くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「マイ・ブラザー」

マイ・ブラザー

いい映画でした。オリジナルはデンマーク映画の「ある愛の風景」という作品で、そちらをみていないのですが、このジム・シェリダンがリメイクしたアメリカ版は本当にすばらしい一本でした。

主人公サム(トビー・マグワイア)は本当に優しくて典型的ないいお父さん。かわいい娘に囲まれ優しくて美しい妻と生活をともにしている。少々へんこな父親もいるが、サムが誇らしくてたまらないどこにでもいる父親である。
そこへ、サムの弟トミー(ジェイク・ギレンホール)が銀行強盗を犯したことで服役していた刑務所から出所してくる。入れ替わりにサムはアフガニスタンへ出征。

物語の導入部としては非常に静かで、美しい画面づくりと落ち着いた音楽が絶妙のハーモニーでこの作品に引き込んでくれます。映画が始まってすぐの海兵隊の基地での国旗をあげるシーンから先ほどの冒頭のシーンまでが上品な映像で紡いでいくジム・シェリダンの演出は秀逸です。

そして出征したサムの訃報、それに続くトミー、妻グレース、父、娘たちの心の変化していく様子。一方でアフガニスタンで拉致されたサムたちの厳しい状況とが交互に描かれて、次第にそれぞれがそれぞれの境遇の中で変わっていく様がみごとに画面から伝わってきます。

できの悪い弟のトミーを疎んじていた父が次第に理解し始め、失意の中に沈むグレースや子供たちに必死で支えようとするトミーの姿がほほえましいほどに、また切ないほどに暖かい。
しかし、現実の厳しさが、彼らに覆い被さってくるのが、サムが拉致された現場で命を取るか、人間としての尊厳を捨てるかを選択させられ、部下を殴り殺した後、救出されて帰還してからの展開である。

PTSDで不安定な精神に陥ったサムの姿に悲しみを隠せない妻、そしてトミーにすっかりなついてしまった娘たちがサムを恐れ、もう死んでしまった方がよかったとまで叫んでしまうシーンは何ともいえないほどにひしひしとした感情が伝わってきます。
美しい雪の季節のシーンが頻繁に挿入され、アフガニスタンでのシーンさえもが芸術的なまでに美しい景色が演出されているので、かえって、登場人物の心のすさんでいく姿と次第に和んでいく複雑な絡み合いが何とも対称的に胸を打ってきます。

限界までいったサムはとうとう病院へ入院することに。出征前に妻に託した遺書をグレースが読み、面会に行ったサムと抱き合ったところで、サムがどうしても口に出せなかったアフガニスタンでの殺戮を言葉にして涙を流すラストはすばらしかった。

ナタリー・ポートマンの演技はさらに磨きがかかってきたし、「スパイダーマン」ばかりのイメージを捨ててこうした秀作に主演したトビー・マグワイアもすばらしい演技でした。もちろん、弟を演じたジェイク・ギレンホールも見事。
画面、音楽、脚本、演技、どれもがレベルの高いいい映画でした。