くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「カラフル」

カラフル

日常のさりげない風景を描きながら、人間の素直な感情に訴えかけてくる原恵一監督の新作、今回は自殺した一人の少年が天国の入り口で不思議な少年に呼び止められ、再び現世にかえって自分の過ちに気づくまでを描いたある意味ヒューマンな物語である。

前作「河童のクウと夏休み」で描いたどこにでもありそうな一夏の物語は今回は今時の家庭ならどこにでもありそうな親と子供の確執、すれ違い、受験、初恋、ふとした弾みの母親の不倫、などを織り交ぜて、家族にとって基本的に大切なものを丁寧な画面で描いていく。

天国の入り口にたつ少年の魂。サイレントの吹き出しで語られる疑問に答えながらもう一度現世に戻る手助けをするのが、妙な関西弁を話す少年プラプラ。
訳もわからず、自殺して病院で息を引き取った直後の中学生の体に入ってよみがえった主人公小林真は、今時のすねた中学生としてふつうの家庭に入って生き返ります。

両親に反抗しながら、再び学校へ行った彼の前に、一枚の書きかけの絵。一見、空に上っていく馬のように見えるけれども、同級生の唱子がこれは水のそこから水面を目指す様子じゃないかと解釈します。人間は様々な色、個性を持って生きています。たった一つの解釈が統べてではないことを見事に見せてくれるシーンです。

たまたま町で出会ったクラスメート早乙女と今は廃線になった路面電車の後をたどり、次第に友達というもののすばらしさにを認識し、今まで殺風景で気にしていなかった周りの風景や人々が実は様々なカラーに彩られていることに気がつきます。そんなある日、今風で援交さえしているクラスメートに、泣きながら自分は異常だ訴えられるところで、人はそれぞれ様々なカラーが存在するのだから君は君のカラーがふつうなのだと答えながら、自分がいつの間にか以前の自分から変わりつつあることに気がつき始めます。

物語の転換点やキーポイントで非常に美しい、つまりカラフルな背景を用いた監督の意図はストーリーの展開の中で物語を本当に色鮮やかなものにしてくれます。
父が息子を釣りに誘うところで背景に鮮やかな紅葉の山々が広がるシーン、冒頭の画面で黄色と緑の木が茂るシーンなどは典型的ですね。

日頃気にもとめない日常の毎日の中にこんなにカラフルな美しいものがある、さりげない自分の周りの人たちが気がつかないうちに自分のほうを向いてくれている。
題名のカラフルの持つ意味は気づかない美しい景色のみでなく、気がつかない周りの人たちの自分への愛情のことでもあるのかもしれません。

ラストシーン、天使の少年プラプラは学校の屋上に主人公を呼びだし、修行は達成されたから第二の人生を歩めることを告げます。結局、自殺した自分の体にもどっていたことに気づかされるラスト、そしてそんな試練に失敗し、自分の罪を見つけられなかったのがプラプラの姿だということが告白され、自分の記憶はすべて消える旨の説明がなされ主人公はその場に倒れます。

親友を得て、楽しく自転車でふざけながら走る姿、「生きてるかい?}というプラプラかららしいメールが届きますが主人公にはその意味がはかりかねます。こうして映画は終わります。
非常に静的なストーリー展開なのである意味退屈ですが、抑えた色彩の随所に見られる極彩色のカラフルなショットはこの映画のテーマを見事に表現していました。ただ個人的には「河童のクウと夏休み」の方がよかったですね