカンデルの部屋に転がり込む。ニカンデルはイロナとレストランに行き、ホテルをとってやるが、イロナが盗んできた金庫は返したほうがいいと勧める。ニカンデルは金庫をスーパーにさりげなく返却するがその頃イロナは警察に捕まっていた。しかし金庫が返ったことで釈放される。

 

イロナは、洋品店に勤めるようになり、ニカンデルはしばらく充実した日々を過ごすものの、イロナは洋品店の店長から、ニカンデルを店にこさせないように言われたりする。メラルティンは自身の妻とニカンデル、イロナで映画を見に行こうと誘うが、結局イロナは来ず、まもなくしてイロナはニカンデルの部屋を出ていく。

 

ニカンデルはすっかり落ち込んでしまうもののメラルティンの励ましもあり仕事を続ける。一方、イロナも洋品店の店長との日々に物足りなさを感じニカンデルへの未練が燃え上がり始める。イロナは店長とレストランでデートをするが、結局その場を立ち去り、ニカンデルの部屋にやってきますがニカンデルは戻ってこなかった。その頃、ニカンデルは暴漢に襲われ、ゴミ置き場のそばで気を失っていた。翌朝ごみ収集人に発見され、病院へ入院する。見舞いに来たメラルティンにニカンデルは突然、着替えを要求し、イロナの職場へ向かいます。

 

ニカンデルは店長に邪魔されるが、イロナに新婚旅行に行こうと誘います。行先はタリン、食べ物は毎日イモになると迫る。そんなニカンデルにイロナはついて行く決心をする。外ではゴミ収集車で待つメラルティンがいた。メラルティンは二人を港に送って行き、ニカンデルとイロナは船に乗り込む。船がどんどん遠くに消えて行き映画は終わる。

 

たわいない物語なのにセリフの一つ一つが不思議な程にユーモアがあって、思わずニヤッとしてしまうのですが、その底にあまりにも不器用でピュアな男と女の物語、さらに労働者の生き方の機微が見え隠れするのがとっても良い。赤、青、黄色の色彩が落ち着いた処理で画面を彩り、挿入される楽曲の軽快なテンポが映画をリズミカルに運んでいく。素敵な一本というのがぴったりの映画だった。