くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ボブ・マーリー ONE LOVE」「ありふれた教室」

ボブ・マーリー ONE LOVE」

丁寧に演出された画面と、一人のミュージシャンをまっすぐに描いた演出がとっても好感な音楽映画でした。散りばめられたボブ・マーリーの音楽がとっても良いし、それを聞いているだけでも値打ちのある作品でした。監督はレイナルド・マーカス・グリーン。

 

主人公ボブ・マーリーの息子のナレーションから映画は幕を開ける。1976年二大政党の対立はジャマイカ国内を内戦状態にするほど熾烈を極め、銃撃戦も当たり前のような様相になっていた。ジャマイカが産んだレゲエ音楽の大スターボブ・マーリーは、平和を願うためのコンサートを企画するが、快く思わない過激な若者たちは、ボブの自宅を襲撃、妻のリタに重傷を負わせてしまう。それでも、コンサートを開催したボブだが、コンサート中銃撃され、国内にとどまることは不可能と判断し、スタッフ達とロンドンへ旅立つ。

 

やがてボブ・マーリーはヨーロッパツアーでみるみる世界的スターの座を駆け上がり、妻も呼び寄せて、コンサートツアーを続けていくが、ジャマイカ国内では、さらに内戦状態が厳しくなり、何とか戻ってきて欲しいという依頼が来るもボブは断る。そんなある日、足の親指に異変が見つかり皮膚がんだと診断される。親指を切断したほうがいいと言う医師の提案を無視してコンサートを続け、1978年、ジャマイカに戻ることを決意する。

 

ジャマイカに戻ったボブ・マーリーは大歓迎を受け、久しぶりのコンサートは大盛況、さらにコンサート中に二大政党の党首同士を握手させて平和のために歌う。こうして映画は終わり、テロップで、ボブ・マーリーは36歳で亡くなったと語られ、実際の映像が挿入されながら映画は終わる。

 

描かれるボブ・マーリーの姿に、少年時代や妻リタと知り合った頃の物語をさりげなく挿入した人物描写がとっても心地よいリズムになり、背後の楽曲のテンポと相まって映画が清々しく仕上がっています。ジャマイカの宗教的な言葉も出てくるのですが、それほど混乱することもなく素直に受け入れられるのもいい。良質の作品でした。

 

「ありふれた教室」

社会の縮図として見るのかどうかはともかく、人間ドラマの部分は実にしっかりリアリティ十分に描かれているし、緊張感が半端なく持続するし、ドラマ性の面白さも、たわいない展開なのにカメラワークが絶妙で、観客をスクリーンに釘付けしてしまう迫力がある。ラストシーンをどう解釈するのかは難しいかもしれないが、相当な映画だった。アカデミー賞ノミネートは納得である。監督はイルケル・チャタク。

 

暗闇の中に聞こえる授業風景から、カーラのクラスでどうやら盗難事件が起こり、校長やカーラ、同僚のリーベンヴェルダ先生らが学級委員の生徒を呼び出して、クラスで怪しい人物を探そうとする場面から映画は幕を開ける。この学校に赴任してまだ日が浅いカーラは、この対処に疑問を感じるが、学級委員が先生に促されて名簿にペンで合図したことから、一人の移民の両親を持つアリが呼び出される。しかし、アリが持っていた金は、両親が、アリが友達にプレゼントするコンピューターゲームを買うお金であることが判明し、疑念が晴れるが両親は納得しなかった。

 

ある日、カーラは職員室で、自分のパソコンの撮影機能をONにしたまま、上着の財布をわざと残して体育館の授業に出る。戻って見ると案の定、財布から金がなくなっていて、パソコンの動画に写っていた星柄のワンピースから、事務員のクーンだと判断し問い詰めるが、クーンが白状しない。そこでカーラは校長先生に相談する。校長はクーンに直接問い詰めたことからクーンは無実を訴えた上逆上して帰ってしまい、そのまま休職してしまう。カーラは自分のしたことを後悔するが、クーンはカーラのクラスで優等生のオスカーの母親でもあった。

 

リーベンヴェルダらは警察沙汰にしてはっきりさせたほうが良いと言うがカーラは躊躇う。そんな中、先生らが危惧していたことが少しずつ父兄に漏れることになり、PTAへの修学旅行の説明会の場でカーラは糾弾されてしまう。そして、教室ではカーラの授業をボイコットし始め、オスカーは泥棒の息子と言うことでいじめを受け始める。カーラはオスカーと二人きりで話そうとするが、オスカーは自分の小遣いをカーラに提出、カーラが受け取らないので、オスカーはカーラを脅すような言葉を残して帰ってしまう。

 

オスカーの立場が危うくなり、それを打開しようとカーラは体育の授業で生徒に真摯に向き合ったものの、オスカーが突然飛び出し、カーラのカバンからパソコンを盗み、カーラを殴り倒して逃げ、パソコンを川に捨ててしまう。学校新聞では、これまでの経緯をそのまま記事にし、生徒たちは騒然とし始める。

 

そのことで、オスカーは修学旅行に行けなくなり、10日間の停学になってしまう。ところが、授業が始まると、オスカーは平然と授業に来たことから、カーラはリーベンヴェルダにオスカーを説得してもらう傍、残りの生徒と別の教室に移り授業を始める。そしてクーンに連絡をするも、クーンはオスカーが自分で帰らない限り説得はしないと電話を切る。

 

雨が降り始め、カーラはオスカーと二人きりになって説得し始める。窓の外に自転車に乗ったクーンの姿をカーラは認めるが、クーンは走り去る。オスカーは、カーラに貸してもらったルービックキューブを全て解いてカーラに返す。暗転から明転すると、学校の中、誰もいない空間をカメラが延々と映し、椅子に座ったオスカーを抱え上げて進む警官の姿で映画は終わる。

 

先生たちが同僚としてのカーラを対等に扱う姿、反抗するものの子供らしい優柔不断さを見せる生徒たちの姿、真相はあくまで隠したままにミステリアスに展開するストーリーなどなど、不可思議な中にリアリティを詰め込んだ脚本、そして学校の廊下を延々と捉えるカメラや、一点を凝視するようなショットの多用など、実に細かい演出が施された作品に仕上がっています。まるで王様を警官が担ぐかのようなラストシーンは何らかの象徴を見せているのでしょうが、凝縮された映像表現の秀逸さに圧倒される作品でした。